――





それは、唐突に訪れた。







海軍本部……海軍元帥であるセンゴクに呼び出された中将以上の階級を与えられた人間が、そのセンゴクの部屋に似つかわしくないものを一斉に見下げる






「あー……オホン。紹介しよう、この子は南の海出身の――」







『ラナンキュラスです！14歳です！これでも一応料理人です！えっとー……え、えへ、せ、センゴクさぁん……』






言うべきことを忘れたのか、チラッ、とセンゴクを見ては、えへえへと恥ずかしがりながら可愛らしく、笑む少女






――何の幻だろうか？？






ここにいる誰一人として、突然の事態に状況が理解できていないだろう






「まったく……えー。ラナンキュラスは今日から、貴様らのかねてよりの希望であったここの食堂に政府から雇われた優秀な料理人だ。役職は【総料理長】」






どよよ、と広がる動揺の声は、全員同じ理由であった






こんな……自分達のような無骨な手で触れたら、手折れてしまいそうなほど小さく、か細い少女が……






『皆さんの……えっと、食堂という憩いの場を、えっと、もっともっとこう……えーと、楽しくできる？ように……努力したいと思います！えへへ！』






「うん、よし。良い子だ」






『わーい！ちゃんとあいさつできました！がんばったがんばった！！』






普段、静かに職務をこなすか、ガープかクザンに怒鳴っているセンゴクしかしらない将校達は絶句する






あのセンゴクが、可愛らしい少女に微笑みかけて頭さえ撫でているのだ。






確かにあの無邪気な笑顔を見ていると、どうも手が疼いて仕方がない、と将校達は邪な考えを振り払うようにお互いの足をばれない様に踏みあう






「……納得いきませんのォ……こんな正体もわからねぇような餓鬼に……毒でも盛られたらたまらんですけェ」






『！？』






冷たくそう言い払い、要件はこれだけですかィ？とそうそうに切り上げようとするサカズキに、周りの雰囲気が凍る






冷たい言われように、少女も泣いてしまうのでは……？と心優しい将校達の心配も杞憂―というか、違う方向に走ってしまい、ど肝を抜かれるのだが






『ばちあたりな人！酷い！貴方……【料理人】である私に【料理に毒を盛るかも】って！？』






「――！？」






『私は、料理人っていう仕事に誇り持ってるの！自分の作った料理に人が喜んでくれるのが嬉しくって、この仕事が自分の生きがいなの！！バカにしないで！！』






あの、海軍大将赤犬に、啖呵を切った。






声も出ないほど驚く将校達に、いやしかし流石のセンゴクも驚いていた






そして――啖呵を切られた張本人。サカズキでさえも






「が、ガキがァ……！いっちょ前に――」






『ガキでも何でもいいけれど、貴方大人なら……もっと言葉を選んで物を言えるんじゃないの！？ガキだからって、舐めないでよね！！』






そう言って挙句のはてにあっかんべー！！と……そう、はたから見たら愛らしくべ、と舌を出してそっぽを向く可愛らしい少女なのだが






生憎今は、そんな可愛らしさが霞むほど、赤犬という存在が恐怖でしかない






『謝って！』






「な、何でワシが……」






『謝りなさい！この……おたんこなす！』






「お、おたんこ……な、何じゃい」






『おばかさんって意味！』






「なッ――！！付きあっちょれんわァ！！」






失礼！！とそう言って怒り散らしながら将校をかき分け、部屋の外へ歩き出していく赤犬






その背中を見つめてから、視線を戻す






『センゴクさん！私あの人嫌いッ！！謝らなかった！！』






「い、いや、うん、そ、そうだな……」






海軍大将赤犬を――わずか14歳の少女が、言い負かすとは






勿論勢い故のソレではあったが、サカズキの狼狽えるあの様は―……同僚であるクザンやボルサリーノでさえ見たことがなかった






『あ……あの、改めまして！！これからは私が腕によりをかけて！皆さんの栄養管理、美味しい料理を毎日作りますから！！えへへ、よろしくです！！』






突如現れた……台風のような少女の、可愛らしい笑顔に







はい、と気の抜けた返事しか将校達にはできなかった。