常世の国の彼女
そうして現在、僕は彼女と一緒に暮らしている。
彼女の告白を聞いて、いても立っても居られなかったから。
本当に舞夏は昔に戻ったかのように明るく可愛くて、僕は満ち足りた幸せな毎日を送っていた。
朝は僕より早く起きてちゃんとした朝ご飯を用意して、お弁当もバランスの取れた見た目も綺麗な物を、毎日作ってくれる。
仕事から帰れば、どんなに僕が遅く帰って来ても待っていてくれて、晩ご飯を温め直して出してくれた。
その後は一緒にベッドに入って、肌を合わせる。
本来あったはずの未来を取り戻す事が出来て、僕はすっかり忘れていた。
そう、男の存在を。
壊れた彼女を支え続けた銀髪の青い瞳を。
幸せ過ぎて忘れてしまっていたんだ。
舞夏が買い物でいない休みの日、仕事で疲れが溜まっていた僕は、うとうとと昼寝をした。
ああ、これは夢の中に片足突っ込んでいるな……そう感じた途端、体に強い衝撃を受けた。
あまりの急な出来事に理由 が解らず、自分を蹴ったであろう人物がいる方へ目を向ける。
「シェムハザ……」
男の名前を口にするとすかさず、
「お前の声で俺の名を呼ぶな……」
冷たい炎のような声が耳に響く。
「お前のせいで、お前が来たせいで、俺達の関係は壊れた。舞夏が俺を想ってくれなければ、俺は存在出来ない」
もう、舞夏は俺を見ようとしない……
威圧的ながらも、絞り出すように吐く言葉は切なさを含んでいた。
「おまえの傍にいたら、舞夏は現実世界で生活が出来なくなるんだぞ」
だから僕が……言葉を続けようとするのを遮り、
「お前に彼女の心の重さを背負えるのか?」
男は問う。
「な、それは、もちろん……」
「看護士は舞夏に何もしていない……」
その言葉に反論の声が出なかった。
「舞夏は虚言癖のある娘だ。その事はお前も付き合っていて、思い当たる事があるだろう?」
……確かに、彼女は人の気を引きたくて小さな嘘を吐く事はあったが……本当に、それも嘘なのか?
「俺は夢でも現実でも彼女を見ていた。お前が壊した五年前からずっと、ずっと愛してきた。なのにお前は五年もの歳月、舞夏を放っておきながら、俺から彼女を奪っていった」
苦しそうに話す男は、一呼吸おいて言う。
「返してくれ。俺に彼女を返してくれ、頼む」
そう悲しそうに力なく声を漏らした。
「ただいま」
帰宅した彼女を出迎え、僕はいまの出来事を話す事にした。
出来れば話したくはなかったが、彼女の気持ちは彼にはもうないのかを、知りたかったから。
それに一番は、看護士の事をちゃんと確認したかった。
舞夏に夢での出来事を話すと、「そう……」一言だけ呟いた。
「看護士にされているって、あれは嘘……じゃないんだよな?」
舞夏はちらりと壁に視線を向けてから、一瞬だけ間を置き、
「ごめんね、そう言わないと陽翔は病室から連れ出してくれないと思って」
だから嘘吐いちゃった……と、舌をちろりと出す。
「そうか……でも、嘘を吐くほどあの病院から出たかったんだもんな」
僕の言葉を聞くと、
「陽翔は何でも良い風に物事を捉えてくれるね。その優しさ、あたし好きだな」
舞夏は複雑な表情で淋しく笑った。
そしてさっき舞夏が視線を送った壁に、目を向けながら、
「舞夏はまだ彼に気持ちがあるのか?」
尋ねる僕に、
「……馬鹿だね、陽翔は」
こつん、と握り拳を僕の肩に叩く。
「なんで、聞いちゃうのかな~……」
ふと壁に目を向けながら、舞夏は微笑んだ。
それ以降、その事について彼女は話してくれなかった。
夜ベッドで僕の腕の中にいる彼女は、
「陽翔、ありがとうね」
そう言って笑っていた。
彼女の告白を聞いて、いても立っても居られなかったから。
本当に舞夏は昔に戻ったかのように明るく可愛くて、僕は満ち足りた幸せな毎日を送っていた。
朝は僕より早く起きてちゃんとした朝ご飯を用意して、お弁当もバランスの取れた見た目も綺麗な物を、毎日作ってくれる。
仕事から帰れば、どんなに僕が遅く帰って来ても待っていてくれて、晩ご飯を温め直して出してくれた。
その後は一緒にベッドに入って、肌を合わせる。
本来あったはずの未来を取り戻す事が出来て、僕はすっかり忘れていた。
そう、男の存在を。
壊れた彼女を支え続けた銀髪の青い瞳を。
幸せ過ぎて忘れてしまっていたんだ。
舞夏が買い物でいない休みの日、仕事で疲れが溜まっていた僕は、うとうとと昼寝をした。
ああ、これは夢の中に片足突っ込んでいるな……そう感じた途端、体に強い衝撃を受けた。
あまりの急な出来事に
「シェムハザ……」
男の名前を口にするとすかさず、
「お前の声で俺の名を呼ぶな……」
冷たい炎のような声が耳に響く。
「お前のせいで、お前が来たせいで、俺達の関係は壊れた。舞夏が俺を想ってくれなければ、俺は存在出来ない」
もう、舞夏は俺を見ようとしない……
威圧的ながらも、絞り出すように吐く言葉は切なさを含んでいた。
「おまえの傍にいたら、舞夏は現実世界で生活が出来なくなるんだぞ」
だから僕が……言葉を続けようとするのを遮り、
「お前に彼女の心の重さを背負えるのか?」
男は問う。
「な、それは、もちろん……」
「看護士は舞夏に何もしていない……」
その言葉に反論の声が出なかった。
「舞夏は虚言癖のある娘だ。その事はお前も付き合っていて、思い当たる事があるだろう?」
……確かに、彼女は人の気を引きたくて小さな嘘を吐く事はあったが……本当に、それも嘘なのか?
「俺は夢でも現実でも彼女を見ていた。お前が壊した五年前からずっと、ずっと愛してきた。なのにお前は五年もの歳月、舞夏を放っておきながら、俺から彼女を奪っていった」
苦しそうに話す男は、一呼吸おいて言う。
「返してくれ。俺に彼女を返してくれ、頼む」
そう悲しそうに力なく声を漏らした。
「ただいま」
帰宅した彼女を出迎え、僕はいまの出来事を話す事にした。
出来れば話したくはなかったが、彼女の気持ちは彼にはもうないのかを、知りたかったから。
それに一番は、看護士の事をちゃんと確認したかった。
舞夏に夢での出来事を話すと、「そう……」一言だけ呟いた。
「看護士にされているって、あれは嘘……じゃないんだよな?」
舞夏はちらりと壁に視線を向けてから、一瞬だけ間を置き、
「ごめんね、そう言わないと陽翔は病室から連れ出してくれないと思って」
だから嘘吐いちゃった……と、舌をちろりと出す。
「そうか……でも、嘘を吐くほどあの病院から出たかったんだもんな」
僕の言葉を聞くと、
「陽翔は何でも良い風に物事を捉えてくれるね。その優しさ、あたし好きだな」
舞夏は複雑な表情で淋しく笑った。
そしてさっき舞夏が視線を送った壁に、目を向けながら、
「舞夏はまだ彼に気持ちがあるのか?」
尋ねる僕に、
「……馬鹿だね、陽翔は」
こつん、と握り拳を僕の肩に叩く。
「なんで、聞いちゃうのかな~……」
ふと壁に目を向けながら、舞夏は微笑んだ。
それ以降、その事について彼女は話してくれなかった。
夜ベッドで僕の腕の中にいる彼女は、
「陽翔、ありがとうね」
そう言って笑っていた。