第2話 バイト仲間

 そして昼休みの午後2時。

「すみません、遅れました」

 大遅刻をした美波が、平然と店内に入って来て、みんながいる喫茶店の方に来た。

「美波さん、今日はどうされたのですか? 連絡がなかったので、心配しましたよ」

「すみません、寝坊しちゃって……」

 柏木の問いに美波は悪びれもせずに、訳を話した。

「あ、美味しそうですね。今日はオムライスですか」

 喫茶店のカウンター席に座り、ちゃっかりと昼食は食べる気のようだ。その姿にテーブル席に座る秀人と茜は、呆れ顔で雫に小声で話す。

「連絡なしで遅刻ってないわー」

「しかも昼食時にはしっかり来てるし」

 2人の文句に雫も納得ではあったが、宥めにかかる。

「まだ、2週間の子だから……」

「いや、遅刻は関係ないしダメだろ」

「そもそも遅刻なら連絡しないと」

 2人からダメ出しされているのも気付かずに、美波はカウンター席で柏木と楽しく話をしていた。



「では、午後もよろしくお願いします」

 柏木に言われて皆元気よく「はい」と返事をした。

 午後も大変な人混みだった。

 しかし雫と茜はすっかり慣れて、役割分担をしてお客さんの相手をしていた。

 ぽつんと残されて、1人ぼーとする美波に、茜は苛立ちを募らせた。

「なにしてんの、あの子」

 お客さんの相手をしながら美波を見て、口にする。

 雫も気にして手が空いたら指示しようとするが、お客さんの相手に取られて、なかなか上手くいかない。

 すると何を思ったのか、美波は喫茶店の方へ勝手に行ってしまった。

「ちょ、あの子」

「美波ちゃん?」

 2人が見ている中で、喫茶店の方へ消えてしまう。

「信じらんない」

「どうしたんだろ」

 とにかく、目の前のお客さんを相手にしていると、またカランカランとお客さんが来たベルの音が鳴る。

「綾女さーん、香奈だよー」

 このせせらぎのお得意様である、香奈が来たのだった。すぐに雫の元に来て、柏木を呼ぶように言う。

「わかりました、少々お待ち下さい」

 柏木に香奈が来たら必ず呼んで欲しいと言われているので、雫は素直に呼びに行こうとした。

 その時である。

 ガシャーンといった、お皿が割れたような音がした。

 その音に反応して香奈が「どいて」と雫を押しのけて、喫茶店へと続く通路を通って行く。雫も気になって、喫茶店の方へと向かった。




「柏木さん、ごめんなさい」

「いえ、いいのですよ。それより怪我はありませんか?」

 現場を見ると、どうやら美波が喫茶店の方を手伝っていて、料理の載ったお皿を落として割ってしまったようだった。香奈が無言で2人の元へと向かう。美波は柏木に擦り寄り、泣いていたからだ。




 パァンっ。

 店内に甲高い音が響く。香奈が美波の頬を叩いたのだ。

「貴女なにしてんの?香奈の綾女さんから離れなさいよっ、このメスブタっ!」

 頬を叩かれた美波は、一瞬何が起きたかわからない顔をしていたが、次の瞬間、こう叫んだ。

「もう、わたし無理ですっ! 先輩たちには放置されるし、柏木さんは忙しくて話聞いてくれないし、お客さんから頬を叩かれるしっ!……今日で辞めますっ!」

 そうして喫茶店の方のドアを開けて、せせらぎから出て行った。

「おう、辞めろ辞めろ。あんなんいらん。そして香奈ナイスっ!」

 いつの間にか来ていた茜が、雫の肩に手を掛けて話した。

 店内は一時騒然となり、雫、柏木、秀人の3人は絶句したのだった……。

──

────

 そんなこんなで、美波が帰ってからも業務はスムーズに行き、珍しく夜の8時に閉店することが出来た。

「うおー、怒濤の初日が終わったー」

「お疲れ様です、皆さん」

 秀人がカウンター席に座って伸びをしながら疲れを叫ぶと、柏木が労った。そして疲れた3人に、アイスコーヒーを出してくれた。

「いや、でもこの店いいよねっ。大変だけどやりがいあるし、給料高いしさっ」

 茜が言うとすぐに、秀人が賛成する。

「だよなー。まかないは旨いし、最高だよなー」

 2人が褒めると柏木は「ありがとうございます」と微笑んでお礼を言う。

「あ、そういえば柏木さんに俺、聞きたかったんですけど、なんか花粉症に効く薬とかってないっすか? 一応、鼻スプレーとか薬を持ってるんですけど」

「それなら甜茶のサプリメントがありますよ」

「じゃあ、今日買っていってもいいっすか?」

「ええ、構いませんよ」

 秀人は花粉症に悩んでいたらしく、柏木にサプリメントを紹介してもらっていた。

「じゃあじゃあ、あたしも何か買っていいですかー?」

「私もお給料入ったし、買おうかな」

 秀人に続き、茜と雫も商品を買って行くことにした。

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