第2話 バイト仲間
雫は『アロマ喫茶せせらぎ』で4日間働いてみて思った。
どう考えても人が足りない、と。
あと最低2人は必要だ。
しかし柏木が募集すると、彼目当ての子が沢山集まってしまうので、店でおおっぴらに募集はよくない。
だったら……と、雫は思う。
自分が以前働いていたパスタ屋さんで、一緒に働いていた仲間に声をかけてみようか、と。
そうと決まれば今度折を見て、柏木さんに話してみよう。
雫は元バイト仲間が、まだバイト先を見つけていないことを祈った。
──
────
2日後の月曜日。
「やはり、私たち2人だけだと大変だと思いまして」
柏木にそう言われて紹介されたのは、若い女の子だった。
「奥村美波です。よろしくお願いします」
まだ16歳だという彼女は、茶髪にツインテールをしたまだ幼さを残す、女の子だった。身長も小さめだ。
「あ、姫宮雫です。よろしくお願いします」
雫も挨拶を返した。
「ではよろしくお願いしますね。美波さんは、わからないことがあれば、私か雫さんを頼って下さい」
初日だから朝の8時入りをしていたのだろう。美波の手には、説明書の紙が握られていた。
大丈夫かな、この子。この店、結構ハードだけど……。
内心、心配をしていた雫。
それが見事に的中した。
初日だから仕方が無いが、美波は動かなかった。お客さんが呼んでいるのに、慌てずゆっくりと行く。
そして一番困ったのは、美波はわからないことがあると必ず、柏木を頼ることだった。
「私に頼っていいからね」と、雫が言葉をかけるもやはり、柏木を頼り、その度に彼は自分の仕事を中断させて、美波の元へ行くのだ。
雫もお客さんを見ながらも美波を気に掛け、先回りして彼女が困っているとこへ助けに入るも、
「柏木さんに聞いてきます」
と、柏木を呼びに行ってしまう。
おかげで今日は、夜の9時半まで店を閉められなかった。
「雫さん、お疲れ様でした。自分の仕事をしながら美波さんを見るの、大変だったでしょう」
柏木が労ってくれる。
雫は柏木と2人で店を閉める後片付けや、掃除をしていた。美波はとっくに夜の7時で上がっており、ラストまでと残業は出来ないらしい。
「いえ、そんな。柏木さんもお疲れ様でした。本来なら私が美波ちゃんをちゃんと見るべきなのに、すみませんでした」
雫が謝ると「いいえ」と柏木は彼女の元まで来て言う。
「雫さんは良くやってくれていますよ」
そう笑って、頭を撫でてくれた。柏木が近づいたことで、ふわりと香るイランイランの匂い。だいぶアロマに詳しくなった雫は、柏木の纏う香りもわかるようになった。
イランイラン。香りは甘く優美な匂い。官能的と言われたりもする、オリエンタル調な香りだ。柏木は多分、薄めた精油を着物に付けているのかも知れない。
柏木にドキドキしながら、雫は美波のフォローをした。
「でも美波ちゃんもまだ初日ですし、これからですね」
「そうですね。2週間ぐらいしたら、大丈夫かもしれませんね」
柏木と会話し雫は、美波もこれから成長していくだろうと考えて、それまでは自分ががんばってフォローしないと、と気合いを入れることにした。
バイト仲間の話は、もうちょっと様子をみてから話してみようと考えた。
そんな雫だったのだが……。
美波はそれから2週間経っても、初日と同じで進歩しなかった。
柏木を頼るのは相変わらずで、説明書を見ない、覚えない、お客さんを怒らせて泣く、泣かれてお客さんも困ってしまう……。
そんな毎日が過ぎていった。
さすがにまずいと思った金曜日の夜。この日も美波のフォローで、夜の9時を回っていた。
柏木と2人、後片付けをしている時に雫は、話をすることにした。
「柏木さん、バイトの子をあと2人、入れませんか?」
そう切り出して、自分のパスタ屋時代にいたバイト仲間を雇ってみないか聞いてみる。
「まだ、次の仕事を見つけてないかは、わからないんですけど……」
「雫さんの元バイト仲間なら安心です。私の方は構いませんよ」
柏木の了承を得て、雫はさっそく明日電話してみることを伝えた。
「じゃあ、明日連絡してみて、大丈夫だったら柏木さんの方にすぐ、連絡しますねっ!」
「ありがとうございます、雫さん」
「いえいえ。私のためでもありますから」
柏木と話が決まり、雫は明日さっそく元バイト仲間たちに、連絡することにした。
「そうだ、雫さん。こちらをどうぞ」
そこへ柏木に声をかけられて、雫は茶封筒を一枚、渡される。
「お給料ですよ。毎日お疲れ様です」
微笑んで柏木は渡してくれた。
「わあ、ありがとうございます!」
喜んで雫は受け取り、柏木に礼を言った。
せせらぎで働いての初給料だ。石鹸以外にも、何か今度買ってみようと思う雫だった。
どう考えても人が足りない、と。
あと最低2人は必要だ。
しかし柏木が募集すると、彼目当ての子が沢山集まってしまうので、店でおおっぴらに募集はよくない。
だったら……と、雫は思う。
自分が以前働いていたパスタ屋さんで、一緒に働いていた仲間に声をかけてみようか、と。
そうと決まれば今度折を見て、柏木さんに話してみよう。
雫は元バイト仲間が、まだバイト先を見つけていないことを祈った。
──
────
2日後の月曜日。
「やはり、私たち2人だけだと大変だと思いまして」
柏木にそう言われて紹介されたのは、若い女の子だった。
「奥村美波です。よろしくお願いします」
まだ16歳だという彼女は、茶髪にツインテールをしたまだ幼さを残す、女の子だった。身長も小さめだ。
「あ、姫宮雫です。よろしくお願いします」
雫も挨拶を返した。
「ではよろしくお願いしますね。美波さんは、わからないことがあれば、私か雫さんを頼って下さい」
初日だから朝の8時入りをしていたのだろう。美波の手には、説明書の紙が握られていた。
大丈夫かな、この子。この店、結構ハードだけど……。
内心、心配をしていた雫。
それが見事に的中した。
初日だから仕方が無いが、美波は動かなかった。お客さんが呼んでいるのに、慌てずゆっくりと行く。
そして一番困ったのは、美波はわからないことがあると必ず、柏木を頼ることだった。
「私に頼っていいからね」と、雫が言葉をかけるもやはり、柏木を頼り、その度に彼は自分の仕事を中断させて、美波の元へ行くのだ。
雫もお客さんを見ながらも美波を気に掛け、先回りして彼女が困っているとこへ助けに入るも、
「柏木さんに聞いてきます」
と、柏木を呼びに行ってしまう。
おかげで今日は、夜の9時半まで店を閉められなかった。
「雫さん、お疲れ様でした。自分の仕事をしながら美波さんを見るの、大変だったでしょう」
柏木が労ってくれる。
雫は柏木と2人で店を閉める後片付けや、掃除をしていた。美波はとっくに夜の7時で上がっており、ラストまでと残業は出来ないらしい。
「いえ、そんな。柏木さんもお疲れ様でした。本来なら私が美波ちゃんをちゃんと見るべきなのに、すみませんでした」
雫が謝ると「いいえ」と柏木は彼女の元まで来て言う。
「雫さんは良くやってくれていますよ」
そう笑って、頭を撫でてくれた。柏木が近づいたことで、ふわりと香るイランイランの匂い。だいぶアロマに詳しくなった雫は、柏木の纏う香りもわかるようになった。
イランイラン。香りは甘く優美な匂い。官能的と言われたりもする、オリエンタル調な香りだ。柏木は多分、薄めた精油を着物に付けているのかも知れない。
柏木にドキドキしながら、雫は美波のフォローをした。
「でも美波ちゃんもまだ初日ですし、これからですね」
「そうですね。2週間ぐらいしたら、大丈夫かもしれませんね」
柏木と会話し雫は、美波もこれから成長していくだろうと考えて、それまでは自分ががんばってフォローしないと、と気合いを入れることにした。
バイト仲間の話は、もうちょっと様子をみてから話してみようと考えた。
そんな雫だったのだが……。
美波はそれから2週間経っても、初日と同じで進歩しなかった。
柏木を頼るのは相変わらずで、説明書を見ない、覚えない、お客さんを怒らせて泣く、泣かれてお客さんも困ってしまう……。
そんな毎日が過ぎていった。
さすがにまずいと思った金曜日の夜。この日も美波のフォローで、夜の9時を回っていた。
柏木と2人、後片付けをしている時に雫は、話をすることにした。
「柏木さん、バイトの子をあと2人、入れませんか?」
そう切り出して、自分のパスタ屋時代にいたバイト仲間を雇ってみないか聞いてみる。
「まだ、次の仕事を見つけてないかは、わからないんですけど……」
「雫さんの元バイト仲間なら安心です。私の方は構いませんよ」
柏木の了承を得て、雫はさっそく明日電話してみることを伝えた。
「じゃあ、明日連絡してみて、大丈夫だったら柏木さんの方にすぐ、連絡しますねっ!」
「ありがとうございます、雫さん」
「いえいえ。私のためでもありますから」
柏木と話が決まり、雫は明日さっそく元バイト仲間たちに、連絡することにした。
「そうだ、雫さん。こちらをどうぞ」
そこへ柏木に声をかけられて、雫は茶封筒を一枚、渡される。
「お給料ですよ。毎日お疲れ様です」
微笑んで柏木は渡してくれた。
「わあ、ありがとうございます!」
喜んで雫は受け取り、柏木に礼を言った。
せせらぎで働いての初給料だ。石鹸以外にも、何か今度買ってみようと思う雫だった。