犯罪都市グレグル
ダイニングバー『クレナイ』で、今日も仕事の密談が行われる。
「という訳だ」
情報屋のロイドの話を、暗殺者のナツキが聞く。
ナツキは、燃えるような赤い髪に、緑のチュニックとスリットが入った茶色のロングスカートという格好をしている。
「あのボディーガードはいないでしょうね?」
「そんな事を気にするなら、暗殺者などやめろ」
ロイドに窘められて、ナツキは反省する。
「そうね、ごめんなさい。仕事の依頼、受けるわ」
ナツキはカクテルを飲み干し、クレナイを出て行く。
「あ、ごめんなさい」
「あら? この間はどうも」
ナツキと擦れ違いに入って来たのは、運び屋のカサネ。
「……今度組むなら、あなたみたいな子がいいわね。まともそうだし……」
「私も暗殺者さんと仕事、組んでみたいです」
ナツキはカサネと前回やりあってみて、彼女の実直さに好感を持っていた。
「それじゃあまた」
「ええ」
2人入れ違いになり、カサネはロイドの座るカウンター席まで近づいた。
「マスター、ディタグレープ」
「はいよ」
短い黒髪をさらさら揺らして、カウンター席につくカサネ。白いサラシを巻いたキュロット姿の男の子みたいな格好をしている。
「今回、君に渡す情報はこれだ」
カウンターに置かれた紙を、すっとカサネの前に差し出す。
「ああ、やっぱりもう手遅れでしたか」
カサネの見る紙に添付された写真。
衰弱しきった幼女の姿。ここまで悪人たちに好き放題されたら、正気に戻るのは無理だろう。
「それでも先方は取り戻したい、と?」
「ああ、取り返したいそうだ。可愛い我が子だからな」
「わかりました」
マスターの作ったディタグレープを飲み干し、カサネは了承する。
「では後ほど成功次第、連絡します」
「ああ」
カサネは代金を払い、店を出て行く。
次に訪れたのは、何でも屋のリツ。
リツは、オレンジの短い髪に、テンガロンハットが目印の『神風』の2つ名を持つ凄腕だ。
リツはロイドの隣りに座り、依頼内容を聞く。
「悪魔召喚を繰り返すサバトの会に潜入し、そこで作られている秘薬を盗み出して欲しいと、マザーからの依頼がある」
「マザーか。オレ苦手なんだよな」
「私もだ」
リツは苦笑しつつ、詳しい内容を確かめる。
「何人規模の集会?」
「ざっと10万」
「大変そうだな……まあいいか、受けるよ」
「助かる」
「じゃ、交渉成立で。場所とかはまた後でメールして」
リツが席を立ち、店を出て行く。
その様子を見ていたマスターが、ロイドに話しかける。
「アンタも大変ねえ。1日に何人も仕事の情報渡して」
マスターがグラスを拭きながら、ロイドをいたわる。
「仕事だからな。マスター、ビールのおかわり頼む」
「はいよ」
ロイドは、さっきカサネに伝えた情報の資料の写真を見る。
この町は、悪人たちの住処だ。こういった力のない者たちが食いものにされる。
ロイドは胸を痛ませながらも、マスターが出したビールと一緒に感情も飲み込んだ。
「考えないようにしないと、やってらんねえからな」
いちいち胸を痛めていては、情報屋は出来ない。
1日に何十件と悲惨な情報は、耳に入るのだから。
「それでも情報屋のアンタがいるから、救われる命もあんのよ」
マスターがロイドの心情を推し量り、慰める。
「ああ、そうだな」
ロイドはマスターの言葉を胸に刻む。
せめて幼い命は助けたいものだ、とロイドは思うのだった。
完
「という訳だ」
情報屋のロイドの話を、暗殺者のナツキが聞く。
ナツキは、燃えるような赤い髪に、緑のチュニックとスリットが入った茶色のロングスカートという格好をしている。
「あのボディーガードはいないでしょうね?」
「そんな事を気にするなら、暗殺者などやめろ」
ロイドに窘められて、ナツキは反省する。
「そうね、ごめんなさい。仕事の依頼、受けるわ」
ナツキはカクテルを飲み干し、クレナイを出て行く。
「あ、ごめんなさい」
「あら? この間はどうも」
ナツキと擦れ違いに入って来たのは、運び屋のカサネ。
「……今度組むなら、あなたみたいな子がいいわね。まともそうだし……」
「私も暗殺者さんと仕事、組んでみたいです」
ナツキはカサネと前回やりあってみて、彼女の実直さに好感を持っていた。
「それじゃあまた」
「ええ」
2人入れ違いになり、カサネはロイドの座るカウンター席まで近づいた。
「マスター、ディタグレープ」
「はいよ」
短い黒髪をさらさら揺らして、カウンター席につくカサネ。白いサラシを巻いたキュロット姿の男の子みたいな格好をしている。
「今回、君に渡す情報はこれだ」
カウンターに置かれた紙を、すっとカサネの前に差し出す。
「ああ、やっぱりもう手遅れでしたか」
カサネの見る紙に添付された写真。
衰弱しきった幼女の姿。ここまで悪人たちに好き放題されたら、正気に戻るのは無理だろう。
「それでも先方は取り戻したい、と?」
「ああ、取り返したいそうだ。可愛い我が子だからな」
「わかりました」
マスターの作ったディタグレープを飲み干し、カサネは了承する。
「では後ほど成功次第、連絡します」
「ああ」
カサネは代金を払い、店を出て行く。
次に訪れたのは、何でも屋のリツ。
リツは、オレンジの短い髪に、テンガロンハットが目印の『神風』の2つ名を持つ凄腕だ。
リツはロイドの隣りに座り、依頼内容を聞く。
「悪魔召喚を繰り返すサバトの会に潜入し、そこで作られている秘薬を盗み出して欲しいと、マザーからの依頼がある」
「マザーか。オレ苦手なんだよな」
「私もだ」
リツは苦笑しつつ、詳しい内容を確かめる。
「何人規模の集会?」
「ざっと10万」
「大変そうだな……まあいいか、受けるよ」
「助かる」
「じゃ、交渉成立で。場所とかはまた後でメールして」
リツが席を立ち、店を出て行く。
その様子を見ていたマスターが、ロイドに話しかける。
「アンタも大変ねえ。1日に何人も仕事の情報渡して」
マスターがグラスを拭きながら、ロイドをいたわる。
「仕事だからな。マスター、ビールのおかわり頼む」
「はいよ」
ロイドは、さっきカサネに伝えた情報の資料の写真を見る。
この町は、悪人たちの住処だ。こういった力のない者たちが食いものにされる。
ロイドは胸を痛ませながらも、マスターが出したビールと一緒に感情も飲み込んだ。
「考えないようにしないと、やってらんねえからな」
いちいち胸を痛めていては、情報屋は出来ない。
1日に何十件と悲惨な情報は、耳に入るのだから。
「それでも情報屋のアンタがいるから、救われる命もあんのよ」
マスターがロイドの心情を推し量り、慰める。
「ああ、そうだな」
ロイドはマスターの言葉を胸に刻む。
せめて幼い命は助けたいものだ、とロイドは思うのだった。
完