第2話 バイト仲間

 土曜日。

 雫は自分の部屋でさっそくお昼に、パスタ屋で働いていた時に仲のよかった2人に電話をしてみることにした。

 寺岡秀人と大川茜。
 この2人とは、パスタ屋時代でホールを任されて切り盛りしていた戦友だ。この2人がせせらぎに来てくれたら、心強いことこの上ない。

 電話をかけてみると2人ともまだバイト先を探している最中で、暇をしていたようだ。すぐに時給を聞かれたが、今月の雫の給料を聞くと「やります!」と元気のいい返事がもらえた。
 2人は時給の高さでやる気が出るタイプなので、大事なとこだったのだろう。いつから働いてもいいという2人に、また後でメールすることを伝える。

 そしてすぐに柏木にこのことを伝えると、「では、月曜日に朝8時入りでお願いします」と返事をされて、2人にまたメールで伝えた。

 これでとりあえず、人員確保は大丈夫だ。

 雫はほっと胸を撫で下ろした。

──

────

 月曜日。

 雫は先輩として2人と朝の8時入りをしていた。

「よう、久しぶりだな姫宮、大川」

 そう声をかけるのは、寺岡秀人。身長の高い、スポーツマン刈りでさっぱりとした黒髪の頭の、元バイトリーダー。上下ジャージに白Tシャツといった格好をしていた。

「本当、久しぶりだね。寺岡と姫宮は元気してた?」

 笑って話し掛けるのは大川茜。茶髪のおだんご頭に、耳にピアスを沢山開けており、パーカーにスカートとブーツといった格好をしている。

「2人とも、ありがとうね」

 雫がお礼を言うと2人は、「給料が高いから!」とテンション高めであった。

「じゃあお店に入ろう」

 雫が先立って店の扉を開けると、柏木が出迎えてくれた。

「茜さん、秀人君、今日からよろしくお願いします。店主の柏木綾女です」

 2人に自己紹介をする。

「あ、どもっす。寺岡秀人です」

「大川茜です」

 柏木に倣って2人とも挨拶を済ませた。

 そして2人して小声で雫に「イケメンじゃん」と話した。

「ではさっそくですが、お二人に店の説明をしていきます。お二人が入って下さったので、喫茶店の方も開店しようと思います。あ、その前に着替えですね」

「あ、じゃあ大川さんは私が案内します」

 柏木の言葉に雫が買って出て、茜をいつもの着替えに使う二階へと案内した。



「えっ、メイド服!? スカート短っ!!」

「私も最初、びっくりしたよ」

 制服のメイド服に茜は驚き、それに雫は共感した。

 雫と茜は制服に着替えて、二階から一階へと降りて行く。男性陣はまだ、着替えに時間がかかっているようで、二階から降りては来ない。

「じゃあ先に、お店の説明をしちゃうね」

「姫宮先輩、お願いしますっ」

「なんだか照れるなー」

 前のバイトでは、秀人と茜が先輩だったので、雫はなんだかむず痒く感じた。

 雫が茜に雑貨店でのことを説明していると、男性陣が二階から降りて来た。

「なんか普段着慣れてないから、変な感じっすね」

「そうですか? よく似合っていますよ。しばらくは私が手伝いますので、その間に1人で着替えられるように、がんばって下さいね」

 雫たちが2人を見ると、秀人は以前みた柏木の着物、赤紫に黒の帯をしており和服姿だった。

「男は着物なのかー」

 茜が驚いた声を出すと、柏木が説明してくれた。

「いえいままで、男性の従業員を雇ったことがなかったので……私の着物の着丈が合って良かったですよ」

 そんな柏木は今日、紺色の着流しに、紫の帯を締めた格好だ。

「では開店までの残り2時間半、説明をさせて頂きます。茜さんは雑貨店の方を、秀人君は喫茶店の方をよろしくお願いします」

「大川さんには、私から説明します」

「はい。雫さん、よろしくお願いします」

 こうして2人は開店までに、店の説明を頭に叩き込んだ。茜は物覚えがいいので、雫の説明をすぐに吸収していった。

「面白い店だね、ここ。大体わかったから、あたしも説明がんばるよ」

「ありがとう。昔から新作のメニューの名前と値段、覚えるの早かったもんね」

 2人で開店に備える。

「それでは開店します。皆さん、よろしくお願いします」

 柏木の声とともに、『アロマ喫茶せせらぎ』が開店した。

 開店と同時に、お客さんがどっと入って来た。

「いらっしゃいませー」

 お試しのお客さんは、傍で商品の説明。買うものが決まっているお客さんは、すぐにレジに向かうので、茜が隣りに立って、セルフレジの説明を聞かれた場合のスタンバイ。

 以前一緒に働いていただけあって、2人は連携プレーが取れていた。

「大川さん、向こうのお客さんお願いっ」

「あいよ」

 テキパキとお客さんの相手をし、流れもスムーズだった。

「そういえば、美波ちゃん来ないな」

「え、もう1人アルバイトいたの?」

「うん、若い女の子」

「なにそれ、遅刻じゃん」

 お客さんの相手をこなしながら雫は、茜と今日来なかった美波について、話をしていたのだった。

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