朽ちない日記~僕の眠り姫~

さんっ!」

 彼女は目を瞑ったまま動かない。

「ねえ燦っ……起きて、お願いだからっ……一人にしないでよ」

 抱きしめればまだ温かい身体、柔らかい肌を感じる……

「もっとちゃんと謝らせてよ……僕に償いをさせて……」

 ああ燦……僕の愛しい人……

 警察が来る前に家に帰ろう……愛しい君を連れて。

 彼女に僕の上着を着せ、あの男の別荘を後にした。

──

────

 家に着き、彼女をソファーに寝かせて、濡れタオルで彼女の身体を拭く。胸にはおびただしいあの男の血が、着いていた。

「燦……」

 首にはあの男のキスマーク、腕にはたくさんの注射の痕、身体には痣や傷跡……。あの男が燦にした事が、目に浮かぶようだった。

「燦、ごめんね……」

──

────

『その男にはもう逢うな。燦に危害を加える可能性がある』

『そんな、はるかくんはいい人だよ? 私の話、いつも聞いてくれて……』

『そんな頻繁ひんぱんに逢っていたの? 製薬会社の元社長が、君に近づくなんて……なにか目的があるかもしれないだろう』

『だって、そんな事言ったら……私、誰も話相手いなくなっちゃうよ……』

『僕がいるだろう』

あおいくんは帰って来ても、すぐ寝るじゃない……朝起きたらいないし……いつ話せって言うの……』

『これからは時間を作るようにするよ。とにかくその男には……』

『嘘つきっ! そーやっていつも約束破るくせにっ!』

(滅多に怒鳴らない燦が……)

『さ、燦……』

『もういい、葵くんのバカっ……!』

 燦は玄関の扉を開けて出て行き、僕は慌てて追いかける!

『燦っ!』

 けれど燦と入れ違いに、父がやって来てしまった。

『葵っ! いい加減にしないかっ! 早くあの娘と別れろと言っているだろう!』

『父さん、いまそれどころじゃないんだっ……』

 父に阻まれて、僕は彼女を追いかける事が出来なかった。この時、父を放ってすぐに彼女を追いかけていたら……





『ただいま……燦?』

 彼女の靴がない、昨日いなくなったまま帰ってないのか……。

 仕事に追われて夜遅くに帰った僕を迎えたのは、電気の消えた暗い部屋。

 どこに行ったんだろう……。


『ふう……』

 あの男の調査資料……違法人体実験で懲戒処分を受けている……。

 燦、まさかあの男のところに……。

『燦っ!』

 やっと見つけた彼女が泊まっていたホテル……でももういなくて、男に抱えられた女が、車に乗って行ったという目撃情報だけが残っていた……。

 彼女がいなくなって1週間、何か手がかりはないかと家の中を探していたら……手紙と一緒にそれを見つけた。

『葵くんへ。誕生日おめでとう! あなたと出逢って4年、色んな事があったね。葵くんと過ごした日々は、全て私の宝物だよっ。……本当、出逢う事が出来てよかった。これからもお互い、おじいちゃんおばあちゃんになっても、誰もが羨むカップルでいようねっ。愛してます。燦より』

『燦、どこにいるの?……逢いたい……』

 プレゼントは紫色のストーンブレスレットと、ネクタイ。毎日付けている……今もそう。

「燦……」

 彼女の腕に巻かれた包帯……そうだ、日記。読まなきゃ……

 彼女が肌身離さず持っていた日記の鍵を、鍵穴に差し込み開けた……



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