朽ちない日記~僕の眠り姫~

さん……っ」

 あおいくんが崩れるのが見えた。葵くん、ごめんね。あなたの言う事、聞いていればよかったのにね。

 どうかもう傷つかないで……私の事は、忘れて……。私はもう、前には戻れないの……。




 あの人が私を欲望のままに抱いたあと、

「燦、愛してるヨ」

 あの人が私に、口づけしようとした。

 ごふっ。

 そして真っ赤な血を吐き、その血が私の胸にかかった。

「燦……? キミ……」

「やっと効いた……」

「何したの……」

 げほっごほっ。

 私の身体に血を吐き、咳をする。

「ココアのお返し、まだしてなかったから」

「アア、アレかぁ……」

 そう言って、苦しそうに笑うあの人。

「お返しなんて、別にイイのにナァ……」

「プレゼントしたかったから。大嫌いな遥くんに、憎悪という私の想い、渡したかったの」

「ソウ、アリガトウ。ぐっ、ハア……キミからプレゼント、うぐっ……もらえるなんて、ウレシイナ……アリガトウ」

 げほっごほっ。

 一際大きな咳をして、

「愛してるヨ、燦」

 あの人が倒れた。

「燦っ」

 葵くんが私を抱きしめた。

「燦、おいで」

 葵くんが私とあの人を、引き離してくれる。

「燦、家に帰ろう」

「葵くん、私もう……」

 ごほっ。

「燦っ!!」

 ダメなの……。

「燦、血が……」

 葵くんが私を抱きかかえて、心配する。

「毒を飲んだの……」

「なんで、なんでそんな事っ……!!」

 いつもクールな葵くんが泣いてる……いっぱい傷つけちゃったね……

「もう私、汚いから……あの人やここの研究員と毎日セックスしてた……」

「つっ……燦は汚くなんかないっ! 綺麗だよ!」

 私の頬を優しく撫でるあなた。ああ、私の大好きな指……懐かしい。

「ごめんね、僕のせいでこんな事に……」

「ちがう、違うよ。私が葵くんの言う事聞かなかったから……」

 げほっごほっ。

「燦っ!」

 ああ、葵くん……

「もっと話たかったけど、うっ……はあ、ムリみたい……げほっごほっ」

「いやだっ! 死んだら許さないよっ……燦っ、逝かないでっ」

 もっとあなたの姿見たいのに、涙が止まらないよ……

「はあっ……ぐっ」

「燦、燦っ……」

 私を優しく抱きしめるあなた。葵くんの匂いだ……ああ。

「愛してる、愛してるよ燦」

 そんな事言わないで……愛してもらう資格なんて、ないよ……

「葵くん、うぐっ……はあ、私の日記、読んでねっ……はあ、鍵は、んうっ……この腕の包帯の中……知って欲しいこと、ぜんぶ……閉じ込めてある、からっ……」

 読んで私を嫌いになって……忘れて他の誰かと幸せになって……

「お願いだから、死なないでっ……君が死んだら僕はっ……どうすればいいっ……」

「ごめんね、葵くん……はあ、ありがとう……あいし、てた……」

「燦っ!!」

 落ちていく意識の中、「愛してるよ」唇に彼の温もりを感じた……

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