犯罪都市グレグル

 裏サロンの店主であるレイは、現在ある客の家にお邪魔していた。

「こちらが輸入した虹色オウムです」

「わあー、可愛い。パパ、ありがとう!」

 レイからオウムを渡されて、少女が歓声を上げる。

「レイ君、ありがとう。やはり君にお願いして良かった」

 裏社会のマフィアであるナグロが、レイに札束を渡す。

「また何かありましたら、私に言いつけて下さい」

 二人が会話しようとすると、少女メイベルがレイの着物の裾を引っ張る。

「お仕事の話より、こっちに来てレイ」

「すまないね、レイ君。娘の相手を頼むよ」

 メイベルはオウムをナグロに預けて、レイを自分の部屋へと連れて行く。

 メイベルの部屋は女の子らしい、ファンシーなぬいぐるみに溢れていた。

「たくさん集まりましたね」

 ぬいぐるみたちは皆『助けてくれ』とか『家に帰りたい』とかそれぞれ呟いていた。

「こっちのコアラは大好きだったメイド。あっちのパンダは、パパのいらなくなった部下よ」

 無邪気な少女は、その小さな胸にぬいぐるみを抱きしめて笑う。

 彼女は人をぬいぐるみに変える特殊能力を持ち、今まであらゆる人間を自分の玩具に変えてきたのだ。

「レイ」

 メイベルはぬいぐるみを置いてレイに抱きつき、話しかける。

「レイもぬいぐるみになったら、あたしのそばにずっといてくれるよね?」

 その小さな頭を優しく撫でながら、レイは答える。

「ええ。ですが将来結婚してあげられませんが、よろしいですか?」

 以前に少女から贈られた指輪が、レイの薬指で光る。

「そうね、ぬいぐるみにしたらレイと結婚、出来ないものね」

 メイベルは頷いて、レイを見上げる。彼女の薬指にもレイと同じ、指輪が光る。

「レイ、必ずよ。必ずあたしが大きくなったら、お嫁さんにしてね」

「ええ。必ず」

 二人指切りをして、満足した少女が微笑む。

「もし嘘ついたら、その時はレイをぬいぐるみにするからね」

 ぬいぐるみたちが呻く中、レイはメイベルの頬にキスをした。

「ええ、もちろん。早く大きくなって下さいね、メイベル様」

 レイはアルカイックスマイルを貼り付けて、彼女の機嫌取りをする。

 少女メイベルは大きくなれば、父親の後を継ぎ、マフィアのボスとなるだろう。

 親子代々レイのサロンの客となってくれれば、彼にとって強力なバックアップとなる。

 さらに人をぬいぐるみに変える能力は、他の客からも需要がありそうだ。

 レイは成長したメイベルを楽しみに、今は機嫌取りに勤しむのだった。



 完

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