朽ちない日記~僕の眠り姫~

さん、どれがいい?」

 デパートのケーキ売り場で、彼女に聞く。

「やっぱりチョコレートケーキかな。君、1番好きって言ってたよね」

 ああ、あとロウソクも忘れずに買わなきゃ……だって今日は彼女の誕生日だから。

「ホールで買ってあげたいけど、2人じゃ食べきれないからね。1個で許してね」

「えー、何この人……」

「一人で話してる……」

 どこへ行っても、人々は僕らを好奇の目で見る。

「頭、変なんじゃない?」

「カッコイイのになぁ」

 あー、うるさいな。聞こえてるんだけど。

「彼女かな」

「えー、妹じゃないの?」

「もったいないなぁ」

 ヒソヒソヒソヒソ……

 本当、下衆げすの勘繰りは煩わしいな。さっさと買って帰ろう。

「チョコレートケーキひとつ」

「えっ、あ、はい!」

 帰り道、彼女の膝にケーキを置き、車椅子を押していたら、花屋があった。

「綺麗だね。何か買って行こうか」

 僕は一輪の真っ赤なバラの花を買った。






家に着き、手を洗い、ケーキを冷蔵庫に入れて、バラの花を活ける。

「燦、そろそろお風呂入ろうか。僕は汗かいて気持ち悪いよ」

 僕はお風呂を洗い、お湯を張った。彼女をお風呂に入れるのも、今では手慣れたものだ。

 彼女の身体を隅々まで綺麗に洗い、髪も丁寧に洗っていく。それから燦を壁に寄りかかせて、自分の身体と髪を洗う。燦を抱き上げ、一緒に湯船に浸かる。

「もう僕以外の誰にも、君を触らせないから……」

 お風呂から上がり、彼女の身体を拭く。

「ん、いい匂い」

 湯上がりの彼女の身体を抱きしめ、その熱に触れる。

「あったかい……」

 服を着せたら、ドライヤーで彼女の髪を乾かして、櫛で整える。自分も服を着て、適当に乾かす。

「燦、じゃあそろそろ準備するから、少し待ってて」

 僕はテーブルにケーキを持ってきて、ロウソクを差し、バラの花も置き、引き出しからプレゼントを取り出す。

「じゃあ、点けるよ」

 電気をつけていない部屋に、夕日が差し込み、ロウソクの火が灯る。

「誕生日おめでとう、燦」

 彼女を後ろから抱きしめ、頬にキスをする。

「あと、プレゼント」

 箱に入ったダイヤの指輪を出して、彼女の薬指にはめる。

「もっと早く、プロポーズすればよかった……。燦、僕はこれからも君だけを愛して行くから……ずっと一緒にいようね」

 そう言い、燦の顔を覗き込んだら……彼女が少し、微笑んだ気がした……。






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