episode:3
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
━━━━━━━━━━
「あら、やだ。このニュース叶絵ちゃんの家の近くじゃない?」
『んぐ、……ッ………え?何ですか?』
お昼休憩中、サンドイッチを頬張っていた私に東堂さんが不穏な言葉をなげかける。反応からして勿論いいニュースでないことは分かったし、それに私の家の近くだとも言う。テレビを見ていた東堂さんの隣に移動して、そのニュースというのを見る。内容というのは昨日の夜、何者かによって若い女性が襲われ重傷を負ったという。犯人はまだ掴まっていないようで、目撃情報の催促が求められている。
「やだ物騒。叶絵ちゃん、今日は承太郎君は迎えに来てくれるの?」
『あ、今日は勉強会無くて………大丈夫ですよ!人通りの多い道通って帰りますから。』
「気をつけてね?まだ犯人捕まってないみたいだし………」
確かにこんなニュースを見ては不安にはなるけれど、まぁきっとすぐにでも警察が捕まえてくれるだろうとその時の私は考えて、午後からのショーを行っている内に、その心苦しいニュースのこともすっかりと頭の中から抜け出ていった。
『今日お肉安くて良かったー、何だか得しちゃったな!』
最寄り駅近くにあるお肉屋さんに寄って、私は少し日の落ちてきた道を歩く。オヤツ代わりに買ったホクホクのコロッケを頬張りながら、お肉屋さんにオマケしてもらったお肉達を見てほくそ笑む。今日は佐藤さんに帰り際発泡酒ではないビールも頂いてしまったし、今日くらいこのお肉を焼いてビールを頂くという贅沢をしたってバチは当たらないだろう。日頃頑張っている自分をいたわる日も大切だ、と私の足取りは軽く部屋へと向かう。
「あ、あのー………」
『え?』
突然、近くから声が聞こえる。空耳かと思って当たりを見渡すと、電柱近くにサラリーマン風の人が立っているのに気付く。あんな所に人、居たっけ?と首を傾げて周りを見渡す。私以外に人は居ないし、きっとあの人は私に声をかけたのだろう。とりあえずぺこ、と頭を下げて、相手もおずおずと頭を下げる。
「あの、僕の事覚えてますか?」
『えっと………どこかでお会いしました…………?』
声をかけてきた男性は私を知っているらしい。私は全く知らない。失礼だとは思ったけど、私の人間関係はとても希薄だ。友人はろくにおらず、最近の人間関係と言ったらもっぱら職場か承太郎君とホリィさんだけなのだ。まじまじと男性を見るも、本当に記憶にない。目の前の男性は少し悲しそうな顔をしながら、そうですよね、覚えてないですよね。と肩を落とす。
『ご、ごめんなさい………』
「いえ、良いんです。益々貴方が良い人ってことは分かったんですから。貴方にとって、困っている人を助けるって言うのは、当たり前のこと………なんですよね。」
『…………あ!も、もしかして、この間電車の乗り換えで困ってた…………』
「覚えていてくれていたんですね!?」
そうだ思い出した。この間乗り換えの電光掲示板を見て困っている男性が居たから、勇気を出して声を掛けたんだった。その時の人だ。と思い出すと、彼はとても嬉しそうな顔をして電柱の陰から姿を現す。そして私に近付いて、おもむろに私の両手を握りしめる。瞬間感じた不快感に、思わず身を固めるも、彼の表情に悪意なんてのは感じられない。不快を感じてしまう私の方が失礼だ、と思いそれがバレないようにどうにか表情を和らげる。
「あの時、本当に困ってまして……僕田舎出身で、まだこちらの電車の複雑さに慣れていなくて………貴方のおかげで取引先に無事にたどり着けました。本当にありがとう。」
『え、そ、そうだったんですね。役に立てて良かったです………も、もしかして』
「はい!ずっと、ずっと貴方にお礼が言いたくて。大切な取引だったのでそりゃもう……すぐ駅をおりていったので、もしかしてと思って!」
本当に私に感謝しているのだろう、少し興奮気味に私の手を握って彼は私にぐん、と顔を近づける。思わず私は顔を引くも、彼は特に気にした様子はなく言葉を続ける。きっと彼はいい人だ。私にとても感謝して、もしかしたらこの道を通るかもと会社帰りにでも私を探していたんだろう。きっと、きっとそれだけだ。それだけだと思うのに、何故か私はこの場からどう抜け出そうかという事しか考えられない。何か嫌な、嫌な感じがする。ドクドクと早まる心臓と冷や汗に、思わずゴクリと喉が鳴る。
「あの、そ、それで………きちんとお礼がしたいので、今度お食事でもどうですか?」
『い、いえ、本当………だ、大丈夫、です。大したことでは……』
「そんな事仰らずに!貴方はとてもいい人だ。僕はそんな貴方にお礼がしたいんです!これ、僕の名刺です。」
『本当に、だい、大丈夫です、から。』
「いいから受け取ってください。電話番号もあります。連絡してください。お礼がしたいんです……」
ぐい、と私の右手を強引に開き、自分の名刺を押し込む彼。私のパニックは最高潮で、思わず後退りをする。助けて、助けてと頭の中で私の声がする。この人を突き飛ばして走れば開放されるのだろうか?でもその勇気が湧かない。どうしてもこの人からは……【何か嫌な匂い】がするのだ。
「オイ。嫌がってるだろ。離しな。」
『ッ!』
その声に、私のパニックは徐々に落ち着いていく。お腹に響くようなこの低い、体に馴染みきった声。ぐい、と強引に私を攫うその手に微かに残るタバコの香りが心地いい。見上げると、いつも私を優しく見るそのエメラルドグリーンは私が話していたサラリーマンの男性に向けられている。眉をしかめて、威嚇するライオンのように。
突然現れた承太郎君に驚いたのか、その男性は一瞬あ、だのう、だのと声を出すが、徐々にその怯みも収まってしまったのか、ひとつ態とらしく咳払いをする。
「君は学生かな?彼女の知り合い?」
「関係あるのか?行くぞ。」
『あ………』
「ちょっとちょっと。困るな。僕は叶絵さんに助けられたんだ。そのお礼がしたいってだけで……」
『え…………?』
「それが俺に関係あるのか?本人が要らねぇと言ってるんだ。」
ぐい、と承太郎君に引っ張られ、私達はその男性とすれ違う。男性はもう止めもしなかったけれど、ちらりと振り返ると表情のない顔で私たちを見ている。
どく、どく、と緊張して早鐘を打つ心臓の音を聴きながら、承太郎君に支えられて何個か路地を曲がり、その間グルグルと遠回りをする。用心深いのか、承太郎君は何度も後ろを確認している。男性が尾けてないか見てるのだろう。しかし、私は言い寄れぬ恐怖にただただ、怯える。そんな私を察してか、承太郎君は私の家を通り過ぎて、空条邸に私を連れて行く。
空条邸の敷地に入った時、それまで黙って私の手を引いていた承太郎君の手が離れるが、今度は私が承太郎君の手を慌てて掴む。驚いた承太郎君を見上げて、私は混乱したまま承太郎君の手を握って、叫びそうになる喉を締める。
「………何かされたのか。」
『ちがう……ちがうの、承太郎君…………』
「…………ゆっくりでいい。話しな。」
とん、と承太郎君の逞しい胸板に私の額が当たる。ぽん、ぽん、と震える背中を承太郎君が優しく叩いて、私が話始めるのを待っている。大袈裟かもしれない。でもたしかにあの男性は言ったんだ。私は言ってないのに、確かに口にしたんだ。ひりつく喉のまま、私は承太郎君に抱きしめられながら、言う。
『名前………』
「名前?」
『呼ばれた、さっき。私………言ってない。知らないはず、なのに。あの人、私の名前……知ってた。』
最初からおかしい話だったんだ。嫌な匂いがしたのもきっとそうだ。五感全てがあの人は危険だと悲鳴を上げてた。最寄り駅で私が降りていったとして、最寄り駅にはいくつも出口があり、何本も道があったのに、あの人は髪型も、服も、この間と何もかも違う私を、乗り換えを教えるために少しだけ話した私を、ハッキリと私と認識して声をかけたんだ。偶然ラッキーで私を見つけるだなんて、この広い町ではきっと難しい話なのに。
『怖い……承太郎君………ごめん、ごめんね………』
「………ぶっ飛ばしときゃ良かったな。怒りで余り気にしてなかったが、確かに呼んでた。」
『暴力は駄目だよ………ありがとう…………』
まだ怖かったけれど、何時までも承太郎君に抱きしめて貰っていては、場所も場所なので流石に不味い、と思って私から離れる。承太郎君体温高いな、とまだ額に残る体温にそっと触れて、ふぅー、と何度か息を吐く。承太郎君に話していたら、だいぶ落ち着いたようだ。
「……………今日、泊まっていけ。」
『え?』
「勉強会がなくたって毎日迎えに行く。水族館の出口で待ってろ。」
『いや!流石にそこまでお世話になる訳には……』
「俺が心配なんだ。」
こつ、と承太郎君の額が私の額に当たり、ぐり、と押し付けるようにされる。ちょっと痛いし近くて恥ずかしいけれど、その甘えるようなスキンシップに思わずふふっ、と笑いが毀れる。最初のツンツンしてた頃の承太郎君とは大違いだ。随分気に入ってもらえているんだな、と胸がポカポカと温まってくる。
『でもお泊まりはしないよ。ホリィさん多分喜んでくれるけど……』
「今日だけだ。もしアイツが家まで知ってる変態野郎だったらどうする。」
『こ、怖い事言わないでよ………』
「可能性は0ではねーだろ。今日は帰さん。良いな。おふくろに話してくる。」
『あ!もう!……中々強引だな、君も。』
「アレと一緒にするな。」
『…………うん。ごめん。ありがとう。本当に助かったよ………今日だけは、お世話になります。』
その後、事情を承太郎君が話したのか、顔を青くさせて私より取り乱すホリィさんを見ていたら逆に落ち着いて、お泊まりしていって!と強引に私を客間に押し込んだホリィさんの慌てぶりと、いそいそと自分の布団を客間に持ってきてはしゃぐホリィさんの姿に、私は笑って、承太郎君はやれやれ、と言いながら呆れていた。
「あら、やだ。このニュース叶絵ちゃんの家の近くじゃない?」
『んぐ、……ッ………え?何ですか?』
お昼休憩中、サンドイッチを頬張っていた私に東堂さんが不穏な言葉をなげかける。反応からして勿論いいニュースでないことは分かったし、それに私の家の近くだとも言う。テレビを見ていた東堂さんの隣に移動して、そのニュースというのを見る。内容というのは昨日の夜、何者かによって若い女性が襲われ重傷を負ったという。犯人はまだ掴まっていないようで、目撃情報の催促が求められている。
「やだ物騒。叶絵ちゃん、今日は承太郎君は迎えに来てくれるの?」
『あ、今日は勉強会無くて………大丈夫ですよ!人通りの多い道通って帰りますから。』
「気をつけてね?まだ犯人捕まってないみたいだし………」
確かにこんなニュースを見ては不安にはなるけれど、まぁきっとすぐにでも警察が捕まえてくれるだろうとその時の私は考えて、午後からのショーを行っている内に、その心苦しいニュースのこともすっかりと頭の中から抜け出ていった。
『今日お肉安くて良かったー、何だか得しちゃったな!』
最寄り駅近くにあるお肉屋さんに寄って、私は少し日の落ちてきた道を歩く。オヤツ代わりに買ったホクホクのコロッケを頬張りながら、お肉屋さんにオマケしてもらったお肉達を見てほくそ笑む。今日は佐藤さんに帰り際発泡酒ではないビールも頂いてしまったし、今日くらいこのお肉を焼いてビールを頂くという贅沢をしたってバチは当たらないだろう。日頃頑張っている自分をいたわる日も大切だ、と私の足取りは軽く部屋へと向かう。
「あ、あのー………」
『え?』
突然、近くから声が聞こえる。空耳かと思って当たりを見渡すと、電柱近くにサラリーマン風の人が立っているのに気付く。あんな所に人、居たっけ?と首を傾げて周りを見渡す。私以外に人は居ないし、きっとあの人は私に声をかけたのだろう。とりあえずぺこ、と頭を下げて、相手もおずおずと頭を下げる。
「あの、僕の事覚えてますか?」
『えっと………どこかでお会いしました…………?』
声をかけてきた男性は私を知っているらしい。私は全く知らない。失礼だとは思ったけど、私の人間関係はとても希薄だ。友人はろくにおらず、最近の人間関係と言ったらもっぱら職場か承太郎君とホリィさんだけなのだ。まじまじと男性を見るも、本当に記憶にない。目の前の男性は少し悲しそうな顔をしながら、そうですよね、覚えてないですよね。と肩を落とす。
『ご、ごめんなさい………』
「いえ、良いんです。益々貴方が良い人ってことは分かったんですから。貴方にとって、困っている人を助けるって言うのは、当たり前のこと………なんですよね。」
『…………あ!も、もしかして、この間電車の乗り換えで困ってた…………』
「覚えていてくれていたんですね!?」
そうだ思い出した。この間乗り換えの電光掲示板を見て困っている男性が居たから、勇気を出して声を掛けたんだった。その時の人だ。と思い出すと、彼はとても嬉しそうな顔をして電柱の陰から姿を現す。そして私に近付いて、おもむろに私の両手を握りしめる。瞬間感じた不快感に、思わず身を固めるも、彼の表情に悪意なんてのは感じられない。不快を感じてしまう私の方が失礼だ、と思いそれがバレないようにどうにか表情を和らげる。
「あの時、本当に困ってまして……僕田舎出身で、まだこちらの電車の複雑さに慣れていなくて………貴方のおかげで取引先に無事にたどり着けました。本当にありがとう。」
『え、そ、そうだったんですね。役に立てて良かったです………も、もしかして』
「はい!ずっと、ずっと貴方にお礼が言いたくて。大切な取引だったのでそりゃもう……すぐ駅をおりていったので、もしかしてと思って!」
本当に私に感謝しているのだろう、少し興奮気味に私の手を握って彼は私にぐん、と顔を近づける。思わず私は顔を引くも、彼は特に気にした様子はなく言葉を続ける。きっと彼はいい人だ。私にとても感謝して、もしかしたらこの道を通るかもと会社帰りにでも私を探していたんだろう。きっと、きっとそれだけだ。それだけだと思うのに、何故か私はこの場からどう抜け出そうかという事しか考えられない。何か嫌な、嫌な感じがする。ドクドクと早まる心臓と冷や汗に、思わずゴクリと喉が鳴る。
「あの、そ、それで………きちんとお礼がしたいので、今度お食事でもどうですか?」
『い、いえ、本当………だ、大丈夫、です。大したことでは……』
「そんな事仰らずに!貴方はとてもいい人だ。僕はそんな貴方にお礼がしたいんです!これ、僕の名刺です。」
『本当に、だい、大丈夫です、から。』
「いいから受け取ってください。電話番号もあります。連絡してください。お礼がしたいんです……」
ぐい、と私の右手を強引に開き、自分の名刺を押し込む彼。私のパニックは最高潮で、思わず後退りをする。助けて、助けてと頭の中で私の声がする。この人を突き飛ばして走れば開放されるのだろうか?でもその勇気が湧かない。どうしてもこの人からは……【何か嫌な匂い】がするのだ。
「オイ。嫌がってるだろ。離しな。」
『ッ!』
その声に、私のパニックは徐々に落ち着いていく。お腹に響くようなこの低い、体に馴染みきった声。ぐい、と強引に私を攫うその手に微かに残るタバコの香りが心地いい。見上げると、いつも私を優しく見るそのエメラルドグリーンは私が話していたサラリーマンの男性に向けられている。眉をしかめて、威嚇するライオンのように。
突然現れた承太郎君に驚いたのか、その男性は一瞬あ、だのう、だのと声を出すが、徐々にその怯みも収まってしまったのか、ひとつ態とらしく咳払いをする。
「君は学生かな?彼女の知り合い?」
「関係あるのか?行くぞ。」
『あ………』
「ちょっとちょっと。困るな。僕は叶絵さんに助けられたんだ。そのお礼がしたいってだけで……」
『え…………?』
「それが俺に関係あるのか?本人が要らねぇと言ってるんだ。」
ぐい、と承太郎君に引っ張られ、私達はその男性とすれ違う。男性はもう止めもしなかったけれど、ちらりと振り返ると表情のない顔で私たちを見ている。
どく、どく、と緊張して早鐘を打つ心臓の音を聴きながら、承太郎君に支えられて何個か路地を曲がり、その間グルグルと遠回りをする。用心深いのか、承太郎君は何度も後ろを確認している。男性が尾けてないか見てるのだろう。しかし、私は言い寄れぬ恐怖にただただ、怯える。そんな私を察してか、承太郎君は私の家を通り過ぎて、空条邸に私を連れて行く。
空条邸の敷地に入った時、それまで黙って私の手を引いていた承太郎君の手が離れるが、今度は私が承太郎君の手を慌てて掴む。驚いた承太郎君を見上げて、私は混乱したまま承太郎君の手を握って、叫びそうになる喉を締める。
「………何かされたのか。」
『ちがう……ちがうの、承太郎君…………』
「…………ゆっくりでいい。話しな。」
とん、と承太郎君の逞しい胸板に私の額が当たる。ぽん、ぽん、と震える背中を承太郎君が優しく叩いて、私が話始めるのを待っている。大袈裟かもしれない。でもたしかにあの男性は言ったんだ。私は言ってないのに、確かに口にしたんだ。ひりつく喉のまま、私は承太郎君に抱きしめられながら、言う。
『名前………』
「名前?」
『呼ばれた、さっき。私………言ってない。知らないはず、なのに。あの人、私の名前……知ってた。』
最初からおかしい話だったんだ。嫌な匂いがしたのもきっとそうだ。五感全てがあの人は危険だと悲鳴を上げてた。最寄り駅で私が降りていったとして、最寄り駅にはいくつも出口があり、何本も道があったのに、あの人は髪型も、服も、この間と何もかも違う私を、乗り換えを教えるために少しだけ話した私を、ハッキリと私と認識して声をかけたんだ。偶然ラッキーで私を見つけるだなんて、この広い町ではきっと難しい話なのに。
『怖い……承太郎君………ごめん、ごめんね………』
「………ぶっ飛ばしときゃ良かったな。怒りで余り気にしてなかったが、確かに呼んでた。」
『暴力は駄目だよ………ありがとう…………』
まだ怖かったけれど、何時までも承太郎君に抱きしめて貰っていては、場所も場所なので流石に不味い、と思って私から離れる。承太郎君体温高いな、とまだ額に残る体温にそっと触れて、ふぅー、と何度か息を吐く。承太郎君に話していたら、だいぶ落ち着いたようだ。
「……………今日、泊まっていけ。」
『え?』
「勉強会がなくたって毎日迎えに行く。水族館の出口で待ってろ。」
『いや!流石にそこまでお世話になる訳には……』
「俺が心配なんだ。」
こつ、と承太郎君の額が私の額に当たり、ぐり、と押し付けるようにされる。ちょっと痛いし近くて恥ずかしいけれど、その甘えるようなスキンシップに思わずふふっ、と笑いが毀れる。最初のツンツンしてた頃の承太郎君とは大違いだ。随分気に入ってもらえているんだな、と胸がポカポカと温まってくる。
『でもお泊まりはしないよ。ホリィさん多分喜んでくれるけど……』
「今日だけだ。もしアイツが家まで知ってる変態野郎だったらどうする。」
『こ、怖い事言わないでよ………』
「可能性は0ではねーだろ。今日は帰さん。良いな。おふくろに話してくる。」
『あ!もう!……中々強引だな、君も。』
「アレと一緒にするな。」
『…………うん。ごめん。ありがとう。本当に助かったよ………今日だけは、お世話になります。』
その後、事情を承太郎君が話したのか、顔を青くさせて私より取り乱すホリィさんを見ていたら逆に落ち着いて、お泊まりしていって!と強引に私を客間に押し込んだホリィさんの慌てぶりと、いそいそと自分の布団を客間に持ってきてはしゃぐホリィさんの姿に、私は笑って、承太郎君はやれやれ、と言いながら呆れていた。