episode:1
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あのショーからどれほど経ったか。何度か水族館の方からイルカショーのアナウンスが鳴り、その度にBGMが小さく聞こえてきたので、どうやらイルカショーとやらは日に何度か行われるらしいことは理解し、数時間経った頃、何度か何を律儀に待ってるんだとショーの方に乗り込んでやろうとも思ったが、昼時になって客席から上がる拍手や歓声を聞くとその気も失せた。
新品だったタバコがほぼカラっ欠になった頃、ガチャ、と目の前の従業員用出入口が開く。目の前の待っていた女はこちらを見上げて、驚きに目を見開く。それを見て、少し胸を撫で下ろす。さっきの「あの顔」を見ることにならずに済んだことに。
「…………案外遅かったな。」
『…………えっ?』
ステージの上の明るさはどこへやら、見下ろす女は酷く怯えたように目をさまよわせている。俺にと言うよりは、全てに怯えているような印象だ。またそれが腹立たしいまではいかずとも気分のいいもんでもねぇ。俺の足元のタバコを見てある程度は察したのであろう、女の身体が強ばるのを見て、俺は出来るだけゆっくりとしたトーンで話し掛ける。
「………ショーってのは1日に何回もやるのか。」
『あ、そ、そう、かな……』
妙に吃っている女を見て、視線を下に下ろす。叶絵といったか、少し離れていても感じる戸惑いに、どのタイミングで謝罪をしようか考えあぐねていた。
手持ち無沙汰になったので、タバコをグリグリと踏みつけて火を消す。そういえば、中々の問題行動だがやはりこの女、何も気にしちゃいないらしい、それとも今は緊張で目に入らんだけか、口うるさくねーのは助かるがそれもそれでどーだかと思う俺は弄れているのだろう。
ともあれ、俺はこの叶絵というトレーナーに吐いてしまった言葉のツケを返しに来ただけだ、いつまでも黙っていないで言ってしまわなければならない。そうして帰ればこの女とももう会うこともないだろう。
「………悪かった。」
『………へ?』
「………アンタが、オネーサンが固まっちまったこと、だぜ。少々口が悪かったと、謝りに来た。それだけだ。じゃあな。」
今日はやけに慣れねぇことをさせられる日だぜ、と小さくため息をついて踵を返す。これで終わりだと思っていた矢先、細い木の棒が服に引っかかった程度の引き攣りを感じ、思わず目を見開いて振り返る。
やってしまった、と顔に書かれてんのかってーくらい驚いた顔をしたオネーサンと目が合う。オイオイ、その顔は俺がしたいもんだぜ。
俺と目が合うとぱっ、と手を離し、うろうろと視線をさまよわせて、意を決したのか、俺の目を見て深呼吸をして、オネーサンはその口を控えめに開く。
『あの、その……クージョージョータロー君……は、わるく、ない……です。私が、全部悪くて………』
「……オイオイ、どうしてそうなるってんだ。オネーサン。」
馬鹿なのか?シンプルにそう思った。何をアンタが謝ることがあるってーんだ?そう捲し立てたい気持ちを抑えて、とにかくオネーサンにいらん緊張を与えないように、極力静かにそう聞き返す。オネーサンは続けざまにこう言う。
『私が………君に、お節介を焼いてしまったから……その、私ずっと、そうで………だから君に言われたこと、酷くなんかない、です……本当のことだから……私が【どうかしている】っていうの……』
安易に想像出来た。この目の前のオネーサンは【だから】なのだと。元来の性質なのだろう、俺の雰囲気を「なんとなく」で見抜いたように、俺という存在を対して「問題である」と捉えないソレが、このオネーサンは周りの人間と悉くズレていたのだろう。だから俺の言葉に何らかのトラウマを感じ、動かなくなった。
そしてその事を俺に謝っている。
益々馬鹿なのか?と思った。自分が傷付くことを、事情は知らねぇとしても俺のアレはオネーサンにとっては【暴言】そのものだった。心を抉ったはず。だが言うに事欠いてなんだ?「自分が悪い」だと?
俺は酷く腹が立っていた。わざわざこの俺が慣れねぇことをしてまで謝りに来たってのに、このオネーサンは俺の謝罪を認めず、ましてや自分が全て悪いと俺から「逃げようとしていやがる」!!
………さっきまで、謝罪するだけして逃げよーとしていたのは俺だったことを棚に上げて、だが。それでも俺は気に食わんことは気に食わん。
「……オネーサン」
『う、そ、そういうことだから、あなたは悪くないから、気にしないで……!』
カバンを抱き抱え、俺の横をすり抜けようとするオネーサンの腕を掴んでこの身に寄せる。イルカの背中に乗って登場するだけあって、バランス力や体幹がいいのか、ぐらりと傾いた姿勢をなんとか整えて、俺の近くで丸く目を見開いて戸惑っている。
言い逃げはよかねぇと学んだ、俺はオネーサンにきちんと謝罪の「真意」を話さなきゃならんと思った。じゃねぇとオネーサンはまた、自分が悪かったと自分を責めてトラウマを増やす事になるだろうことは、分かっていたからだ。俺は何もその為に謝罪に来たわけじゃあねぇ。
「……やっぱり、俺の言葉が悪かったようだ、オネーサン。俺はアンタに傷ついて欲しくてそう言った訳じゃあねーんだぜ。」
『そ、れは、あの……』
「言葉を変えるなら、「変わっている」と、言うべきか。」
『か、「変わっている」…………』
またもや言葉を間違えたか、オネーサンの顔は徐々に戸惑いから悲しみへとうつり変わっていく。俺はとにかく気にせず話を続けた。
「………俺は、この見てくれで分かるとは思うが、所謂不良と言うやつだ。大抵の奴らは俺の顔や姿を見ただけで怯えてしっぽ巻いて逃げるもんだ。」
『え?あ、はい……え?』
「寄ってくるのは、うるせぇアマ達位なもんだ。どの道、俺は見た目ってので人に勝手な憶測でものを言われることが殆どだ。それ自体は、自分が好きでやってる格好だ、文句言う筋合いもねーが。」
『は、はぁ………』
俺の言い出したことがサッパリなのか、オネーサンは困惑に顔を染める。それにしてもよく顔に出るな、と最早感心すら覚えていた。
段々とオネーサンの方も俺が言ってることが分かってきたのか、困惑の表情が少し和らいだ気がする。
「……アンタが最初俺に手を振った時は、オネーサンもうるせぇアマ達の類かと思ったんだが、すぐに違うと分かった。アンタは自己紹介の時、ショーを客と楽しみたいと言ったな。嘘じゃないと思った。だから、俺は、イルカのショーを………楽しめた。イルカに触りてぇのも、そうだ。オネーサンは、なぜだか俺の事を分かってるように俺を呼んだな。」
『え、あ………よかった………やっぱり、イルカ、好きだったんだ。お魚も。』
俺のそれを聞いて、ほっとしたような表情になる。怯えも減って、ここでやっとオネーサンのぎこち無いが、笑顔が出る。らしくない事ばかり言う俺の羞恥心なんて、ついぞ感じてないだろう。
「………あぁ。それを誰にだって俺は言ったことがないんだぜ。オネーサンは俺を見かけで判断せずに、貴重な経験をさせてくれた………俺の周りには居なかったタイプだった。だから【おかしい】と【変わってる】と思ったんだ。」
『そ、うだったんだ………』
「だから、礼を言わなきゃならんかったんだぜ。俺はな。ありがとうよ。」
俺がそう言うと、ぱっと顔を明るくさせて、嬉しそうにオネーサンは笑う。その顔を直視すると、むず痒くて仕方がなくなる。……母親以外にこんな含みのない満面の笑みを向けられたのはいつぶりだったか。
オネーサンは笑みを潜め、話を続ける。
『うん………嬉しい、ありがとう。そして、ごめんなさい、クージョージョータロー君……勝手に勘違いをして、あなたのその思いをきちんと理解できなかったこと………気を遣わせてしまったことは、謝らせてね。本当にごめんなさい。』
俺の眉が少しつり上がって、眉間にシワが寄った。まだ俺に謝るのかと今度こそ言ってやろうと思ったが、やんわりと止められれば、俺にその言葉を吐き出すことは出来なくなる。オネーサンは言葉を続ける。
『あ、のね、クージョージョータロー君。イルカのショー、楽しめたって言ってくれて、ありがとう。あのね、私今、色々なショーの形を考えていて、きっとこれから、もっとこの水族館のイルカショーは良くなっていくから………だから、また………見に来てくれるかな………!』
オネーサンの真剣な表情に、改めて思い知らされるのは、このオネーサンは素直すぎて細かいことは何一つだって気にしてねーということ。肝っ玉が据わっているとかそーゆーんでなくて、純粋に俺……客に楽しんでもらいたいのだという事。
今回限りだと、俺は一体誰に言い訳をしていたというのか。
「………また俺が行ってもいいのか。」
『うん。』
「………またイルカ、触れるか。」
『うん!』
「……………そうか。」
ふ、と思わず笑みが溢れる。俺の顔を見たオネーサンも、にこりと笑う。しかし中々どーして、面白いオネーサンだ。
「じゃあな。」
地面に落としたタバコの吸殻たちを拾い集め、俺は今度こそオネーサンに別れを告げてその場から立ち去る。もう随分と日も暮れたから、オネーサンを送ってやろうかとも考えて、すぐ様その考えを消す。何だってんだ本当に、らしく無さすぎるぜ。
………そしてそれが案外悪い気もしねーのが、また胸に微かな爪の引っ掻きを残すようで、しばらく歩いたあと、俺は後ろを振り返る。
オネーサンが従業員用出入口に戻っていく後ろ姿が見えて、パタリと扉が閉まるのが見える。何か用事でも思い出したのだろう。
俺は帰路につきながら、今日の事を思い返す。今朝のムシャクシャよりかは、随分とマシな気分で、自分の家に帰るために電車の改札を通った。
あのショーからどれほど経ったか。何度か水族館の方からイルカショーのアナウンスが鳴り、その度にBGMが小さく聞こえてきたので、どうやらイルカショーとやらは日に何度か行われるらしいことは理解し、数時間経った頃、何度か何を律儀に待ってるんだとショーの方に乗り込んでやろうとも思ったが、昼時になって客席から上がる拍手や歓声を聞くとその気も失せた。
新品だったタバコがほぼカラっ欠になった頃、ガチャ、と目の前の従業員用出入口が開く。目の前の待っていた女はこちらを見上げて、驚きに目を見開く。それを見て、少し胸を撫で下ろす。さっきの「あの顔」を見ることにならずに済んだことに。
「…………案外遅かったな。」
『…………えっ?』
ステージの上の明るさはどこへやら、見下ろす女は酷く怯えたように目をさまよわせている。俺にと言うよりは、全てに怯えているような印象だ。またそれが腹立たしいまではいかずとも気分のいいもんでもねぇ。俺の足元のタバコを見てある程度は察したのであろう、女の身体が強ばるのを見て、俺は出来るだけゆっくりとしたトーンで話し掛ける。
「………ショーってのは1日に何回もやるのか。」
『あ、そ、そう、かな……』
妙に吃っている女を見て、視線を下に下ろす。叶絵といったか、少し離れていても感じる戸惑いに、どのタイミングで謝罪をしようか考えあぐねていた。
手持ち無沙汰になったので、タバコをグリグリと踏みつけて火を消す。そういえば、中々の問題行動だがやはりこの女、何も気にしちゃいないらしい、それとも今は緊張で目に入らんだけか、口うるさくねーのは助かるがそれもそれでどーだかと思う俺は弄れているのだろう。
ともあれ、俺はこの叶絵というトレーナーに吐いてしまった言葉のツケを返しに来ただけだ、いつまでも黙っていないで言ってしまわなければならない。そうして帰ればこの女とももう会うこともないだろう。
「………悪かった。」
『………へ?』
「………アンタが、オネーサンが固まっちまったこと、だぜ。少々口が悪かったと、謝りに来た。それだけだ。じゃあな。」
今日はやけに慣れねぇことをさせられる日だぜ、と小さくため息をついて踵を返す。これで終わりだと思っていた矢先、細い木の棒が服に引っかかった程度の引き攣りを感じ、思わず目を見開いて振り返る。
やってしまった、と顔に書かれてんのかってーくらい驚いた顔をしたオネーサンと目が合う。オイオイ、その顔は俺がしたいもんだぜ。
俺と目が合うとぱっ、と手を離し、うろうろと視線をさまよわせて、意を決したのか、俺の目を見て深呼吸をして、オネーサンはその口を控えめに開く。
『あの、その……クージョージョータロー君……は、わるく、ない……です。私が、全部悪くて………』
「……オイオイ、どうしてそうなるってんだ。オネーサン。」
馬鹿なのか?シンプルにそう思った。何をアンタが謝ることがあるってーんだ?そう捲し立てたい気持ちを抑えて、とにかくオネーサンにいらん緊張を与えないように、極力静かにそう聞き返す。オネーサンは続けざまにこう言う。
『私が………君に、お節介を焼いてしまったから……その、私ずっと、そうで………だから君に言われたこと、酷くなんかない、です……本当のことだから……私が【どうかしている】っていうの……』
安易に想像出来た。この目の前のオネーサンは【だから】なのだと。元来の性質なのだろう、俺の雰囲気を「なんとなく」で見抜いたように、俺という存在を対して「問題である」と捉えないソレが、このオネーサンは周りの人間と悉くズレていたのだろう。だから俺の言葉に何らかのトラウマを感じ、動かなくなった。
そしてその事を俺に謝っている。
益々馬鹿なのか?と思った。自分が傷付くことを、事情は知らねぇとしても俺のアレはオネーサンにとっては【暴言】そのものだった。心を抉ったはず。だが言うに事欠いてなんだ?「自分が悪い」だと?
俺は酷く腹が立っていた。わざわざこの俺が慣れねぇことをしてまで謝りに来たってのに、このオネーサンは俺の謝罪を認めず、ましてや自分が全て悪いと俺から「逃げようとしていやがる」!!
………さっきまで、謝罪するだけして逃げよーとしていたのは俺だったことを棚に上げて、だが。それでも俺は気に食わんことは気に食わん。
「……オネーサン」
『う、そ、そういうことだから、あなたは悪くないから、気にしないで……!』
カバンを抱き抱え、俺の横をすり抜けようとするオネーサンの腕を掴んでこの身に寄せる。イルカの背中に乗って登場するだけあって、バランス力や体幹がいいのか、ぐらりと傾いた姿勢をなんとか整えて、俺の近くで丸く目を見開いて戸惑っている。
言い逃げはよかねぇと学んだ、俺はオネーサンにきちんと謝罪の「真意」を話さなきゃならんと思った。じゃねぇとオネーサンはまた、自分が悪かったと自分を責めてトラウマを増やす事になるだろうことは、分かっていたからだ。俺は何もその為に謝罪に来たわけじゃあねぇ。
「……やっぱり、俺の言葉が悪かったようだ、オネーサン。俺はアンタに傷ついて欲しくてそう言った訳じゃあねーんだぜ。」
『そ、れは、あの……』
「言葉を変えるなら、「変わっている」と、言うべきか。」
『か、「変わっている」…………』
またもや言葉を間違えたか、オネーサンの顔は徐々に戸惑いから悲しみへとうつり変わっていく。俺はとにかく気にせず話を続けた。
「………俺は、この見てくれで分かるとは思うが、所謂不良と言うやつだ。大抵の奴らは俺の顔や姿を見ただけで怯えてしっぽ巻いて逃げるもんだ。」
『え?あ、はい……え?』
「寄ってくるのは、うるせぇアマ達位なもんだ。どの道、俺は見た目ってので人に勝手な憶測でものを言われることが殆どだ。それ自体は、自分が好きでやってる格好だ、文句言う筋合いもねーが。」
『は、はぁ………』
俺の言い出したことがサッパリなのか、オネーサンは困惑に顔を染める。それにしてもよく顔に出るな、と最早感心すら覚えていた。
段々とオネーサンの方も俺が言ってることが分かってきたのか、困惑の表情が少し和らいだ気がする。
「……アンタが最初俺に手を振った時は、オネーサンもうるせぇアマ達の類かと思ったんだが、すぐに違うと分かった。アンタは自己紹介の時、ショーを客と楽しみたいと言ったな。嘘じゃないと思った。だから、俺は、イルカのショーを………楽しめた。イルカに触りてぇのも、そうだ。オネーサンは、なぜだか俺の事を分かってるように俺を呼んだな。」
『え、あ………よかった………やっぱり、イルカ、好きだったんだ。お魚も。』
俺のそれを聞いて、ほっとしたような表情になる。怯えも減って、ここでやっとオネーサンのぎこち無いが、笑顔が出る。らしくない事ばかり言う俺の羞恥心なんて、ついぞ感じてないだろう。
「………あぁ。それを誰にだって俺は言ったことがないんだぜ。オネーサンは俺を見かけで判断せずに、貴重な経験をさせてくれた………俺の周りには居なかったタイプだった。だから【おかしい】と【変わってる】と思ったんだ。」
『そ、うだったんだ………』
「だから、礼を言わなきゃならんかったんだぜ。俺はな。ありがとうよ。」
俺がそう言うと、ぱっと顔を明るくさせて、嬉しそうにオネーサンは笑う。その顔を直視すると、むず痒くて仕方がなくなる。……母親以外にこんな含みのない満面の笑みを向けられたのはいつぶりだったか。
オネーサンは笑みを潜め、話を続ける。
『うん………嬉しい、ありがとう。そして、ごめんなさい、クージョージョータロー君……勝手に勘違いをして、あなたのその思いをきちんと理解できなかったこと………気を遣わせてしまったことは、謝らせてね。本当にごめんなさい。』
俺の眉が少しつり上がって、眉間にシワが寄った。まだ俺に謝るのかと今度こそ言ってやろうと思ったが、やんわりと止められれば、俺にその言葉を吐き出すことは出来なくなる。オネーサンは言葉を続ける。
『あ、のね、クージョージョータロー君。イルカのショー、楽しめたって言ってくれて、ありがとう。あのね、私今、色々なショーの形を考えていて、きっとこれから、もっとこの水族館のイルカショーは良くなっていくから………だから、また………見に来てくれるかな………!』
オネーサンの真剣な表情に、改めて思い知らされるのは、このオネーサンは素直すぎて細かいことは何一つだって気にしてねーということ。肝っ玉が据わっているとかそーゆーんでなくて、純粋に俺……客に楽しんでもらいたいのだという事。
今回限りだと、俺は一体誰に言い訳をしていたというのか。
「………また俺が行ってもいいのか。」
『うん。』
「………またイルカ、触れるか。」
『うん!』
「……………そうか。」
ふ、と思わず笑みが溢れる。俺の顔を見たオネーサンも、にこりと笑う。しかし中々どーして、面白いオネーサンだ。
「じゃあな。」
地面に落としたタバコの吸殻たちを拾い集め、俺は今度こそオネーサンに別れを告げてその場から立ち去る。もう随分と日も暮れたから、オネーサンを送ってやろうかとも考えて、すぐ様その考えを消す。何だってんだ本当に、らしく無さすぎるぜ。
………そしてそれが案外悪い気もしねーのが、また胸に微かな爪の引っ掻きを残すようで、しばらく歩いたあと、俺は後ろを振り返る。
オネーサンが従業員用出入口に戻っていく後ろ姿が見えて、パタリと扉が閉まるのが見える。何か用事でも思い出したのだろう。
俺は帰路につきながら、今日の事を思い返す。今朝のムシャクシャよりかは、随分とマシな気分で、自分の家に帰るために電車の改札を通った。