episode:2

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「さ!遠慮しないで食べて!叶絵ちゃん!腕によりをかけて作ったの!あ、嫌いな食べ物はある?」




『い、いえっ!そのっ!好き嫌いありません!』





「まぁ!それはいい事だわ!私料理にはちょっぴり自信があるのよ!沢山食べていってね!」






どうしてこうなったのだろう。私は今、承太郎君のお母様ホリィさんと、承太郎君。2人と食卓を囲んでいる。というか承太郎君はとても無口だけど、ホリィさんってとてもフレンドリーだ。りょ、両極端だ………






事の発端は、つい5分程前のことだった。承太郎君との勉強が終わり、さぁ帰るぞ!と立ち上がったところを、ホリィさんがすごい勢いで承太郎君の部屋の障子を開けて、待った!を掛けたのだ。訳の分からないままあれよあれよと私はホリィさんにすごい勢いで食卓まで連れていかれ、「お夕飯ができたの!!だからぜひ!!ぜひ!!食べて行って!?」というすごい押しに断りも入れることが出来ず、こうしてありがたくご相伴あずかる事になったのだ。







助けを求めて承太郎君を見るも、素知らぬ顔で肉じゃがをもぐもぐと頬張り始めている。がくっ、と肩を落とし、私はそろりそろりと用意していただいたお箸を持つ。いやー、そんな、良いのだろうか?急にお邪魔した上に夕飯まで頂いてしまって。申し訳なさにホリィさんを見ると、爛々と目を輝かせて私が食べるのをそれはとてもとても楽しそうに待っている。これは………断る方がとても失礼だ。迷惑だなんだと考える必要は無いのだ。と自分に言い聞かせ、小さな声でいただきます。と手を合わせて、ホリィさんを見て今出来うる限りの笑顔を浮かべてから、お箸を伸ばす。







小鉢に入れられた、美味しそうなかぼちゃの煮物を、パクリとひとくち。





『ッ!?お、美味しい……ほ、ホリィさん!凄く美味しいです……!』





「キャー!やった!やったわ!嬉しい!」





「オイ……喧しいぜおふくろ。」





『本当にお料理、お上手なんですね………』





「YES!うふふ、こっちに来てからそりゃもう練習に練習、頑張ったんですもの!叶絵ちゃんに美味しいって言ってもらえて凄く嬉しいわ……」





お世辞抜きに本当に美味しかった。味がしっかりとかぼちゃに染みていて、ホクホク。これは非常にご飯がすすんでしまう。ホリィさんのご好意に甘えて良かった。本当に好き嫌いのない私だけど、今まで食べたかぼちゃの煮物の中で頂点に輝くほど、美味しい。





「肉じゃがも食べて!自信作なの!あ、それとね、こっちの肉巻きのお野菜も!あとこっちのポテトサラダに………」




『わ、わ、あ、ありがとうございますホリィさん………!!』




サササッ!!と私のお皿に料理をドンドン乗せていくホリィさんを止められず、慌ててお礼を言う。てんこ盛りになってしまったお皿を見て、食べ切れるか少々不安になってしまう量だけど、ホリィさんがここまで喜んでくれているのだ、残すなんて絶対にできない。いや、したくない。





「………おふくろ。盛りすぎだ。俺じゃねーんだ。こんなに食えるかよ。寄越しな。」





『あ……!』





「あ!ご、ごめんなさい私ったら……叶絵ちゃんに食べてもらいたくてついつい………」





『あ、いえ、そんな………!』





承太郎君が見かねて助け舟をくれたらしい。私のお皿からひょいひょいと幾分かおかずを減らしてくれる。これなら余裕を持って食べられそうだ。ありがとう、の意味を込めて承太郎君を見て笑うと、やれやれだぜ。とまたそう言って承太郎君は帽子の鍔を下げる。………そういえばお部屋でも帽子は取らないんだね。承太郎君。





「うふふ、まさか噂の叶絵ちゃんに会えるなんて思わなかったわ。」





『う、噂………ですか………?』





「館長さんとは昔知り合ったのだけど、今年に入ったイルカのトレーナーの女の子が、それはもうイルカと話しているんじゃないかってくらい意思疎通が図れてて凄い!っていうお話よ!」





『あ、あははは……き、恐縮?です………』






承太郎君を疑っていた訳では無いけれど、本当にホリィさんと館長は仲がよろしいようだ。唯一の誤算だったのは館長が私の事まで詳しくホリィさんにお話していたということで、その後もホリィさんの口から館長が私をどう評価していたのかという何とも嬉し恥ずかしいお言葉を頂く。何だかそれだけでお腹がいっぱいになりそうだ。





「それから………承太郎からもよく話を聞いていたのよ。」





『え?』





「………おふくろ。」





「この子、凄くすごーく優しくていい子なの。見た目がこうだからあまり、お友達や大人にはわかって貰えない所はあるかもね。でも、本当にいい子なのよ。だから……叶絵ちゃん。これからも承太郎を宜しくお願いしてもいいかしら。」






ぎゅ、と私の手を握って、真剣な表情でそういうホリィさんに、私は自分の母を重ねてしまった。私の母も、勉強に夢中で中々人の輪に入れない私のことを、いつもいい子なのよ。とご近所さんで恥ずかしいぐらい大袈裟に褒めてくれていた。とても、とても優しい私の母と、ホリィさんはとてもよく似ている。






『………はい。承太郎君、とてもいい子ですから。私こそ助けられる事多くて………私からも、よろしくお願いします!』





「………本人を前によくそんな恥ずかしい話が出来るな。」





『あ、ご、ごめん……』





「だってだって〜!承太郎の事愛してるから心配してるんだもん!」





「何がもん、だ。歳を考えな。」





「まぁ!酷いわ承太郎!」





『ふ、ふふっ!』






ホリィさんにあーだこーだと冷たいことを言う割には、どこか優しいその声音。ホリィさんもそれを分かっているけれど、頬をふくらませて拗ねたように口を出す。その仲睦まじい光景に、私の口からは自然と笑みがこぼれる。ホリィさんと承太郎君はそんな私に驚いたように目を向けて、優しい目を私に向ける。





いい、ご家族だね。承太郎君。だから君は、とても優しくていい子なんだね。







「ええ!本当に帰っちゃうのー!?もう遅いから泊まっていけばいいのに………!」





「馬鹿言うな。叶絵さんは明日も仕事だぜ。」





「うちから行けばいいじゃなーい!暗いし、近いとはいえ危ないわよ!」





『あ、あはは………』




夕飯を頂いた後、ホリィさんの底抜けの明るさとコミュニケーション能力の賜物で楽しい団欒を過ごしていた訳だが、時計の針が10時を指したところで、さすがに帰って明日の準備をしなくては、とのタイミングでホリィさんは私の腕を引き寄せて玄関で止めている。見かねた承太郎君が助け舟を出しても、ホリィさんは結構強引だった。流石にこれには私も苦笑いしかこぼれない。





「……ハァ。俺が送ってく。何の問題もねーだろ。」






『え!や、悪いよ!大丈夫!本当に近いし!歩いて10分だよ?』





「「危ないから駄目!/だ。」」





『い、息ぴったり………』





やっぱり親子だ、と呑気なことを考えて現実逃避するも、時間は過ぎていくばかり。流石に泊めていただくというご好意には甘えられない。ここまで私の事を気に入って貰えた事にはとても嬉しさを感じるものの、親しき仲にも礼儀ありとも言う。いや本当どうしたものか。






ぼんやりと考えていると、ふ、とホリィさんの腕の拘束が外れる。承太郎君の手がホリィさんの手を取って、私の腕を解放してくれたらしい。






「あ、承太郎!」





「今の内だぜ。」





『あ、うん!えと、ホリィさん!今日はありがとうございました!ご飯、本当に美味しかったです!また、お邪魔してもいいですか………?』






「むーーー!………えぇ、勿論よ!次はお泊まりして行って!」






ちょっとまだ納得はいってないような感じだけれど、ホリィさんはそう言ってお茶目にウィンクをしてくれた。美人は何やっても様になるなぁと見蕩れていたら、承太郎君に腕を引かれて引きずられるように玄関から出る。手を振るホリィさんに慌てて手を振り返して、承太郎君と夜道を歩く。





少し肌寒いくらいの風が頬を撫で、街灯だけが頼りの道を、2人で静かに歩いていく。閑静な住宅街では私と承太郎君の足音だけが響いて、何だか世界に取り残されたような寂しい気分だ。






「…………おふくろ」





『え?』






「かなり強引だったが………悪気はねぇ。」






『え………あぁ!うん!全然大丈夫!優しくて……いいお母さんだね。』






「…………未だに息子離れしてねーがな。」






『ふふ。承太郎君が可愛くて仕方ないんだよ。愛されてるね!』





足音だけに集中していたら、承太郎君がバツが悪そうにそう言ってきたので、きっとホリィさんのフォローをし始めたんだろう。やっぱり承太郎君もとっても優しいなぁと思いながら、私は笑ってそう答える。






『本当に、いいお母さんだね。お料理も美味しかったし………私あれだけ初対面の人とお話するの初めてかも。』





「まぁ、よく喋りはするな。」





『嬉しかった。私……誰かのお家に上がるのも、実は初めてなの。』





「……友達いねーのか。」





『うっ!……そ、その通り、です………だから、承太郎君、ありがとう。』





ぴた、と自然と承太郎君の足が止まる。私も慌てて足を止めて、承太郎君を振り返る。ちょっと驚いてるみたいな顔だ。






『本当に、今日楽しかった。明日のショー頑張れそう!』






「…………やれやれ、だぜ。思ったこと全部、素直に言い過ぎじゃあねーか。」






『そう?でも……言えないよりは良いと思うな。私。あの時言えなかったーって後悔するの、嫌だもの。』






「……………それもそうか。」






また、歩き出した承太郎君の隣を、私も歩く。歩き出して少しして、さっきのセリフ、ちょっと臭かったかな。と1人でちょっと恥ずかしくなって、そんな私を見ていたのか、承太郎君がふ。と1つ笑みをこぼす。とても優しくて何だか胸が温かくなる、そんな感覚を覚えて、私も自然と笑みがこぼれる。






「………俺も、今日は………楽しかったぜ。ありがとよ。」





『………へへ、どういたしまして!』






何だか照れくさくて見上げた空に、とても美しい月があった。






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