常世の国の彼女

「嘘を吐いて悪かった」

 唐突に言うものだから、彼が一体何について謝っているのか解らなかった。

「その看護士の事をだ、あいつに……」

 ああ、と話が見える。

「俺は自分の事ばかりだったのかも知れない」

「いいってば。あたしもシェムハザを傷つけたんだから、ね?」

「だが……現実のお前は」

 悲しそうな顔で話す彼にお互い様、と言う。

「結局、あたし達は似た者同士なのかもね。愛を得る為には嘘をも利用する。病院に入ったきっかけは陽翔だけど、現実から逃げたのは彼のせいじゃない」

 そう話ながら広い大きな湖面、水鏡に映した自分の顔は、いまにも泣き出しそうな瞳をしていた。

「あたしはあの看護士から逃げる為に、精神の世界に閉じ籠もった」

 そして貴方と出会い夢の中に逃げて、現実から目を背けた。

「でも……」

 陽翔が来て、この現実世界をまた愛する人の元で過ごせると思って、目を覚ました。

「きっと、陽翔が貴方の事を言わなければ、ずっと現実世界にいたけどね」

 陽翔の性格上、黙っている事は出来なかったんだよね……。

「すまない」

 謝る彼に、

「いいの、幸せだから。やっぱりね、五年間ただひたすらあたしだけを見て愛してくれた貴方しかいないって、気づけたから。むしろ、確認出来てよかったよ」

 にっこり笑うと、シェムハザも困ったような顔をして、微笑んでくれた。

「ずっと一緒だよ、ずっと」

「ああ、ずっと一緒だ」

 2人草むらに座り、綺麗な満月を眺めながらしっかりと愛を誓い合った。

 もう何も怖いものはない。

 あたしを愛した為に堕天した男は、どんな事があろうと精神あたしを守り愛してくれるから。



 完

13/13ページ
スキ