朽ちない日記~僕の眠り姫~

 11月23日

『また相談したいコトがあったら、呼んでネ?』

 はるかくんの言葉を思い出し電話したら、ホテルのロビーに来てくれた。

「ハロー! さんチャン、何だか元気ナイみたいだケド、どーしたの?」

「遥くん……」

「ン?」

「遥くんは……いい人だよね?……悪い人じゃないよね?」

 あおいくんに言われた言葉を思い出し、不安になって遥くんに問う。

「クスクス、いきなり何だい? 変な燦チャン」

「答えて」

「……大丈夫ダヨ。ボクは燦チャンの力になりたいナーって思ってるカラ」

 遥くんはエメラルドグリーンの瞳を優しく細めて、笑ってくれた。

「うん、そうだよね。遥くんは友達だもん。いい人だもんね」

 この世界でたった一人出来た友達を疑うなんて……私はダメだな。

「……燦チャンってバカだよネ」

「なっ、ば、バカ?」

「そう、バカ。バカで単純で可愛くて……だから力になりたくなるんだよネー」

 ニコニコ笑う遥くんに、私はたまらなくなった。

「遥くん……」

「アレ、アレ? 泣かしちゃった? ゴメンネ、じゃあハイ! コレでも飲んで機嫌直してヨ」

 そう言って、紙コップに入ったココアをくれた。

「ありがと。うん、おいし……」

 遥くんは私の涙を拭って言った。

「燦チャン、葵クンに何か言われたのカイ?」

「うん、遥くんと逢うなって……危ない人かもしれないからって……人をすぐ信じちゃダメって言われたの」

「フゥーン……なるほどネ」

「大体、葵くんって過保護すぎなんだよ……私だって腕っ節の強さには、自信があるのにさ」

「クククっ……腕っ節ってそんなコト、なかなか言わないヨ」

 遥くんが楽しそうに笑うので、何だか私は恥ずかしくなった。

「え、変だった? やだ、はずかし……」

「今度は顔真っ赤になってるヨ? ホント、可愛いネ」

「わー、見ないでー」

「クスクス」

 やっぱり遥くんはいい人だなぁ。さっきまでの悩みが嘘みたい。

「ココア、ごちそうさまっ」

「ドウイタシマシテ」

 ほっとしたせいかな、眠くなってきて目を擦った。

「ねぇ、燦チャン」

「ううん? なあに?」

「そんなに葵クンが構ってくれないなら、ボクと浮気しナイ?」

「えっ?」

 遥くん、何を言っているの……。

「ねえ、ボクなら毎日キミを抱いてあげるヨ?」

 ぎゅっと遥くんに腕をつかまれた。

「やだ、痛いよ。冗談はやめて」

 振り払おうにも、力が入らない。

 うそ、なんで?

「はるか……くん?」

 遥くんが妖しく笑った。

 葵くんの言葉が脳裏によぎる……

『燦、簡単に人を信じちゃいけないよ


 逃げなきゃ……わかっているのに、身体に力が入らず瞼が重い。

「燦チャンは腕っ節には自信あるみたいだケド、薬にはかなわないよネっ」

「くすり?」

「ココア。あの中に入ってたんだ。キミは何も疑わずに飲んだネ。クスクス、ホントバカだネ」

 ああ、本当にそうだ。バカだ私……遥くんの笑い声が遠のく。ごめんなさい、葵くん……。









どこ、ここ……? 私、葵くんとケンカして、それから遥くんと……!
 逃げなきゃ!

 ジャラリと音がした。見れば私の手足に鎖がついていた……。

「起きた?」

 ソファーから立って、遥くんは私のいるベッドに来る。

「これ、何のつもり?」

「モチロン、燦チャンが逃げないようにだヨ」

 そう言って私の髪を撫でる。

「やめて」

「ンー? もしかして、ご機嫌ナナメってヤツ?」

 遥くんを睨む。

「ボクもずいぶん嫌われたナァ―。……これはしつけないとダメカナ?」

 舌舐めずりして近づく遥くん。

「やだっ、来ないで!」

 逃げようと身をひるがえしたら、後ろから抱き抱えられた。

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