常世の国の彼女
暗い澱のような彼女の夢に繋がっている今、五年前の記憶をまざまざと思い出していた。
僕こと風間陽翔 と美空舞夏の仲は五年前のあの日、壊れた。
『裏切り者! 裏切り者! 裏切り者!!』
『ごめん……』
きっかけは僕のたった一回の浮気。
元々舞夏は精神的に不安定な所が多く、あの時の僕には仕事で大事な案件を抱えており、彼女の事で一喜一憂するのが耐えられなくなっていた。
『もうあたしの事、いらないの? だから浮気したの?』
『違うよ、そうじゃないんだ』
『嘘つき』
『お願いだから許してくれ……』
浮気をきっかけに彼女の精神は更に不安定になり、毎日僕をひどく責めた。
仕事と彼女の両方で悩み疲れた僕は、友人の野原に相談して、一端彼女と距離を置く事にした。
僕の家まで訪ねて来る彼女と逢わないよう、暫く野原の家に転がり込んだ。
流石に仕事先までは来なかったので安心していたが、それは突然始まった。
『許してくれ、許してくれ舞夏』
毎晩毎晩見る悪夢に僕の精神も疲れ果て、寝ても覚めても彼女を考えざるを得なくなった。
というのもどうやら舞夏の執念が僕の夢まで、繋がるようになってしまったから。
初めて『夢通い』というものをされた時、舞夏から聞かされたのだ。
夢の中、驚く僕の体に身を寄せて舞夏はくすくす笑って、
『昔の平安貴族たちは恋人が夢の中に出て来るのが、好きのパロメーターだったんだって』
それを夢通いって言うの。
舞夏は僕の顔を優しく撫で可愛らしく小首を傾げる。
『夢通いには相手への強い想いがないと、出来ないみたい』
背伸びをして僕の耳に息を吹き込む。
『あたしがずっと陽翔の事を想い続けたように、陽翔もあたしの事、まだ好きでいてくれているんだよね?』
なのに……。
言葉を切る舞夏に、
『ま、舞夏……許してくれ』
自分でも情けないぐらい震えた声が出た。
『いまでも愛しているのに、なんで逃げるの? ねえ、お願いだから……あたしの事を見捨てないで。愛してるの、貴方だけを』
ぼろぼろと泣き出す彼女に僕は、どう言葉をかけていいのか解らず、とにかくそっと抱き締める。内心、怖くて逃げ出したい気持ちを抑えて。
『舞夏、僕は……』
言葉を紡ごうとした僕を舞夏は、突然突き飛ばした。
反動でよろけた僕に、
『誠意のない謝罪なんていらない。あたしが嫌いになったから浮気したんでしょ?……あたしを好きじゃない貴方なんて信じない……』
舞夏が向けた眼差しは、背筋が凍るものだった。
いままで見てきた彼女からは想像がつかないほどに。
これをきっかけに毎日毎晩夢の中で舞夏が僕を罵倒し、泣きつき、縋り、愛を囁く。
一日の終わりに見る夢が、僕の現実を凌駕しようとしていた。
そんな時にちょうど会社から転勤の話が持ち上がったので、転勤の話を理由に舞夏から逃げ出した。
僕こと
『裏切り者! 裏切り者! 裏切り者!!』
『ごめん……』
きっかけは僕のたった一回の浮気。
元々舞夏は精神的に不安定な所が多く、あの時の僕には仕事で大事な案件を抱えており、彼女の事で一喜一憂するのが耐えられなくなっていた。
『もうあたしの事、いらないの? だから浮気したの?』
『違うよ、そうじゃないんだ』
『嘘つき』
『お願いだから許してくれ……』
浮気をきっかけに彼女の精神は更に不安定になり、毎日僕をひどく責めた。
仕事と彼女の両方で悩み疲れた僕は、友人の野原に相談して、一端彼女と距離を置く事にした。
僕の家まで訪ねて来る彼女と逢わないよう、暫く野原の家に転がり込んだ。
流石に仕事先までは来なかったので安心していたが、それは突然始まった。
『許してくれ、許してくれ舞夏』
毎晩毎晩見る悪夢に僕の精神も疲れ果て、寝ても覚めても彼女を考えざるを得なくなった。
というのもどうやら舞夏の執念が僕の夢まで、繋がるようになってしまったから。
初めて『夢通い』というものをされた時、舞夏から聞かされたのだ。
夢の中、驚く僕の体に身を寄せて舞夏はくすくす笑って、
『昔の平安貴族たちは恋人が夢の中に出て来るのが、好きのパロメーターだったんだって』
それを夢通いって言うの。
舞夏は僕の顔を優しく撫で可愛らしく小首を傾げる。
『夢通いには相手への強い想いがないと、出来ないみたい』
背伸びをして僕の耳に息を吹き込む。
『あたしがずっと陽翔の事を想い続けたように、陽翔もあたしの事、まだ好きでいてくれているんだよね?』
なのに……。
言葉を切る舞夏に、
『ま、舞夏……許してくれ』
自分でも情けないぐらい震えた声が出た。
『いまでも愛しているのに、なんで逃げるの? ねえ、お願いだから……あたしの事を見捨てないで。愛してるの、貴方だけを』
ぼろぼろと泣き出す彼女に僕は、どう言葉をかけていいのか解らず、とにかくそっと抱き締める。内心、怖くて逃げ出したい気持ちを抑えて。
『舞夏、僕は……』
言葉を紡ごうとした僕を舞夏は、突然突き飛ばした。
反動でよろけた僕に、
『誠意のない謝罪なんていらない。あたしが嫌いになったから浮気したんでしょ?……あたしを好きじゃない貴方なんて信じない……』
舞夏が向けた眼差しは、背筋が凍るものだった。
いままで見てきた彼女からは想像がつかないほどに。
これをきっかけに毎日毎晩夢の中で舞夏が僕を罵倒し、泣きつき、縋り、愛を囁く。
一日の終わりに見る夢が、僕の現実を凌駕しようとしていた。
そんな時にちょうど会社から転勤の話が持ち上がったので、転勤の話を理由に舞夏から逃げ出した。