短編詰め
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『御仏に与えられた全てに感謝を』
眼の前でそう呟く女は、我がその女の眼の前でその様な戯言を聞いていることなぞ終ぞ知らぬのだろう
我も気配を押し殺している故、やはり我がどこまで近づいても気づかぬだろう
女、名を瑞帆というソレは、我の業でさえ下に見える程哀れな女だった
生まれつきより目が見えず、匂いも感じとれぬのだという
左手は動かず、足も我のように満足に動かせなんだ
それ故女は枯れ木の様に細かった
瑞帆と初めて会うた時、これほどまでに不幸な女がいたとはな、と舌を巻いたもの。
しかし女は我に言った。
『なればこそ、なればこそですわ、刑部様。私の耳はきちりと働いております。音だけが私が尊べるもの。何よりも……大事なのでございます。貴方様のお声が聞こえることが何より幸せだと……音が聞こえることの幸福さを身に染みて思うのです』
瑞帆は、例え我に哀れだと言われながらも
我の声を聴けるだけで、幸福なのだとそう言った。
馬鹿馬鹿しい。最初はそう思っていた。
我のように全てを恨めばよいというのに。
生きていて辛いと愚痴を零せばよい。
聞こえる陰口を呪えばよい。
だのに何故
そうも笑っていられるのか
『刑部様』
我は、知らなんだ。
瑞帆に向けられる柔らかく、心地の良い笑顔も
瑞帆の声が、我の新たな拠り所になっていたことも
瑞帆が、我のものにならぬということも
「いやはや、三成君もやっとその気になってくれたみたいだね」
「は。半兵衛様、並びに秀吉様のご命令とあらば」
「瑞帆は賢く、穏やかな女だ。家柄も正しく、三成……お前に相応しい」
「は!ありがたきお言葉……!」
眼の前には、拠り所である三成が
白無垢を着た瑞帆の隣で紋付袴を着て太閤に頭を下げやる姿
気付けば、いや、気付かぬフリをしていたら
最早届かぬものとなっていた
恥ずかしそうに、まさか白無垢を私が着れるなど、と喜ぶ瑞帆の姿を見ては
胸の奥が鎖で縛られたかのように苦しくなるのよ。
ああ、遅いというに。
全ては遅い。遅すぎた。
三成はああだが、きっと瑞帆とは上手くやるだろう
瑞帆も、我から聞いた三成の話を元に上手く三成を扱うだろう
恋だの愛だのは、後から育むもの。
我は
……我は。
我のような、我のような呪われた男が、端から望むなど
「……よう、似合うておるわ。綺麗、キレイ」
『刑部様……』
「…………」
『……ありがとう、ございます』
我に向かい、見た事のない、今にも泣きそうな顔をして笑う瑞帆に、生まれてこの方抱いたことのない激情が、我を奮い立たせる
気付けば瑞帆の手を取り、神輿に乗せて逃げていた
背後からは三成の声が響くが、そんなものは知らなんだ
欲しいと思うた
初めて
我にはこの腕の中で何が起こったか分からずに戸惑う女がいればよいと思った
切腹であればそれでいい
この腕に初めて抱けた温もりを感じれただけで
悔いはない
『刑部様、刑部様、どうして』
「……馬鹿になってみたのよ。」
『刑部様――』
「愛しておる」
だから今だけは拒まないで欲しい
一度だけこの腕で強く抱きしめることを許してほしい
『……刑部様』
「……」
『………最初から、私、申し上げてましたわ。』
「?」
『【貴方様のお声が聞こえることが、何よりの幸せ】なのです。』
このまま、二人で静かな森で
貴方の声を聞かせてくださいませ
そう言って泣きながら我に抱き着く瑞帆を愛しさ故に掻き抱いて
瑞帆の背後から、追ってきたのか太閤や賢人などの顔を見て目を丸くする
最初から、我と瑞帆を焚き付ける為、か
まこと、どうしてか
我のような男が報われるとは
「……瑞帆よ」
『はい、御前様』
「……我の幸福は主よ、改めて、我の幸福のため……我の側にいてほしい」
『はい。喜んで』
そう笑んだ瑞帆は美しく
やはり我は堪らなくなり、目の前の愛しい女は強く強く抱きしめた。
――
刑部さんは幸せになってくれ……!
眼の前でそう呟く女は、我がその女の眼の前でその様な戯言を聞いていることなぞ終ぞ知らぬのだろう
我も気配を押し殺している故、やはり我がどこまで近づいても気づかぬだろう
女、名を瑞帆というソレは、我の業でさえ下に見える程哀れな女だった
生まれつきより目が見えず、匂いも感じとれぬのだという
左手は動かず、足も我のように満足に動かせなんだ
それ故女は枯れ木の様に細かった
瑞帆と初めて会うた時、これほどまでに不幸な女がいたとはな、と舌を巻いたもの。
しかし女は我に言った。
『なればこそ、なればこそですわ、刑部様。私の耳はきちりと働いております。音だけが私が尊べるもの。何よりも……大事なのでございます。貴方様のお声が聞こえることが何より幸せだと……音が聞こえることの幸福さを身に染みて思うのです』
瑞帆は、例え我に哀れだと言われながらも
我の声を聴けるだけで、幸福なのだとそう言った。
馬鹿馬鹿しい。最初はそう思っていた。
我のように全てを恨めばよいというのに。
生きていて辛いと愚痴を零せばよい。
聞こえる陰口を呪えばよい。
だのに何故
そうも笑っていられるのか
『刑部様』
我は、知らなんだ。
瑞帆に向けられる柔らかく、心地の良い笑顔も
瑞帆の声が、我の新たな拠り所になっていたことも
瑞帆が、我のものにならぬということも
「いやはや、三成君もやっとその気になってくれたみたいだね」
「は。半兵衛様、並びに秀吉様のご命令とあらば」
「瑞帆は賢く、穏やかな女だ。家柄も正しく、三成……お前に相応しい」
「は!ありがたきお言葉……!」
眼の前には、拠り所である三成が
白無垢を着た瑞帆の隣で紋付袴を着て太閤に頭を下げやる姿
気付けば、いや、気付かぬフリをしていたら
最早届かぬものとなっていた
恥ずかしそうに、まさか白無垢を私が着れるなど、と喜ぶ瑞帆の姿を見ては
胸の奥が鎖で縛られたかのように苦しくなるのよ。
ああ、遅いというに。
全ては遅い。遅すぎた。
三成はああだが、きっと瑞帆とは上手くやるだろう
瑞帆も、我から聞いた三成の話を元に上手く三成を扱うだろう
恋だの愛だのは、後から育むもの。
我は
……我は。
我のような、我のような呪われた男が、端から望むなど
「……よう、似合うておるわ。綺麗、キレイ」
『刑部様……』
「…………」
『……ありがとう、ございます』
我に向かい、見た事のない、今にも泣きそうな顔をして笑う瑞帆に、生まれてこの方抱いたことのない激情が、我を奮い立たせる
気付けば瑞帆の手を取り、神輿に乗せて逃げていた
背後からは三成の声が響くが、そんなものは知らなんだ
欲しいと思うた
初めて
我にはこの腕の中で何が起こったか分からずに戸惑う女がいればよいと思った
切腹であればそれでいい
この腕に初めて抱けた温もりを感じれただけで
悔いはない
『刑部様、刑部様、どうして』
「……馬鹿になってみたのよ。」
『刑部様――』
「愛しておる」
だから今だけは拒まないで欲しい
一度だけこの腕で強く抱きしめることを許してほしい
『……刑部様』
「……」
『………最初から、私、申し上げてましたわ。』
「?」
『【貴方様のお声が聞こえることが、何よりの幸せ】なのです。』
このまま、二人で静かな森で
貴方の声を聞かせてくださいませ
そう言って泣きながら我に抱き着く瑞帆を愛しさ故に掻き抱いて
瑞帆の背後から、追ってきたのか太閤や賢人などの顔を見て目を丸くする
最初から、我と瑞帆を焚き付ける為、か
まこと、どうしてか
我のような男が報われるとは
「……瑞帆よ」
『はい、御前様』
「……我の幸福は主よ、改めて、我の幸福のため……我の側にいてほしい」
『はい。喜んで』
そう笑んだ瑞帆は美しく
やはり我は堪らなくなり、目の前の愛しい女は強く強く抱きしめた。
――
刑部さんは幸せになってくれ……!
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