常世の国の彼女

 その部屋は全てが真っ暗なのに、不思議と部屋の形状がわかる。

 部屋の輪郭線のみが白く浮かび上がり、いま僕がいる正方形の何もない空間を知覚することが出来た。

 その闇一色の部屋にたったひとつ扉がある。現在、僕の目の前に静かに佇み存在していた。

 この先に彼女がいる。

『もうあたしのこと、いらないの?』

『裏切り者! 裏切り者! 裏切り者!!』

『あたしを見捨てないで……お願いだから……』

『あたしを好きじゃない貴方なんて、信じない……』

 彼女の一言一言が頭の中に甦り、吐き気がする……。

 ああ……またこの世界に来てしまった……。

 だけど僕は彼女とちゃんと向き合わなければならない……その為に来たのだから……。

 意を決して、その重たい扉をゆっくりと開いた。

2/13ページ
スキ