episode:3
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「「変な男に名刺押し付けられたァ!?」」
『ち、違いますよぅ…………乗り換えで困っていた男の人に名刺を貰って………ちょっと困ってたら承太郎君に助けて貰って……って、それだけの話ですって………』
机からばん!と2人が乗り出し、私にそう言う2人に首を振って誤解を招いてしまったことを否定するも、2人はそれが変な男じゃないならなんなのだ、と私に抗議する。机の上には私たち3人のお弁当と、何故か受け取った覚えのない、私の上着のポケットから出てきた例の名刺がある。
いつ入れられたかは分からないが、きっとすれ違った時にでも滑り込ませたのだろう。というのは分かるのだけど、やはりそれは強引でちょっと怖がってしまう訳だが、2人はこんなもの捨ててしまえと矢継ぎ早に名刺をゴミ箱に捨てる。
少しあの人に悪いとは思ったけど、これで怖がるくらいならば捨てた方が確かにいいのだろう。
「それで?承太郎君が迎えに来てくれるの?毎日?」
『はい。心配してくれてるみたいで……』
「そりゃまた待ち伏せられてたらって心配にはなるけどさ………な、東堂さん。」
「ええ…………なんとも思ってない年上の女の子にそこまでするかしら。」
こそこそと目の前の2人が、チラチラと私を見てニヤつく。あ、これはまた何か厄介な雰囲気だ。私の箸を進めるスピードが格段に上がる。
「実際どーなの?そこら辺さ。承太郎君。」
『うぐっ………な、何がですか……?』
「遠回しに聞いたって伝わりませんよ佐藤さん。で?付き合ってんの?承太郎君と。」
『ゴホッ!!ゴホゴホッ!!な、何でそうなるんですか!?』
噎せる私に尚もニヤつきながら、2人はほうほうと私の反応を見てさらにその口角を上げる。付き合ってる、付き合うってのはつまり、私と承太郎君の関係がその、カップルなのかどうなのかという質問を投げかけられた訳だが、私達のどこをどう見たらそうなるのかが全く分からない。分からないのだが、何故か私は慌てていて、すぐに否定の言葉が出なかった。
『つ、付き合うだなんてそんな、無いです。承太郎君はそりゃ、しっかり者でいい子で、とても素敵な子ですけど………釣り合ってませんよ。そんな………』
「え……やだ。満更でもない感じなの?やっぱり困ってる所を助けられて承太郎君に男を感じちゃった感じ?」
『ちがっ…………』
本当に違うのだろうか。そういう意味の好きとか嫌いとか、私は1度も経験したことはない。だから分からない。勉強したって、恋愛の事なんか習ったこともない。本当に真っ向から違うと否定できるような知識は私には無いのだ。
確かに彼に助けて貰って、私はその恐怖が薄れた。それがなくたって、私はもう承太郎君と出会う前の私なんて忘れてしまった。今の私があるのは確実に承太郎君のおかげで、承太郎君のそばに居ると落ち着いて、楽しくて、ずっと一緒にいたいと思う。もし、それが皆の言う恋だの好きだのと言うのなら、もしそうだとしたら。
『………分からないんです。私………恋愛とかそういうの………した事がなくて。承太郎君のそばに居ると落ち着いて……勇気が湧くんです。成長しなくてはと思う。』
「うーーーん………色々好きっていうのも形があるから一概には言えないけど……叶絵ちゃんは、承太郎君が居た方が嬉しい?」
『それは、勿論ですよ!』
「じゃあ今は承太郎君はそばに居てくれるけど………もし、承太郎君に彼女が出来て、彼が貴方のそばにいなくなったら?」
『え…………』
承太郎君に、彼女。その言葉にひやりと心が撫でられる。承太郎君の隣に、私以外の女の子が?それは………
『嫌………嫌です。とても、嫌な気持ちになります………。』
「……そっか。叶絵ちゃん、貴方今、恋をしてるのよ。おめでとう。」
自覚したら、腑に落ちた。あぁ、私は承太郎君の事が好きなのだと。しっくり来た。とても。心に染入るようにその言葉が。だからこそ、だから……
『どう、しましょう。私………彼のそばに、居られません。』
「え!?な、なんでそうなるの!?」
『承太郎君はモテモテなんです。でも、モテるのが嫌みたいなんです。こんな、邪な考えを私が抱いてるって知ったら………私、嫌われます。』
そんなの耐えられない。無理だ。今更承太郎君に嫌われるだなんて、そんなの消えてしまった方が楽なくらい。だから、もう彼に会ってはいけない。きっと私は分かりやすいから。私が承太郎君の表情で察知するように、彼もまた私を分かりやすいと言うのだもの。
「だ、大丈夫だと思うよ!?叶絵ちゃんは!むしろ「佐藤さんシッ!!」あーーーー………」
「叶絵ちゃん。承太郎君が嫌いになってしまうかもって不安があるから、承太郎君に会うのが怖いのね?」
『はい………』
「でもその気持ちを持っていると、承太郎君に会わないのも辛いわよ。」
『つらいです………でも、嫌われてしまうよりは………… 』
「その間に彼女が出来ちゃうかもよ?」
『そ、それも嫌です………!』
「じゃあそんな貴方の思いを解決する簡単な方法を教えてあげるわ。叶絵ちゃん。承太郎君にも貴方と同じ気持ちを抱かせればいいのよ。」
俯いていた顔を上げて、東堂さんを見る。
つまり、承太郎君に私の事を好きになってもらえばそれでいいのだと彼女は言う。
そんなこと、出来るのだろうか。私は可愛くもなければ綺麗でもない。特筆すべき良い特徴が全くないのだ。とてもではないけれど承太郎君に好きになってもらえるところなんて……
「貴方のいい所は人の事を思いやれる優しいところよ。誰にでも出来ることじゃない。それに貴方だけよ、きっと。あの無口な承太郎君の感情を察することが出来るのは。」
『そ、うですか………?』
「私は全くわかんない。いつも不機嫌に見えて怖いもの。だから大丈夫。自信を持って。貴方は素敵な子よ。だからまずは自分を好きになって。」
東堂さんのその優しい言葉に、へこたれていた自分を情けなく思う。そうだ。まだ何もしてないのに諦めるだなんて、そんな情けないことを私はこれまでやってきただろうか?否、私は夢を諦めずひたすら努力をして勝ち取った。それだけは確かに私の自信なのだ。そして巡り会った縁にまた助けられた。ならば。
『私……頑張ります!承太郎君に好きになって貰えるように………!何をしたらいいかわからないですけど、私の取り柄は目標に向かって頑張ることですから!!』
「ふふん。よろしい。私と佐藤さんがついてるわ。任せてちょうだい!」
「ええー………まぁ、俺も微力ながら。叶絵ちゃんの為だしな!」
『お二人共………ありがとうございます!頑張ります!!』
自信の無い私を、2人は心の底から応援してくれているんだ。からかったり、意地悪でなくて。本当に私のことを応援してくれている。それが分かって少し目頭が熱くなったけど、なんとか零れないように唇を噛んで、笑った。
「………何かあったか?」
『え!?いや何も!?』
「…………本当に顔に出るな。」
承太郎君の予告通り、従業員出口の前で私が出てくるのを承太郎君が待ってくれていた。開口一番に承太郎君が私の異変を察知して訝しげに私を覗くので、思わず目をそらす。東堂さんと佐藤さんに励まされてアドバイスも貰ったけれど、恥ずかしくってまともに目さえ合わせられない。きっと私の顔はリンゴのように真っ赤になって目線をさ迷わせているだろう。
「……あの野郎が水族館に来たわけでは無いんだな?」
『あ、忘れてた…………来てないと思うよ?さすがに。』
「………はー。警戒心が足りん。」
『うっ、す、すみません……』
承太郎君が呆れて私に向けてため息をついて、歩き出す。すかさず私も後について行くが、怒らせてしまっただろうか。それもそうか、承太郎君は私の事を心配してここまで迎えに来てくれるのに、当の本人の私がその、承太郎君の事でいっぱいいっぱいであの男性の事を忘れてしまっていたのだ。怒られて当然だ。
「………それか」
『?』
「そんな事気にするまでもなく、何か他に考え事でもしてたのか?」
ドキン。と胸がはねる。じょ、承太郎君はエスパーなんだろうか?夕日に照らされて影が落ちる承太郎君の表情は分からないが、不機嫌そうでは無いのは確かだ。ごくり、と生唾を飲み込んで無理やり笑顔を作って否定する。
「フーン…………どうだかな?」
『な、なんでもないってば!なんにも考えてないよ!』
「そうか。あぁ………そういえばおふくろが今日は夕飯にデザートをつけると言ってたな。叶絵さんを誘えと。」
『ええ!?ホリィさんのデザート!?い、行きたい……』
「あぁ。俺もそっちの方が助かる。最近は……飯の時間が楽しくていい。」
『…………えへへ。私のおかげだったりする?』
「…………さぁてな。自信あるかい?」
『いひひひひ…………あります!』
「妙な笑い声を出すんじゃあねぇぜ。……フッ。」
『あ、笑った。ふふっ。』
くつくつと喉を鳴らす承太郎君を見て、私も釣られて笑う。あぁ、今はまだ、承太郎君の隣にいれるだけで。それだけでいいだとか、少しだけ思ってたけど…………今なら、勇気出るかな。
「…………怖いのか?」
『ううん。怖くないよ。承太郎君が居るから。繋ぎたくなったの。ダメ?』
「…………………悪くない。」
勇気を振り絞って、承太郎君の大きな手を取って繋いでみた。承太郎君は拒むことはなくて、私が握るより強く手を握ってくる。あったかい。良かった。嫌われなくて。心底胸を撫で下ろし、私達は駅へと歩幅を揃えて歩き出した。
「どうして…………野間崎叶絵さん……………どうして………………」
ギリ、と奥歯が限界を知らせる音がする。メリメリと歯と歯がぶつかり合い、先に限界が訪れた歯茎からは血がじっとりと滲む。
男は伸びる2人の影が見えなくなるまで、血走らせたその瞳を見開いて睨みつけていた。ガリガリと塀を掻きむしる爪は剥がれ、ボロボロになり、じわりと血が滲む。
通りがかった通行人達はその男を不審に見るも、次の瞬間にはどこか光悦とした表情で散歩や帰宅に作業を戻す。
「僕の、僕のだ…………叶絵…………!穢れた君は要らない……僕だけに笑いかけてくれる君じゃないと……………【空条承太郎】………あいつさえ居なければ…………」
「きっと彼女は、僕のものだ。」
「「変な男に名刺押し付けられたァ!?」」
『ち、違いますよぅ…………乗り換えで困っていた男の人に名刺を貰って………ちょっと困ってたら承太郎君に助けて貰って……って、それだけの話ですって………』
机からばん!と2人が乗り出し、私にそう言う2人に首を振って誤解を招いてしまったことを否定するも、2人はそれが変な男じゃないならなんなのだ、と私に抗議する。机の上には私たち3人のお弁当と、何故か受け取った覚えのない、私の上着のポケットから出てきた例の名刺がある。
いつ入れられたかは分からないが、きっとすれ違った時にでも滑り込ませたのだろう。というのは分かるのだけど、やはりそれは強引でちょっと怖がってしまう訳だが、2人はこんなもの捨ててしまえと矢継ぎ早に名刺をゴミ箱に捨てる。
少しあの人に悪いとは思ったけど、これで怖がるくらいならば捨てた方が確かにいいのだろう。
「それで?承太郎君が迎えに来てくれるの?毎日?」
『はい。心配してくれてるみたいで……』
「そりゃまた待ち伏せられてたらって心配にはなるけどさ………な、東堂さん。」
「ええ…………なんとも思ってない年上の女の子にそこまでするかしら。」
こそこそと目の前の2人が、チラチラと私を見てニヤつく。あ、これはまた何か厄介な雰囲気だ。私の箸を進めるスピードが格段に上がる。
「実際どーなの?そこら辺さ。承太郎君。」
『うぐっ………な、何がですか……?』
「遠回しに聞いたって伝わりませんよ佐藤さん。で?付き合ってんの?承太郎君と。」
『ゴホッ!!ゴホゴホッ!!な、何でそうなるんですか!?』
噎せる私に尚もニヤつきながら、2人はほうほうと私の反応を見てさらにその口角を上げる。付き合ってる、付き合うってのはつまり、私と承太郎君の関係がその、カップルなのかどうなのかという質問を投げかけられた訳だが、私達のどこをどう見たらそうなるのかが全く分からない。分からないのだが、何故か私は慌てていて、すぐに否定の言葉が出なかった。
『つ、付き合うだなんてそんな、無いです。承太郎君はそりゃ、しっかり者でいい子で、とても素敵な子ですけど………釣り合ってませんよ。そんな………』
「え……やだ。満更でもない感じなの?やっぱり困ってる所を助けられて承太郎君に男を感じちゃった感じ?」
『ちがっ…………』
本当に違うのだろうか。そういう意味の好きとか嫌いとか、私は1度も経験したことはない。だから分からない。勉強したって、恋愛の事なんか習ったこともない。本当に真っ向から違うと否定できるような知識は私には無いのだ。
確かに彼に助けて貰って、私はその恐怖が薄れた。それがなくたって、私はもう承太郎君と出会う前の私なんて忘れてしまった。今の私があるのは確実に承太郎君のおかげで、承太郎君のそばに居ると落ち着いて、楽しくて、ずっと一緒にいたいと思う。もし、それが皆の言う恋だの好きだのと言うのなら、もしそうだとしたら。
『………分からないんです。私………恋愛とかそういうの………した事がなくて。承太郎君のそばに居ると落ち着いて……勇気が湧くんです。成長しなくてはと思う。』
「うーーーん………色々好きっていうのも形があるから一概には言えないけど……叶絵ちゃんは、承太郎君が居た方が嬉しい?」
『それは、勿論ですよ!』
「じゃあ今は承太郎君はそばに居てくれるけど………もし、承太郎君に彼女が出来て、彼が貴方のそばにいなくなったら?」
『え…………』
承太郎君に、彼女。その言葉にひやりと心が撫でられる。承太郎君の隣に、私以外の女の子が?それは………
『嫌………嫌です。とても、嫌な気持ちになります………。』
「……そっか。叶絵ちゃん、貴方今、恋をしてるのよ。おめでとう。」
自覚したら、腑に落ちた。あぁ、私は承太郎君の事が好きなのだと。しっくり来た。とても。心に染入るようにその言葉が。だからこそ、だから……
『どう、しましょう。私………彼のそばに、居られません。』
「え!?な、なんでそうなるの!?」
『承太郎君はモテモテなんです。でも、モテるのが嫌みたいなんです。こんな、邪な考えを私が抱いてるって知ったら………私、嫌われます。』
そんなの耐えられない。無理だ。今更承太郎君に嫌われるだなんて、そんなの消えてしまった方が楽なくらい。だから、もう彼に会ってはいけない。きっと私は分かりやすいから。私が承太郎君の表情で察知するように、彼もまた私を分かりやすいと言うのだもの。
「だ、大丈夫だと思うよ!?叶絵ちゃんは!むしろ「佐藤さんシッ!!」あーーーー………」
「叶絵ちゃん。承太郎君が嫌いになってしまうかもって不安があるから、承太郎君に会うのが怖いのね?」
『はい………』
「でもその気持ちを持っていると、承太郎君に会わないのも辛いわよ。」
『つらいです………でも、嫌われてしまうよりは………… 』
「その間に彼女が出来ちゃうかもよ?」
『そ、それも嫌です………!』
「じゃあそんな貴方の思いを解決する簡単な方法を教えてあげるわ。叶絵ちゃん。承太郎君にも貴方と同じ気持ちを抱かせればいいのよ。」
俯いていた顔を上げて、東堂さんを見る。
つまり、承太郎君に私の事を好きになってもらえばそれでいいのだと彼女は言う。
そんなこと、出来るのだろうか。私は可愛くもなければ綺麗でもない。特筆すべき良い特徴が全くないのだ。とてもではないけれど承太郎君に好きになってもらえるところなんて……
「貴方のいい所は人の事を思いやれる優しいところよ。誰にでも出来ることじゃない。それに貴方だけよ、きっと。あの無口な承太郎君の感情を察することが出来るのは。」
『そ、うですか………?』
「私は全くわかんない。いつも不機嫌に見えて怖いもの。だから大丈夫。自信を持って。貴方は素敵な子よ。だからまずは自分を好きになって。」
東堂さんのその優しい言葉に、へこたれていた自分を情けなく思う。そうだ。まだ何もしてないのに諦めるだなんて、そんな情けないことを私はこれまでやってきただろうか?否、私は夢を諦めずひたすら努力をして勝ち取った。それだけは確かに私の自信なのだ。そして巡り会った縁にまた助けられた。ならば。
『私……頑張ります!承太郎君に好きになって貰えるように………!何をしたらいいかわからないですけど、私の取り柄は目標に向かって頑張ることですから!!』
「ふふん。よろしい。私と佐藤さんがついてるわ。任せてちょうだい!」
「ええー………まぁ、俺も微力ながら。叶絵ちゃんの為だしな!」
『お二人共………ありがとうございます!頑張ります!!』
自信の無い私を、2人は心の底から応援してくれているんだ。からかったり、意地悪でなくて。本当に私のことを応援してくれている。それが分かって少し目頭が熱くなったけど、なんとか零れないように唇を噛んで、笑った。
「………何かあったか?」
『え!?いや何も!?』
「…………本当に顔に出るな。」
承太郎君の予告通り、従業員出口の前で私が出てくるのを承太郎君が待ってくれていた。開口一番に承太郎君が私の異変を察知して訝しげに私を覗くので、思わず目をそらす。東堂さんと佐藤さんに励まされてアドバイスも貰ったけれど、恥ずかしくってまともに目さえ合わせられない。きっと私の顔はリンゴのように真っ赤になって目線をさ迷わせているだろう。
「……あの野郎が水族館に来たわけでは無いんだな?」
『あ、忘れてた…………来てないと思うよ?さすがに。』
「………はー。警戒心が足りん。」
『うっ、す、すみません……』
承太郎君が呆れて私に向けてため息をついて、歩き出す。すかさず私も後について行くが、怒らせてしまっただろうか。それもそうか、承太郎君は私の事を心配してここまで迎えに来てくれるのに、当の本人の私がその、承太郎君の事でいっぱいいっぱいであの男性の事を忘れてしまっていたのだ。怒られて当然だ。
「………それか」
『?』
「そんな事気にするまでもなく、何か他に考え事でもしてたのか?」
ドキン。と胸がはねる。じょ、承太郎君はエスパーなんだろうか?夕日に照らされて影が落ちる承太郎君の表情は分からないが、不機嫌そうでは無いのは確かだ。ごくり、と生唾を飲み込んで無理やり笑顔を作って否定する。
「フーン…………どうだかな?」
『な、なんでもないってば!なんにも考えてないよ!』
「そうか。あぁ………そういえばおふくろが今日は夕飯にデザートをつけると言ってたな。叶絵さんを誘えと。」
『ええ!?ホリィさんのデザート!?い、行きたい……』
「あぁ。俺もそっちの方が助かる。最近は……飯の時間が楽しくていい。」
『…………えへへ。私のおかげだったりする?』
「…………さぁてな。自信あるかい?」
『いひひひひ…………あります!』
「妙な笑い声を出すんじゃあねぇぜ。……フッ。」
『あ、笑った。ふふっ。』
くつくつと喉を鳴らす承太郎君を見て、私も釣られて笑う。あぁ、今はまだ、承太郎君の隣にいれるだけで。それだけでいいだとか、少しだけ思ってたけど…………今なら、勇気出るかな。
「…………怖いのか?」
『ううん。怖くないよ。承太郎君が居るから。繋ぎたくなったの。ダメ?』
「…………………悪くない。」
勇気を振り絞って、承太郎君の大きな手を取って繋いでみた。承太郎君は拒むことはなくて、私が握るより強く手を握ってくる。あったかい。良かった。嫌われなくて。心底胸を撫で下ろし、私達は駅へと歩幅を揃えて歩き出した。
「どうして…………野間崎叶絵さん……………どうして………………」
ギリ、と奥歯が限界を知らせる音がする。メリメリと歯と歯がぶつかり合い、先に限界が訪れた歯茎からは血がじっとりと滲む。
男は伸びる2人の影が見えなくなるまで、血走らせたその瞳を見開いて睨みつけていた。ガリガリと塀を掻きむしる爪は剥がれ、ボロボロになり、じわりと血が滲む。
通りがかった通行人達はその男を不審に見るも、次の瞬間にはどこか光悦とした表情で散歩や帰宅に作業を戻す。
「僕の、僕のだ…………叶絵…………!穢れた君は要らない……僕だけに笑いかけてくれる君じゃないと……………【空条承太郎】………あいつさえ居なければ…………」
「きっと彼女は、僕のものだ。」
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