短編詰め
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――
閑静な住宅街に似つかわしくない白いシルエット
それはとても綺麗で
思わず瞬きをして、本当に存在しているのかを確かめたほど、それはとても白かった。
マイケル・マイヤーズは住宅街の真ん中でブルブルと首を振り、ずれたマスクを直してその白いシルエットにゆっくりと歩を進めた。いつものように、恐怖に引きずり下ろすために。そして自分の欲を満たすために。
そういえば、と、歩を進めながら懐かしい記憶を脳裏に思い出す。いつか夢に見た母親も、あんな白いドレスを着ていたと思う。そして白い馬を連れて自分を迎えに来てくれるのだ。そんな素敵な夢だった。
マイケル・マイヤーズはハッ、としては、既に12人が犠牲となった血塗れたキッチンナイフをぎり、と握り直し、自分が近づいても未だ自分の存在に気づいてないその白いシルエットの肩を掴む。そう、自分はいつも通り、人を恐怖に陥れなければ。
『きゃ!?』
鈴の音のような、気持ちのいい音。
美しいブロンドの髪を揺らしながら、弾かれたように自分の方へと振り返る。
白いシルエットの正体は、美しいエメラルドグリーンの瞳をした少女だった。
普段なら既に容赦なくキッチンナイフを振り下ろし、声がしなくなるまでめった刺しなのだが、何故かその少女の瞳を見てしまった後、マイケルは持っていたキッチンナイフを隠すことばかり考えていた
『びっくりした!貴方も仮装してるの?変わったマスクね!素敵!』
その少女は自分を見て、怪訝そうな、自分に敵意を持つ顔一つ浮かべなかった。目を見開いて驚いて、胸をなでおろして安堵して、そしてキラキラと自分には眩しすぎる笑みを浮かべていた。
マイケル・マイヤーズは母親以外で、こんな美しい物があることを知らなかった。もちろん、自分に笑いかけてくれる人間なんて存在しないと思っていたし、何よりいつもならもうこの少女は物言わぬ人形になっているからだ。
『今日は月も出て、いいハロウィン日和よね!あ、ハッピーハロウィン!私は瑞帆よ!よろしくね、マスクさん!』
ハッピーハロウィン、いつかの自分が小さかった天使に言った言葉だ、何故か瑞帆と名乗った少女からは懐かしい記憶を思い起こさせる。
瑞帆が無邪気に笑いながら指し伸ばしている手の先には、先程まで瑞帆を殺そうとしていた、自分。
なんてアンバランス。自分の後ろの手に隠されたものがバレてしまったら崩れてしまう、そんな脆いもの。
マイケルは必死にキッチンナイフを隠しながら、空いている方の手で恐る恐る瑞帆の手を握る。
途端嬉しそうに笑う彼女に、マイケルは感じたことの無い胸の痛みにマスクの下の顔を歪めた。
『ねぇ、マスクさん。折角のハロウィンなのに、連れの人はいないの?』
ズキズキと痛む胸に焦っている間にも、白くて綺麗な瑞帆は自分へと語り掛けてくる。必死にぶんぶん、と左右に首を振って、連れがいないことを伝えようとした。
『そうなの。お互い寂しいわね。ねぇマスクさん、ちょっと私の話を聞いてくれる?立ち話もアレよね、あ!ベンチがあるわ!こっちこっち!』
ぐいぐいと自分の手を引く力がほんの少し強引でも、決してカンに障らない。
怪しい自分に彼女は聞いて欲しいことがあるそうだ。聞いてやりたい、とマイケルは思った。少し冷たいベンチに腰を掛け、白くて綺麗な彼女を見る。横顔さえも綺麗だ。白くて白くて。月と星空に今にも溶けそうだ。
『あのね、私さっき彼氏にフラれちゃったの。あ、私のこの格好ね、ウェディングドレスをイメージしたのよ。彼と結婚したかったの。だからね、この格好で会いに行って、アピールしようと思って。』
彼女のその言葉に、マイケルはギリギリと痛む胸を彼女に気づかれないように抑え、殺意とはまた違う何かが喉までせりあがり、喉が、酷くムズムズとする。
『そうしたらね、彼、なんて言ったと思う?』
聞きたくないよ。
マイケルはふるふると左右に首を振った。
しかし彼女はソレを【分からない】という返事だと思ったのか、あっけからんと笑いながら言葉を放った。
『【君とは遊びのつもりだ。結婚する気なんて毛頭ない。】だって!酷い!酷いでしょ!?もー私頭きちゃって!!』
年甲斐もなくお菓子集めまくってるの!と手に持っていたカゴの中に詰まったたくさんのお菓子を自分に見せてくれる瑞帆に、マイケルはどこか安心する。
あぁ。よかった。その彼氏だったやつに瑞帆がフラれて。
カゴの中のお菓子を物色しながら、無意識にマイケルはそう考えていた。
しばらくすると、笑っていた瑞帆の声色が変わった。ぱ、とカゴのお菓子から目線を上げると、白くて綺麗な瑞帆が、キラキラして綺麗な涙を流していた。
『愛してた、愛してたのぉ…………うぇ…………もう、私の人生終わりよ…………』
余程その男が好きだったのだろう。マイケルは無性にその男をメッタ刺しにして犬の餌にでもしてその犬の肉を前見たく貪り食ってやろうか、なんて考えていた。
彼女のエメラルドグリーンから零れる涙がなんだか勿体なくて、できるだけ優しく、マイケルは瑞帆の涙を拭ってやる。
『ありがと、マスクさん。ふふ、すごく優しいのね。出会って間もないのに、私のわがままに付き合ってくれてどうもありがとう!』
じゃあ、私まだ回ってない家があるから!とベンチから立ち上がり、そのまま歩き出してしまう瑞帆を、マイケルは思わず瑞帆の手を取ろうと手を伸ばした
パン、と乾いた音が閑静な住宅街に響いた。マイケルは仮面の下で、自分が伸ばした手が、白く、細く、綺麗な手に弾かれるのを見た。
『…………ねぇ、貴方、どういうつもりなの?』
こちらが聞きたい。マイケルは仮面の下で生まれて初めて冷や汗というものをかき、目の前の少女の行動に焦っている。
『その後ろに隠したキッチンナイフで、今度こそ私を殺してくれるの?ねぇ。どうなの?』
マイケルはサーッと自分の耳に自分の血の気が引く音を生まれて初めて聞いた。彼女は最初から、自分が彼女を殺そうとしていたことに気づいていたのだ。では、何故?何故自分から逃げなかったのか。今までどんな相手だって、泣き叫び、許しを乞い、それか――自分の隙をついて自分を殺そうとしてきたのに。
目の前の白くて綺麗な少女は、ただただ怒っている。手を振り払われはしたが、それ以上は何もしてこない。微動だにせず、ただ、怒って自分を見つめている。
マイケルは叱られた子犬のようになり、とにかくおろおろと、瑞帆を見つめ返しては首を横に振り、君を殺すつもりはないんだよ。とどうにか伝えたかった。
『……殺さないのね。いいわ、殺して、だなんて酷い頼み事、聞いてもらう気無くなったもの。だって、貴方悪い人じゃないわ。』
見ず知らずの私が怖がらないよう、ナイフ隠してくれた時から、分かってた。と彼女は苦笑いを浮かべてマイケルを見つめる。
そうして、ごめんなさい。と小さく口にする。
『私、家族いないの。彼氏だけだった。私の心の支え。だから、もう良かったの。死んでも。本当はいっぱい貰ったお菓子をね、やけ食いして……お酒を沢山飲んだ後に、死んでやろうって思ってた。』
だから、ちょうど良かったの。貴方がキッチンナイフを持って現れたから。心の準備をして、笑って殺されようって思った。そう言った彼女の、申し訳なさそうな笑顔が、マイケルの胸にまた杭をうちつけたように痛みを与える。
『でも咄嗟に隠しちゃったでしょ?私が笑ったから驚いちゃったの?ごめんね。』
違うよ。
『貴方優しいから、私をもう殺せないんでしょ』
それはそうだよ
『だから、私もう行くね。お気に入りのね、思い出の湖がこの先にあるの。そこがいいな。』
嫌だよ
『じゃあね、引き留めないで、マスクさん。』
俺はマスクさんじゃない
「……マイケル」
『え』
「俺は、マイケル。マイケル・マイヤーズ」
『……ウソ、あのマイケル・マイヤーズなの?』
驚く彼女のエメラルドグリーンは、あぁやっぱり美しい。
マイケルは頑なに、何十年も閉じていた口を開いて、瑞帆に自分の名前を教えた。そして、ゆっくりと瑞帆に近づき、持っていたキッチンナイフを振り上げ――
カラン
『…………ちょっと、マイケル。マイケル?貴方、何してるの?ねぇ、ちょっと期待しちゃったのに。』
「…………」
『ねぇ?聞いてる?ちょっと。こんな痛いハグ初めてよ。』
マイケルはキッチンナイフを地面に落とし、勢いよく瑞帆を抱きしめた。この白くて綺麗な瑞帆が、湖なんかに1人で行かないように。
「俺も」
『え?』
「1人だから。連れて行って。」
『……湖に?』
「君と、居たい。」
『…………馬鹿ね。私、あんなに酷いこと言われても、まだ……好きなのよ。』
「知ってる。でも、君と…………一緒にいたい。」
殺人鬼、マイケル・マイヤーズは、小さい頃、愛していたものが二つあった。1つは綺麗な綺麗な母親。優しくて、いつも自分の味方でいてくれた。二つめは、妹。エンジェル。小さな小さな自分の妹。暖かくて、よく泣いて――大きくなっても、よく泣くのは変わらなかったけど。
そんなマイケル・マイヤーズに、このハロウィンの夜に3つ目の大事なものが出来てしまった。
自分の存在を忘れるほどの。
自分に感情が芽生えるほどの。
『……貴方の気が変われば、殺してくれる?』
「変わらない。」
『んもう。』
「俺が、君を……君と居るから。死ぬなんて……言わないで。そばに居て。」
『……私、スプラッタはごめんよ。怖いもん。』
「君が隣にいる時は殺さない」
『強引な人。』
たとえ嫌われてもいい。そばにいて欲しい。そんな気持ちが芽生えるなんて。マイケル・マイヤーズは自分の腕の中にある温もりに目を細める。
俺だって気づいてる、瑞帆がさっきから、居た堪れない様な顔をしていること、耳まで赤いこと、抵抗が無くなったこと。
全部愛しい。
「…………諦めた?」
『意地悪。貴方殺人鬼でしょ、私の拒否権が無いの知ってるんだから。』
「うん」
『意地悪!!』
その翌日、ハドンフィールドの新聞にひとつの大きな記事が載った。
その内容は、【あのマイケル・マイヤーズ復活】、【犠牲者は12人】そして【1人の少女を誘拐】というもの。
街中はまた恐怖に包まれ、また来年のハロウィンを震えながら待ち続ける。
「綺麗」
『でしょ?お気に入りなの。この湖。森もあるし、静かだし。』
「ううん。湖……じゃなくて。水面に映る君が。」
『…………あ、貴方殺人鬼のクセに女の子の扱い手慣れてやしない?』
「そんなことない。喋ったのだって…………小さい頃、以来」
『え、そうなの?貴方の声好きだわ。低くて、少し掠れてるけど、落ち着くもの。』
「俺も、君の…………綺麗な、鈴みたいな…………その声が好き。」
『だ、だから手慣れすぎ!』
新聞に載った本人達は、そんな事はつゆ知らず。ただ湖の畔で、仲良く手を繋ぎながら、森の方へと消えていった――――
――――
殺人鬼の大切な人。
瑞帆はマイケル・マイヤーズの事を殺人鬼だときちんと理解して一緒に居ることを決意しちゃいました。故にマイケル・マイヤーズが捕まることなんかあったりしたら、自分も捕まったりします。決してマイケルの罪を1人では背負わせません。そんな子です。
閑静な住宅街に似つかわしくない白いシルエット
それはとても綺麗で
思わず瞬きをして、本当に存在しているのかを確かめたほど、それはとても白かった。
マイケル・マイヤーズは住宅街の真ん中でブルブルと首を振り、ずれたマスクを直してその白いシルエットにゆっくりと歩を進めた。いつものように、恐怖に引きずり下ろすために。そして自分の欲を満たすために。
そういえば、と、歩を進めながら懐かしい記憶を脳裏に思い出す。いつか夢に見た母親も、あんな白いドレスを着ていたと思う。そして白い馬を連れて自分を迎えに来てくれるのだ。そんな素敵な夢だった。
マイケル・マイヤーズはハッ、としては、既に12人が犠牲となった血塗れたキッチンナイフをぎり、と握り直し、自分が近づいても未だ自分の存在に気づいてないその白いシルエットの肩を掴む。そう、自分はいつも通り、人を恐怖に陥れなければ。
『きゃ!?』
鈴の音のような、気持ちのいい音。
美しいブロンドの髪を揺らしながら、弾かれたように自分の方へと振り返る。
白いシルエットの正体は、美しいエメラルドグリーンの瞳をした少女だった。
普段なら既に容赦なくキッチンナイフを振り下ろし、声がしなくなるまでめった刺しなのだが、何故かその少女の瞳を見てしまった後、マイケルは持っていたキッチンナイフを隠すことばかり考えていた
『びっくりした!貴方も仮装してるの?変わったマスクね!素敵!』
その少女は自分を見て、怪訝そうな、自分に敵意を持つ顔一つ浮かべなかった。目を見開いて驚いて、胸をなでおろして安堵して、そしてキラキラと自分には眩しすぎる笑みを浮かべていた。
マイケル・マイヤーズは母親以外で、こんな美しい物があることを知らなかった。もちろん、自分に笑いかけてくれる人間なんて存在しないと思っていたし、何よりいつもならもうこの少女は物言わぬ人形になっているからだ。
『今日は月も出て、いいハロウィン日和よね!あ、ハッピーハロウィン!私は瑞帆よ!よろしくね、マスクさん!』
ハッピーハロウィン、いつかの自分が小さかった天使に言った言葉だ、何故か瑞帆と名乗った少女からは懐かしい記憶を思い起こさせる。
瑞帆が無邪気に笑いながら指し伸ばしている手の先には、先程まで瑞帆を殺そうとしていた、自分。
なんてアンバランス。自分の後ろの手に隠されたものがバレてしまったら崩れてしまう、そんな脆いもの。
マイケルは必死にキッチンナイフを隠しながら、空いている方の手で恐る恐る瑞帆の手を握る。
途端嬉しそうに笑う彼女に、マイケルは感じたことの無い胸の痛みにマスクの下の顔を歪めた。
『ねぇ、マスクさん。折角のハロウィンなのに、連れの人はいないの?』
ズキズキと痛む胸に焦っている間にも、白くて綺麗な瑞帆は自分へと語り掛けてくる。必死にぶんぶん、と左右に首を振って、連れがいないことを伝えようとした。
『そうなの。お互い寂しいわね。ねぇマスクさん、ちょっと私の話を聞いてくれる?立ち話もアレよね、あ!ベンチがあるわ!こっちこっち!』
ぐいぐいと自分の手を引く力がほんの少し強引でも、決してカンに障らない。
怪しい自分に彼女は聞いて欲しいことがあるそうだ。聞いてやりたい、とマイケルは思った。少し冷たいベンチに腰を掛け、白くて綺麗な彼女を見る。横顔さえも綺麗だ。白くて白くて。月と星空に今にも溶けそうだ。
『あのね、私さっき彼氏にフラれちゃったの。あ、私のこの格好ね、ウェディングドレスをイメージしたのよ。彼と結婚したかったの。だからね、この格好で会いに行って、アピールしようと思って。』
彼女のその言葉に、マイケルはギリギリと痛む胸を彼女に気づかれないように抑え、殺意とはまた違う何かが喉までせりあがり、喉が、酷くムズムズとする。
『そうしたらね、彼、なんて言ったと思う?』
聞きたくないよ。
マイケルはふるふると左右に首を振った。
しかし彼女はソレを【分からない】という返事だと思ったのか、あっけからんと笑いながら言葉を放った。
『【君とは遊びのつもりだ。結婚する気なんて毛頭ない。】だって!酷い!酷いでしょ!?もー私頭きちゃって!!』
年甲斐もなくお菓子集めまくってるの!と手に持っていたカゴの中に詰まったたくさんのお菓子を自分に見せてくれる瑞帆に、マイケルはどこか安心する。
あぁ。よかった。その彼氏だったやつに瑞帆がフラれて。
カゴの中のお菓子を物色しながら、無意識にマイケルはそう考えていた。
しばらくすると、笑っていた瑞帆の声色が変わった。ぱ、とカゴのお菓子から目線を上げると、白くて綺麗な瑞帆が、キラキラして綺麗な涙を流していた。
『愛してた、愛してたのぉ…………うぇ…………もう、私の人生終わりよ…………』
余程その男が好きだったのだろう。マイケルは無性にその男をメッタ刺しにして犬の餌にでもしてその犬の肉を前見たく貪り食ってやろうか、なんて考えていた。
彼女のエメラルドグリーンから零れる涙がなんだか勿体なくて、できるだけ優しく、マイケルは瑞帆の涙を拭ってやる。
『ありがと、マスクさん。ふふ、すごく優しいのね。出会って間もないのに、私のわがままに付き合ってくれてどうもありがとう!』
じゃあ、私まだ回ってない家があるから!とベンチから立ち上がり、そのまま歩き出してしまう瑞帆を、マイケルは思わず瑞帆の手を取ろうと手を伸ばした
パン、と乾いた音が閑静な住宅街に響いた。マイケルは仮面の下で、自分が伸ばした手が、白く、細く、綺麗な手に弾かれるのを見た。
『…………ねぇ、貴方、どういうつもりなの?』
こちらが聞きたい。マイケルは仮面の下で生まれて初めて冷や汗というものをかき、目の前の少女の行動に焦っている。
『その後ろに隠したキッチンナイフで、今度こそ私を殺してくれるの?ねぇ。どうなの?』
マイケルはサーッと自分の耳に自分の血の気が引く音を生まれて初めて聞いた。彼女は最初から、自分が彼女を殺そうとしていたことに気づいていたのだ。では、何故?何故自分から逃げなかったのか。今までどんな相手だって、泣き叫び、許しを乞い、それか――自分の隙をついて自分を殺そうとしてきたのに。
目の前の白くて綺麗な少女は、ただただ怒っている。手を振り払われはしたが、それ以上は何もしてこない。微動だにせず、ただ、怒って自分を見つめている。
マイケルは叱られた子犬のようになり、とにかくおろおろと、瑞帆を見つめ返しては首を横に振り、君を殺すつもりはないんだよ。とどうにか伝えたかった。
『……殺さないのね。いいわ、殺して、だなんて酷い頼み事、聞いてもらう気無くなったもの。だって、貴方悪い人じゃないわ。』
見ず知らずの私が怖がらないよう、ナイフ隠してくれた時から、分かってた。と彼女は苦笑いを浮かべてマイケルを見つめる。
そうして、ごめんなさい。と小さく口にする。
『私、家族いないの。彼氏だけだった。私の心の支え。だから、もう良かったの。死んでも。本当はいっぱい貰ったお菓子をね、やけ食いして……お酒を沢山飲んだ後に、死んでやろうって思ってた。』
だから、ちょうど良かったの。貴方がキッチンナイフを持って現れたから。心の準備をして、笑って殺されようって思った。そう言った彼女の、申し訳なさそうな笑顔が、マイケルの胸にまた杭をうちつけたように痛みを与える。
『でも咄嗟に隠しちゃったでしょ?私が笑ったから驚いちゃったの?ごめんね。』
違うよ。
『貴方優しいから、私をもう殺せないんでしょ』
それはそうだよ
『だから、私もう行くね。お気に入りのね、思い出の湖がこの先にあるの。そこがいいな。』
嫌だよ
『じゃあね、引き留めないで、マスクさん。』
俺はマスクさんじゃない
「……マイケル」
『え』
「俺は、マイケル。マイケル・マイヤーズ」
『……ウソ、あのマイケル・マイヤーズなの?』
驚く彼女のエメラルドグリーンは、あぁやっぱり美しい。
マイケルは頑なに、何十年も閉じていた口を開いて、瑞帆に自分の名前を教えた。そして、ゆっくりと瑞帆に近づき、持っていたキッチンナイフを振り上げ――
カラン
『…………ちょっと、マイケル。マイケル?貴方、何してるの?ねぇ、ちょっと期待しちゃったのに。』
「…………」
『ねぇ?聞いてる?ちょっと。こんな痛いハグ初めてよ。』
マイケルはキッチンナイフを地面に落とし、勢いよく瑞帆を抱きしめた。この白くて綺麗な瑞帆が、湖なんかに1人で行かないように。
「俺も」
『え?』
「1人だから。連れて行って。」
『……湖に?』
「君と、居たい。」
『…………馬鹿ね。私、あんなに酷いこと言われても、まだ……好きなのよ。』
「知ってる。でも、君と…………一緒にいたい。」
殺人鬼、マイケル・マイヤーズは、小さい頃、愛していたものが二つあった。1つは綺麗な綺麗な母親。優しくて、いつも自分の味方でいてくれた。二つめは、妹。エンジェル。小さな小さな自分の妹。暖かくて、よく泣いて――大きくなっても、よく泣くのは変わらなかったけど。
そんなマイケル・マイヤーズに、このハロウィンの夜に3つ目の大事なものが出来てしまった。
自分の存在を忘れるほどの。
自分に感情が芽生えるほどの。
『……貴方の気が変われば、殺してくれる?』
「変わらない。」
『んもう。』
「俺が、君を……君と居るから。死ぬなんて……言わないで。そばに居て。」
『……私、スプラッタはごめんよ。怖いもん。』
「君が隣にいる時は殺さない」
『強引な人。』
たとえ嫌われてもいい。そばにいて欲しい。そんな気持ちが芽生えるなんて。マイケル・マイヤーズは自分の腕の中にある温もりに目を細める。
俺だって気づいてる、瑞帆がさっきから、居た堪れない様な顔をしていること、耳まで赤いこと、抵抗が無くなったこと。
全部愛しい。
「…………諦めた?」
『意地悪。貴方殺人鬼でしょ、私の拒否権が無いの知ってるんだから。』
「うん」
『意地悪!!』
その翌日、ハドンフィールドの新聞にひとつの大きな記事が載った。
その内容は、【あのマイケル・マイヤーズ復活】、【犠牲者は12人】そして【1人の少女を誘拐】というもの。
街中はまた恐怖に包まれ、また来年のハロウィンを震えながら待ち続ける。
「綺麗」
『でしょ?お気に入りなの。この湖。森もあるし、静かだし。』
「ううん。湖……じゃなくて。水面に映る君が。」
『…………あ、貴方殺人鬼のクセに女の子の扱い手慣れてやしない?』
「そんなことない。喋ったのだって…………小さい頃、以来」
『え、そうなの?貴方の声好きだわ。低くて、少し掠れてるけど、落ち着くもの。』
「俺も、君の…………綺麗な、鈴みたいな…………その声が好き。」
『だ、だから手慣れすぎ!』
新聞に載った本人達は、そんな事はつゆ知らず。ただ湖の畔で、仲良く手を繋ぎながら、森の方へと消えていった――――
――――
殺人鬼の大切な人。
瑞帆はマイケル・マイヤーズの事を殺人鬼だときちんと理解して一緒に居ることを決意しちゃいました。故にマイケル・マイヤーズが捕まることなんかあったりしたら、自分も捕まったりします。決してマイケルの罪を1人では背負わせません。そんな子です。
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