犯罪都市グレグル

 霧の漂うグレグルの町で、今日も悪人たちはダイニングバー『クレナイ』に集う。

「マスター、マティーニおかわり」

「はいよ」

 黙々とカクテルのおかわりをする闇医者、クラヴィス。

 白衣姿に中折れハットを被り、カウンター席で静かなひとときを楽しむ。

「今日はどんな仕事をやったの?」

 マスターが尋ねると、クラヴィスは疲れた顔で笑う。

「機械化手術に、心臓移植、獣化手術に縫合。ざっと十件こなした」

「あらあらお疲れ様」

 マスターが手早くマティーニのおかわりを作り、クラヴィスに渡す。

「ここはいい。静かで落ち着く」

 クラヴィスが店内の雰囲気を楽しんでいると、外から騒がしい二人がクレナイに入って来た。

「マスター、ビール二本頼む!」

 うるさくなってしまった店内に顔を顰めつつも、クラヴィスはマティーニを味わう。

「しかしあれだな。今日の仕事は楽だったな」

「確かに。あのハボックとかいうおっさんも、ミディとかいう機械の奴も、赤子の手を捻るより簡単だった」

 聞こえてきた単語に、クラヴィスは更に顔を顰めた。ハボックもミディも、ついさっき自分が苦労して手術した客だったからだ。

「『せっかく手術したのに』って、悔しそうに死んでいったが、力無き者はこの町では死ぬ運命なんだよ」

「金持ちどもは腹立つからな、殺すとせいせいするよな」

 ゲラゲラ笑う二人に、クラヴィスが立ち上がった。

「マスター、お勘定」

「なんだかごめんなさいね」

「いや、マスターのせいじゃない。気にするな」

 支払いを済ませて出て行こうとしたクラヴィス。そこへ二人が絡んできた。

「いつ見ても羽振りが良さそうだな、闇医者」

「俺たちが殺したのは、お前のとこの客だよな? 今、どういう気分だ?」

 ゲラゲラ笑う二人に、クラヴィスが答える。

「……こういう気分だ」

 瞬間、クラヴィスが二人の後ろに回り込み、首筋に注射を刺す。

「あがっ」

「がああっ」

 注射の中の液体を注入した途端、二人はガクガクと身体が震え出す。

「すまない、マスター。店内を汚す」

 テーブルに札束を置いて、クラヴィスが店内を出たと同時に、二人の身体が破裂した。

「きゃあっ」

「ちょっとっ」

 双子のバニーガールが顔を顰める。

「クラヴィスちゃんは割と短気なのよねえ」

 掃除をすべく、バニーガールと共にゴミ袋を手に取り、片付けを始めるマスターであった。



 闇医者クラヴィス。

 普段は滅多に戦わないが、武器は注射器と
硫酸。数種類の劇薬を持ち、キレた時に攻撃をする。

 なので、闇医者クラヴィスを怒らせる者は
滅多にいないのだが、二人は調子に乗っていたようだ。

 こうして今日もまたグレグルの町で、命が消えていくのだった。



 完


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