第4話 エッグポプリ作り

 いつもの『アロマ喫茶せせらぎ』での昼食時。

 その日みんなにシフォンケーキが沢山振る舞われた。

「今日はどうしたんですか?」

 尋ねる雫に、柏木はおかわりする秀人の皿に、シフォンケーキを乗せながら答えた。

「卵の殻が大量に必要だったもので。中の卵が沢山余ってしまい、シフォンケーキを作ってみました」

 柏木は秀人にシフォンケーキを乗せたあと、カウンターの棚からある物を取り出してみせる。

「今度、この卵の殻を使ったエッグポプリを作る体験を、開こうと思いまして」

 一部分、穴の開いた卵の殻を3人に見せた。

 聞くと、2週間後にやる予定で、その日は店を閉めるようだ。午前と午後の部に分けて、お客さんをそれぞれ各16名、合計32名でやるそうだ。

「チラシも出来たので、明日から配って下さい」

 柏木の話に茜が質問する。

「店長、エッグポプリってなんですかー?」

「そうですね、1個見本を作ってみたのですが……」

 柏木が棚を探して、茜にエッグポプリを手渡す。

「うわ、可愛いー」

「いい匂いがする」

「なんだか、イースターみたいですね」

 3人で交互に手に取りながら、それぞれエッグポプリの感想を言う。

 エッグポプリはその名の通り、卵にポプリを詰めた物のようだ。その開けた穴からいい香りがして、周りには布が張り合わされて卵の殻を隠し、てっぺんにはリボンがついていた。

「香り袋みたいな物ですね。もしくは芳香剤のような物です。作り方は簡単ですよ。まず卵の殻に穴を開けて中身を出して、殻を乾燥させます。そこにポプリを入れます。接着剤でレース布を穴に貼り、殻の周りを細かく切った布で、貼り付けていきます。あとはリボンをつけて完成ですよ」

 柏木の説明に茜が、

「ハンカチとか入れてるタンスに仕舞ったら、いい香りが移ってよさそうだね」

 エッグポプリの香りを楽しみながら、答えた。

「そうですね。他にもローズマリーやミントのポプリなら、防虫効果もあるので、クローゼットに吊したり、レモンなら消臭効果があるのでトイレに吊したりしても良いですね」

 柏木の説明に興味を持った茜が聞く。

「いいなーあたしもやりたいなー。店長、あたしたちの分もあるんですかー?」

 茜の声に柏木が答える。

「ええ、ありますよ。でしたら今日、皆さんの時間があれば、閉店後に作ってみましょうか?」

 柏木の提案に3人は「お願いします」と答えた。



 そうして午後の部が終わり、閉店後の夜8時。

 4人でエッグポプリ作りを開催する。

 喫茶店のテーブル席に、色々なポプリ、卵の殻、接着剤、レース布、リボンを用意した。

「香りってなにがいいかなー。目的別に作った方がいいですか?」

 尋ねる茜に柏木が、3人の様子を見ながら話す。

「好きな香りで選んだ方がいいと思いますよ」

「じゃあ、私はバニラにしようかな」

 柏木の言葉を聞いて、雫は決めた。

「バニラ、いいですね。甘く濃厚な香りでリラックス出来ますよ」

「じゃあ俺はオレンジとレモンにしよっかなー」

「柑橘系は気分をリフレッシュしてくれますよ」

 みんなで卵の殻に気に入ったポプリを詰めていく。

「次にレース布を使い、穴を塞いで下さい」

 レース布は網目状で香りを通し、ポプリは中から出ないようにするためのものである。

「あとは周りに細かく切った布を、貼っていって下さい」

「あたしは花柄にしよーかなー」

「俺はチェック柄ー」

「じゃあ私は、水玉にしようかな」

 3人は真剣に接着剤で殻に、布を貼り合わせていく。

「殻が見えなくなるように、貼って下さい。布を重ねると、綺麗に仕上がりますよ」

 柏木がコツを教えてくれる。




 そうして、それぞれリボンをつけて完成させた。

「わあー可愛い」

「いい匂いだなー」

「どこに飾ろうかな」

 3人が喜ぶ姿を見て、柏木も嬉しそうだ。

「では皆さん。今回のことを覚えて、2週間後にお客様にも教えてあげて下さいね」

 柏木の言葉に3人は「はい」と返事をした。

──

────

 次の日。

 2週間後という中で、お客さんが応募してくれるか少し心配していた雫だったが、ここ『アロマ喫茶せせらぎ』でそんなことは、心配無用だった。

 なぜなら、会計時に配ったチラシを見たお客さんが、その場で申し込みをしてあっという間に定員数の32名に達してしまったからだった。

 800円で体験出来るというのも、よかったみたいだ。

 もちろん、香奈も申し込んだ。後日、その体験を知った香奈が定員数に達しているのに、無理やり割りこんだのだった。

「香奈もやるんだからー!」

 お得意様なので、これには柏木も「もちろんですよ」と快く承諾した。

 そうして迎えた当日。

 喫茶店のテーブル席を利用して、17名のお客さんとエッグポプリ作りが始まった。

「綾女さーん。香奈、どの香りが似合うと思うー?」

 午前の部には香奈もいて、柏木は尋ねられて、

「そうですね。優雅でフローラルな薔薇はいかがでしょう?」

 そう答え、ずっと香奈につきっきりとなった。そのため、3人で他のお客さんの様子を見ることになる。

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