犯罪都市グレグル

 見世物小屋の生き物たちの管理を任されている青年は、ある幼女を前にしてため息をつく。

「くぅん」

 もはや人語を忘れた異形の姿の幼女は、青年に甘えた声を出す。

「ほら、お前の好きな飴玉だよ」

 その口に飴玉を放ってやると、嬉しそうに食べた。

 この見世物小屋では、妖怪や悪魔など異形のものたちを客人たちに売りつける、オークションの顔がある。

 そんな中で幼女のような、違法な科学実験や手術で改造された犠牲者たちも、見世物小屋に売られてくるのだ。

 金持ちたちは、自分の趣味嗜好で犠牲者たちを弄び、飽きたら捨てるように売り払う。

「お前もこんな姿にされて……」

 元から異形の姿の妖怪たちに対し、彼女たちは人の手で異形な姿に変えさせられた、憐れな仔羊。

「レディースアンドジェントルマンっ! 今宵も貴重で珍しい生き物をご覧にいれましょう!」

 見世物小屋の団長が、観客にマイクパフォーマンスを繰り広げている。

「助けてやれなくて、ごめんな」

「くぅん」

 青年が幼女を撫でていると、後ろから喉笛に刃物が当てられた。

 全く気配を感じず、青年は息を詰める。

「すいません、あまり手荒な事はしたくないので、大人しくしていて下さい」

 ゆっくりと肯くと、刃物をしまってくれた。

「うん、この子ですね。すみませんが、彼女をさらって行きます」

 突然現れて幼女をさらおうとする裏社会の人間に、青年は問う。

「さらってどうするんだ?」

「彼女の両親の元へ届けるんですよ」

「両親……」

 青年は両親と聞き、異形の姿となった彼女を見る。

「両親は、彼女がこんな姿になった事を知っているのか?」

「ええ。それでも取り戻したいという事です」

「そうか」

 こんな姿になってもなお、我が子を取り戻したい親がいてくれたのか……。

「彼女を頼む」

「ええ、それがあたしの仕事ですので」

 幼女を抱えて仕事人が立ち去って行く。

 見世物小屋の団長に見つかれば、青年は鞭で叩かれるだけでは済まない。

「元気でな」

「くぅん」

 それでも青年は幼女の幸せを祈って、その姿が小さくなるまで見届けた。


 完


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