朽ちない日記~僕の眠り姫~

さん ……ねえ、起きてよ……起きて、愛しい人。

 いくら揺すっても君は目覚めない。いくら呼んでも君は戻ってこない。……わかってる、わかってるけど……認めたくなくて、君の名を呼んだ。

「燦、燦、日記読んだよ……ごめんね、ごめん……淋しい想いさせて……つらい気持ちにさせて……燦、僕を許して……」

 彼女の身体はすっかり冷たいけど、死後硬直はまだなのか、肌は柔らかい。

……今、触れなかったら、もう彼女の柔らかさを感じる事が出来なくなる……。もう一度、彼女を感じたい……。



 ベッドに彼女を連れて、着せた服を全て脱がしせた。

さん……」

 彼女の唇にキスをする……でも今は君の吐息を感じられない。

 それでも僕は彼女を感じたくて、キスを続けた。キスをしていたら、彼女とのセックスを思い出し、僕は彼女と愛し合い始めた。

「燦、燦……僕の愛しい人……」

 彼女を朝方まで抱き続け、2人ベッドで眠った。

──

────

『葵くん、葵くん』

 燦っ、ああ生きていたんだねっ。

『葵くん、愛してる』

 僕もだよ、これからはずっと君の傍にいるよ。

『無理だよ……』

 どうして? 大丈夫、今度は約束破らないよ。

『だって私は、もう死んだから……』

 何言ってるの? 今目の前にいるじゃないか。待って、待ってよ燦っ!

 彼女が遠ざかっていく……。

『葵くん、どうか私を忘れて生きて……』

 いやだっ! 君を忘れるなんて出来ないよ! 燦っ、待って行かないで戻ってきて……燦っ、燦っ……。

──

────

「燦っ!」

……夢か。だってほら、傍に燦はいるじゃないか。

「燦……」

 呼吸してない……

「燦っ!?」

 胸に耳を当てた……心臓、動いてない……。

「あああああっ……」

 昨日の事を、まざまざと思い出した。

「燦ーっ、燦ーっ」

 彼女をぎゅっと抱きしめる……身体は冷たい、けど彼女の匂いがする……肌だってこんなにも柔らかい……

「死後硬直してない……」

 丸1日経っているのに……それに、身体のどこにも紫斑がない……。

「燦……?」

 もちろん返事はない、死んでいるから。

「なんで……?」

 死んでいるのに死後硬直してない、紫斑がない、ちゃんと匂いがする……普通、死体じゃあり得ない。

 彼方遥かなたはるか……あの男の研究は、不老不死の薬を作る事だった。まさか、それで? 燦はアイツに、実験モルモットにされていた。もしかしたら、その影響かもしれない……。

「燦、身体冷たいね。僕が温めてあげるよ……」

 僕が彼女の身体に触れようとしたら、玄関のチャイムが鳴った。

 今は燦と愛し合いたい……

「燦、愛してる」

 規則的に鳴るチャイム。うるさいな、諦めて帰れよ……

 ドンドンと玄関の扉が叩かれ、ドアノブが回される音がした。

 ああ、鍵閉め忘れてた……

「葵、葵っ。出てこい、いるんだろうっ!」

 父さんか、まぁどうでもいいや……

「葵っ!」

 父に見つかっても僕は、彼女の身体を愛撫し続けた。

「病院に来ないと思えばお前はっ!」

 そう言って僕を彼女から離そうとしたけど、僕は彼女を離さなかった。

「いい加減にしないかっ! こんなどこの馬の骨だかわからない女と、まだ続いていたのかっ! 葵、お前は院長の娘さんと結婚するんだぞっ!」

 僕は彼女を愛し続けた。

「葵っ、聞いているのかっ! つっ、君も葵から離れろっ!」

 父が彼女の腕をつかむ。

「なっ……葵、お前……死体としていたのか……」

 彼女の身体の冷たさで気付いたんだろう……いい加減うんざりして僕は顔をあげた。

「帰ってよ、今燦と愛し合ってるんだから」

「気でも狂ったのか……」

「いいから帰って……!」

 僕は父の腕をつかんで、玄関まで引きずる。

「葵、と、とにかく病院に来い! 1度検査しよう」

「もう父さんの言いなりにはならないから」

 玄関の扉を開け、父を乱暴に外へ突き飛ばす。

「葵、葵、開けなさいっ!」

 鍵も閉めたし大丈夫だろう。……ああ、そうだ。燦が淋しがっているかも。いま傍に行って安心させてあげるからね……。


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