episode:2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
━━━━━━━━━━━━━━━
クージョージョータロー君は背がとっても大きい。私との足のリーチの差があるのでスタスタと歩いてしまう彼を追いかけるのに私は今それだけを考えて早歩きをしていた。
背中も大きくて、学生さんとは全く思えない体格の良さに、何かスポーツでもしてるのかなー。と息を少し荒くしながら追いかける。
そんな私に気づいたのか、ジョータロー君はちらり、と私を見て、歩くスピードを落としてくれる。単純な私はその行為がとてと優しいものだと感心して、また締りのないだらしない顔になってしまう。
きっとご家族が優しいんだろうな、ジョータロー君は。動物も好きみたいだし、背が大きくて顔がちょっぴり怖いけど、緊張はまだしちゃうけど、全然怖くなんかないな。なんてまた憶測で考えていたばかりに、私はジョータロー君の足が止まっていることに全く気が付かなかった。
「ここらでいいか。」
『うぶっ』
「ッ、おい…………」
『あいてて、ご、ごめんなさい、ちょっと考えごと………してた………』
立ち止まったジョータロー君の大きな背中にぶつかり、その反動でよろける私の背中に手を回し、ジョータロー君がぐん、と引き寄せて立たせてくれる。ひりつく鼻を擦りながら、呆れているような、焦っているような顔をしたジョータロー君に謝って、苦笑い。
ぼーっとしてんじゃねぇぞ。と一つ愚痴っぽく零すも、その目は少し心配そうで、私はまたくすり、とだらしのない顔になってしまう。
「…………オネーサンは…………いや、まぁいい。怪我はねーな。」
『あ、はい!大丈夫!ごめんね。』
「………丁度ベンチがあるな。座って話すぜ。」
『う、うん!』
休憩室から少し歩いたところの、自動販売機と喫煙する為の灰皿の置いてあるちょっとした休憩スペースのベンチにどさり、と座るジョータロー君に呼ばれ、すぐさま私はジョータロー君のそれに素直に従って、恐る恐る腰をかける。少し間が空いて、沈黙。ジョータロー君の方を見たまま、ジョータロー君も私の方を見たまま。
「…………」
『……………』
「…………」
『……………』
とても話しにくそうだ。葛藤しているような表情で、彼は薄く口を開いたり閉じたりをしている。私はハキハキとものを喋る彼がこんなにも言い難いことってなんだろう、と緊張してごくり、と生唾を飲み込んでしまう。
「…………俺自身、馬鹿だとは、思う。」
『えっ』
「オネーサン、俺は今から突拍子もねーことを聞くが…………クソッ、やれやれだぜ。」
『え?あの、ジョータロー君………?』
「単刀直入に聞くぜ、オネーサン。アンタ…………【イルカと会話ができる】な?」
どくり、と心臓が叩かれたような衝撃を受ける。どうしてジョータロー君がその事を?館長も、佐藤さんも、東堂さんも、家族だって知らないのに。緊張からか、サーーー、と耳から血の気が引く音がする。冷や汗が噴き出して、思考が纏まらない。そんな私を見て、ジョータロー君は続ける。
「……その反応じゃ、マジのようだな。俺が可笑しくなった訳じゃあなくて良かったぜ。」
『な、なんで、知ってるの?どうして………』
「…………最初は空耳だと思った。俺以外聞こえてる風な客はいなかったからな。先週来た時には聞こえてた。普通に喋るより遥かにデカい声だぜ。そして今日、それは確信に変わった」
ジョータロー君は俯いて震える私の顎を掴み、ぐい、と自分と目を合わせる。あぁ、そんな、聞こえる人が居るなんて、どうして思わなかったのかな。私如きが動物と話せるのだ、誰か他の人が同じような能力を持っていたって、何もおかしくないのに。目の前のクージョージョータロー君は、私と同じなのかな。私と………同じ…………
何を怖がることがあったのだろう。私の震えは止まって、ジョータロー君のエメラルドの綺麗な瞳を見つめる。映る私はまただらしのない顔になっていた。だって、だってつまり、私は初めて私以外の【仲間】に会えたんだ。私だけじゃなかった、私だけじゃ。
「………嬉しそーな顔だな、オネーサン。」
『う、うん!ジョータロー君もお話出来るんだね!嬉しい……嬉しいな……!私だけじゃなかったんだ………!』
「……喜んでるとこ悪いが、俺は話せねぇ。」
『え!?』
「アンタがイルカに話しかけてるのが聞こえるだけで、イルカからのアンタへの応答や俺が話しかけたり出来るわけじゃーねー。」
『そ、そうなの………?』
私の声だけが?ジョータロー君が言うには、私がイルカに話しかけている時だけ、脳内に私の声が響くらしい。一緒じゃないことは残念だけど、それでも私はなんだか嬉しかった。ジョータロー君もきっと、私と同じような能力を持っているか、それに近い何かがある子なのだ。
「聞きてーことは確かめられた。次はオネーサンの番だぜ。」
『あ、うん!あの、ジョータロー君………館長とどういう関係なの………?一般人の人はバックヤードには入れられない規則があって………』
「………おふくろがあの館長と仲良いらしいな。この間家に来て、ここの水族館の館長だと言うから、俺は今日、オネーサンと話がしたくて入れてもらったという訳だ。」
『あ、やっぱりそういう感じなんだ………』
ホリィさんというのがきっと、ジョータロー君のお母様なんだろう。さっきの館長の言葉から大体は想像していたけれど、そこまで仲が良かっただなんて。
聞きたい事が聞けて良かったのだけれど、私には何となくモヤモヤとした突っかかりが残る。ジョータロー君はわざわざ私がイルカと会話ができるという事を確かめるためだけに、本当に館長に無理を言って通してもらったのだろうか。本当に、それだけ?
私がじ、とジョータロー君を見つめていると、ジョータロー君はさっきと同じくまた話しにくそうに、何かを言おうとしている。遠慮なんかしなくてもいいよ、と言ってあげたいのだけど、彼は私が促さなくたってきっと口にするのだから、私はただ待つ。
「…………オネーサン。頼み事がある。」
『う、うん、はい。私に出来ることなら………』
「……あの館長から耳にタコが出来るほど聞いたが、アンタは海洋学に詳しいらしいな。そしてイルカと話せる。」
『あ、イルカだけじゃないの。動物とお話が出来て………』
「なに?じゃあ何だ、魚とかとも喋れんのか。」
『うん!』
「なるほどな………もっと頼みたくなったぜ。オネーサン。俺は………将来海に関わる仕事をしたいと思ってる。」
ジョータロー君は、ぽつりぽつりと語っていく。昔から海が好きで、海の生き物が好きだったこと。勉強はするものの、海に行く機会が少ないこと、海洋学というものがどういう物なのか気になっていたこと、そしてそれを、誰にも言ったことがないことを話してくれた。彼の顔も言葉も、真剣そのもので、私も彼の気持ちを聞いて頷いていく。
「だから、オネーサンさえ良ければ、だが。………俺の知らん事を、アンタに教えて欲しい。仕事の後でも構わねー、アンタの都合に合わせる。」
『私でよければ!是非お手伝いさせて欲しいな……と、思います!でもジョータロー君、一つ約束をして欲しいことがあります!』
「あぁ。何だ?」
『平日は、ちゃんと学校に行きましょう!そうじゃないと、いい大学に入れません!勉強も……苦手科目でもちゃんと勉強しましょう。海の事には役に立たないことだと思わずに……目の前の頑張れることをしなくっちゃ。』
「………それだけか?」
『うん!』
私がジョータロー君の夢を助けられるのなら、助けてあげたい。それには彼にも頑張ってもらわないといけない。少し驚いた顔をする彼は、やれやれだぜ、と肩をすくめる。癖なのだろうか。
「………頼んでおいて言うのもなんだが」
『ん?』
「…………叶絵さんは、相当お人好しだぜ。」
『それは…………ほ、褒めてますか?』
「…………やれやれだぜ。」
褒めてる褒めてる、と適当に返す彼は、きっと照れ隠しでそう言っているのだろう。憶測だけど、彼はいい子だから、本当にそうだと思って、私は思わず笑ってしまう。少し眉をひそめた彼に、私はもう一度きちんと目を合わせてから、しゃん。と背筋を伸ばす。
『遅くなっちゃったけど、ちゃんと自己紹介するね。野間崎叶絵です。不束者ですがよろしくお願いします!』
「……叶絵さん、それじゃお見合いのようだぜ。」
『えぇ!?ちがった!?じゃ、若輩者ですが……?』
「………やれやれだぜ。」
前途多難だな、と笑う彼に、私は釣られて笑顔を零した。
クージョージョータロー君は背がとっても大きい。私との足のリーチの差があるのでスタスタと歩いてしまう彼を追いかけるのに私は今それだけを考えて早歩きをしていた。
背中も大きくて、学生さんとは全く思えない体格の良さに、何かスポーツでもしてるのかなー。と息を少し荒くしながら追いかける。
そんな私に気づいたのか、ジョータロー君はちらり、と私を見て、歩くスピードを落としてくれる。単純な私はその行為がとてと優しいものだと感心して、また締りのないだらしない顔になってしまう。
きっとご家族が優しいんだろうな、ジョータロー君は。動物も好きみたいだし、背が大きくて顔がちょっぴり怖いけど、緊張はまだしちゃうけど、全然怖くなんかないな。なんてまた憶測で考えていたばかりに、私はジョータロー君の足が止まっていることに全く気が付かなかった。
「ここらでいいか。」
『うぶっ』
「ッ、おい…………」
『あいてて、ご、ごめんなさい、ちょっと考えごと………してた………』
立ち止まったジョータロー君の大きな背中にぶつかり、その反動でよろける私の背中に手を回し、ジョータロー君がぐん、と引き寄せて立たせてくれる。ひりつく鼻を擦りながら、呆れているような、焦っているような顔をしたジョータロー君に謝って、苦笑い。
ぼーっとしてんじゃねぇぞ。と一つ愚痴っぽく零すも、その目は少し心配そうで、私はまたくすり、とだらしのない顔になってしまう。
「…………オネーサンは…………いや、まぁいい。怪我はねーな。」
『あ、はい!大丈夫!ごめんね。』
「………丁度ベンチがあるな。座って話すぜ。」
『う、うん!』
休憩室から少し歩いたところの、自動販売機と喫煙する為の灰皿の置いてあるちょっとした休憩スペースのベンチにどさり、と座るジョータロー君に呼ばれ、すぐさま私はジョータロー君のそれに素直に従って、恐る恐る腰をかける。少し間が空いて、沈黙。ジョータロー君の方を見たまま、ジョータロー君も私の方を見たまま。
「…………」
『……………』
「…………」
『……………』
とても話しにくそうだ。葛藤しているような表情で、彼は薄く口を開いたり閉じたりをしている。私はハキハキとものを喋る彼がこんなにも言い難いことってなんだろう、と緊張してごくり、と生唾を飲み込んでしまう。
「…………俺自身、馬鹿だとは、思う。」
『えっ』
「オネーサン、俺は今から突拍子もねーことを聞くが…………クソッ、やれやれだぜ。」
『え?あの、ジョータロー君………?』
「単刀直入に聞くぜ、オネーサン。アンタ…………【イルカと会話ができる】な?」
どくり、と心臓が叩かれたような衝撃を受ける。どうしてジョータロー君がその事を?館長も、佐藤さんも、東堂さんも、家族だって知らないのに。緊張からか、サーーー、と耳から血の気が引く音がする。冷や汗が噴き出して、思考が纏まらない。そんな私を見て、ジョータロー君は続ける。
「……その反応じゃ、マジのようだな。俺が可笑しくなった訳じゃあなくて良かったぜ。」
『な、なんで、知ってるの?どうして………』
「…………最初は空耳だと思った。俺以外聞こえてる風な客はいなかったからな。先週来た時には聞こえてた。普通に喋るより遥かにデカい声だぜ。そして今日、それは確信に変わった」
ジョータロー君は俯いて震える私の顎を掴み、ぐい、と自分と目を合わせる。あぁ、そんな、聞こえる人が居るなんて、どうして思わなかったのかな。私如きが動物と話せるのだ、誰か他の人が同じような能力を持っていたって、何もおかしくないのに。目の前のクージョージョータロー君は、私と同じなのかな。私と………同じ…………
何を怖がることがあったのだろう。私の震えは止まって、ジョータロー君のエメラルドの綺麗な瞳を見つめる。映る私はまただらしのない顔になっていた。だって、だってつまり、私は初めて私以外の【仲間】に会えたんだ。私だけじゃなかった、私だけじゃ。
「………嬉しそーな顔だな、オネーサン。」
『う、うん!ジョータロー君もお話出来るんだね!嬉しい……嬉しいな……!私だけじゃなかったんだ………!』
「……喜んでるとこ悪いが、俺は話せねぇ。」
『え!?』
「アンタがイルカに話しかけてるのが聞こえるだけで、イルカからのアンタへの応答や俺が話しかけたり出来るわけじゃーねー。」
『そ、そうなの………?』
私の声だけが?ジョータロー君が言うには、私がイルカに話しかけている時だけ、脳内に私の声が響くらしい。一緒じゃないことは残念だけど、それでも私はなんだか嬉しかった。ジョータロー君もきっと、私と同じような能力を持っているか、それに近い何かがある子なのだ。
「聞きてーことは確かめられた。次はオネーサンの番だぜ。」
『あ、うん!あの、ジョータロー君………館長とどういう関係なの………?一般人の人はバックヤードには入れられない規則があって………』
「………おふくろがあの館長と仲良いらしいな。この間家に来て、ここの水族館の館長だと言うから、俺は今日、オネーサンと話がしたくて入れてもらったという訳だ。」
『あ、やっぱりそういう感じなんだ………』
ホリィさんというのがきっと、ジョータロー君のお母様なんだろう。さっきの館長の言葉から大体は想像していたけれど、そこまで仲が良かっただなんて。
聞きたい事が聞けて良かったのだけれど、私には何となくモヤモヤとした突っかかりが残る。ジョータロー君はわざわざ私がイルカと会話ができるという事を確かめるためだけに、本当に館長に無理を言って通してもらったのだろうか。本当に、それだけ?
私がじ、とジョータロー君を見つめていると、ジョータロー君はさっきと同じくまた話しにくそうに、何かを言おうとしている。遠慮なんかしなくてもいいよ、と言ってあげたいのだけど、彼は私が促さなくたってきっと口にするのだから、私はただ待つ。
「…………オネーサン。頼み事がある。」
『う、うん、はい。私に出来ることなら………』
「……あの館長から耳にタコが出来るほど聞いたが、アンタは海洋学に詳しいらしいな。そしてイルカと話せる。」
『あ、イルカだけじゃないの。動物とお話が出来て………』
「なに?じゃあ何だ、魚とかとも喋れんのか。」
『うん!』
「なるほどな………もっと頼みたくなったぜ。オネーサン。俺は………将来海に関わる仕事をしたいと思ってる。」
ジョータロー君は、ぽつりぽつりと語っていく。昔から海が好きで、海の生き物が好きだったこと。勉強はするものの、海に行く機会が少ないこと、海洋学というものがどういう物なのか気になっていたこと、そしてそれを、誰にも言ったことがないことを話してくれた。彼の顔も言葉も、真剣そのもので、私も彼の気持ちを聞いて頷いていく。
「だから、オネーサンさえ良ければ、だが。………俺の知らん事を、アンタに教えて欲しい。仕事の後でも構わねー、アンタの都合に合わせる。」
『私でよければ!是非お手伝いさせて欲しいな……と、思います!でもジョータロー君、一つ約束をして欲しいことがあります!』
「あぁ。何だ?」
『平日は、ちゃんと学校に行きましょう!そうじゃないと、いい大学に入れません!勉強も……苦手科目でもちゃんと勉強しましょう。海の事には役に立たないことだと思わずに……目の前の頑張れることをしなくっちゃ。』
「………それだけか?」
『うん!』
私がジョータロー君の夢を助けられるのなら、助けてあげたい。それには彼にも頑張ってもらわないといけない。少し驚いた顔をする彼は、やれやれだぜ、と肩をすくめる。癖なのだろうか。
「………頼んでおいて言うのもなんだが」
『ん?』
「…………叶絵さんは、相当お人好しだぜ。」
『それは…………ほ、褒めてますか?』
「…………やれやれだぜ。」
褒めてる褒めてる、と適当に返す彼は、きっと照れ隠しでそう言っているのだろう。憶測だけど、彼はいい子だから、本当にそうだと思って、私は思わず笑ってしまう。少し眉をひそめた彼に、私はもう一度きちんと目を合わせてから、しゃん。と背筋を伸ばす。
『遅くなっちゃったけど、ちゃんと自己紹介するね。野間崎叶絵です。不束者ですがよろしくお願いします!』
「……叶絵さん、それじゃお見合いのようだぜ。」
『えぇ!?ちがった!?じゃ、若輩者ですが……?』
「………やれやれだぜ。」
前途多難だな、と笑う彼に、私は釣られて笑顔を零した。