朽ちない日記~僕の眠り姫~

「やだやだ離して! いやあっ!」

 さん、燦っ……僕がもっと早く気付いていれば……っ。

 そのあとを見る勇気が湧かなくて、途中でやめようと思った。けど……

あおいくん、ありがとう……愛してた……』

『私の日記、読んでね……知って欲しいこと、ぜんぶ……閉じ込めてある、から……』

 読まなきゃ……それが彼女の願いだから。

 燦があの男に犯される様が、克明に刻まれていて僕はつらくなった。

 彼女の自動書記能力は彼女の心が乱れると、否応なしに書き綴っていく……まるで今、ここで彼女が犯されているようで、胸が締め付けられる……燦っ。

 そのあとも綴られていく彼女の言葉は、痛々しい事ばかりだった。

 製薬会社の元社長のあの男は、燦を実験モルモットにして、あらゆる試作品を彼女に投与していった。

 最初の頃は逃げ出そうとしたり、反抗したりと逆らっていた燦。

 けれど、そのたびに与えられる『お仕置き』と称した暴行殺傷で、ページを捲っていくごとに、燦はだんだんと気力を無くしていった……。

 1日の文も短くなり、たんたんと出来事を語るだけになっていった。

──

────

 ?月?日 日付わからない。

 自殺をしようとしたけど、あの人に気付かれて刃物や危険な物は隠されてしまった。あーあ、死ねなくなっちゃった。

 ?月?日

 昨日は一晩中、寝かせてもらえなかった。あの人の要望を全て受け入れて、望まぬ愛を交わした。

「燦チャン、イイコだネっ」

 あの人が言った。だって大人しく言う事を聞いていれば、痛い事されないから。……いつからこんなに弱くなったんだろう……強かった私は、どこ言っちゃたんだろう……。

 ?月?日

 行為の途中で気分が悪くなって吐いた。

「具合ワルイの?」と聞かれ、「最近、胸がムカムカする」と言ったら「つわり?」と言う。

 検査の結果、妊娠5週目といわれ、すぐ堕胎させられた。よかった………あの人の子供を産むはめになんなくて。

 それからあの人は、行為の前に私にピルを飲ます。相変わらずあの人は、私の中に己の欲望を注ぎ込む。

……もし、葵くんが私の日記を読んだらどうしよう……こわい、嫌われる、絶対。

(そんな事ないよ。今でも愛してる)

 でも、どっちみち私は葵くんの元には帰れない……こんなにもあの人の精液まみれの身体、汚い……。

(汚くなんかないっ……燦はあの頃のまま綺麗だよ……)

 ?月?日

 今夜もいつものように、あの人とセックスをする。

 朝から昼は、検査や薬の投与、それから実験テスト。昼から夕方は、他の研究員とセックス。

 女のいない実験室で日夜、研究ばかりしている彼らは、私を性のはけ口にするようになった。

 毎日、セックスしたくなる薬を飲まされて、抵抗しようにもセックスしたさが勝って、彼らを受け入れてしまう。

 夜、あの人は研究所に帰って来る。あの人は、私が研究員とセックスしてる事を知らない。言ってないから。

 毎日毎日セックスしてる内に、セックスなしじゃいられなくなってしまったから。

 身体も心も淫乱になってしまった……葵くん、ごめんなさい。

 最近あの人は行為中に、私に愛を囁かせる。

「ボクの名前呼んで、アイシテルって言って」

 だから私は、あの人の望み通りの言葉を吐く。でもあの人に犯されながらも、私は思う。


 愛してるわけないじゃない。……こんな目に合わせて。身体は犯されても、心は侵されない。あなたなんか、大っ嫌いよ!!

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