hzbn短編
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この小説の夢小説設定公式情報でも回収されていない伏線や背景、
判明していない設定など不明瞭な情報が多いため、
しばらくは短編で更新していきます。
時系列はバラバラ。
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「……またその板を覗いてるんですか」
『アラスター……板じゃなくてスマホ。名称呼ぶのも嫌なの?』
仕事がないときのエマは最近手に入れたスマホを操作していることが多い。
自身の死後の技術が嫌いなアラスターは、笑顔ではごまかしきれないほど不機嫌そうにエマの手元を見た。
むしろ機嫌を隠すつもりはないのだろう。
「ええ。みんな取り憑かれたように見つめているのがなんとも奇妙です」
『あーー、それはちょっとわかるかも……私は撮影が楽しくて撮ってたところ』
エマはまともに連絡をとるような相手は片手で数える程度しかおらず、写真を撮るくらいでしかスマホ使っていないため、殺風景な連絡先一覧とは違ってフォルダには様々な被写体が保存されていた。
室内に飾られた美しい花、食欲をそそる料理、はたまたバラバラになった罪人の血で描かれた壁の落書きなど…被写体のジャンルは問わず撮影してきたことがうかがえる。
そこから最新の1枚を見せられたアラスターは、眉間に皺を寄せながら画面を覗き込んだ。
それは今この部屋の中の本棚だった。毎日見ている光景だろうに何が楽しいのやらとアラスターは首をかしげる。
「……写真をデータで管理とは無機質ですね」
『かさばらないし、プリントできるからお気に入りは写真立てに入れられるよ。アラスターも撮ってみる?』
「……食わず嫌いは良くないと言いますが……」
渋々エマのスマホを受け取ったアラスターは、画面とシャッターボタンを確認すると間もなくカシャッと鳴らした。その時のレンズはエマに向けられている。
エマは口をあんぐりと開け、時間が止まったように呆然とアラスターを凝視した。撮影した本人は呑気に撮影した画面とエマを交互に眺めている。
「ふむ……悪くはないですが、被写体はちゃーんと選ばないといけないようですねぇ」
『あ?え?ちょ、もしかして………あーー!私じゃん!うわやだ半目なんだけど!!』
エマの嫌な予感は的中し、油断しきっている上にシャッターのタイミングが絶妙なエマが映っていた。アラスターの悪くないという評価が完全な嫌味なのは明白だ。
エマの上司でもあるこの赤い悪魔は『下手くそ』『色々とひどい』『クソバンビ』などと罵声を浴びせられても全く意に介さず、むしろ楽しんでいるかのように生き生きとした笑顔を湛えた。
「これはこれで写真立てに入れてもいいんじゃないですか?ニャハ!」
『絶っっっ対に嫌!!』
エマはアラスターの追撃に怒りを露わにする。同時に貸すんじゃなかったと後悔した。
それとは対照的に撮影者の方はカカカと笑い声まであげている。
少し落ち着いたようで、アラスターは小さく息をつくとスマホで撮影してみた所感を話し始めた。
「貴女は表情がコロコロ変わりそして様々な色を見せる。レンズ越しより、実際に動き回る貴女を肉眼で見ている方がずっと楽しいことは分かりました」
『動き回るって虫かよ』
「まぁ、他の悪魔たちのように板に食いつきすぎないようにしてくださーい」
『だからスマホ!』
嫌がらせに満足したアラスターは、怒るエマを無視して本棚に目を向けた。これから読み物をするらしい。
どれにしようかと眺めているアラスターをエマは恨めしそうに見た。
このまま引き下がるのは悔しいと感じ、それならと自身が手にしているスマホに目を向けた。
『まともに撮れなかったのはアラスターのせいじゃん。見本見せてやろ』
へそを曲げたエマは本を選ぶアラスターにこっそりスマホのレンズを向けた。同じように油断しているところを撮り辱めてやろうと企んだのだ。
しかし画面に映るアラスターからは荒いモザイクが流れピントが合わない。
モザイクのせいで表情すらまともに映らないため、スマホを構えてからなかなか次の動作に進められずにいた。
『1秒でいいからピント来い……!』
「言ったでしょう?被写体はちゃんと選ばないと、と」
『うわっ』
カシャッ。
ピントが合わず苦戦していたエマの元に、アラスターが瞬時に影で目の前まで移動してみせた。その瞬間エマは驚いてシャッターを押してしまう。
「デジタルではない方のカメラなら喜んで付き合いますしエマのこともちゃんと撮りますよ」
『……徹底してるなぁ』
アラスターはそれだけ伝えると自室へと移動した。呆然と見ていることしかできなかったエマはぽつりと呟く。
彼の口ぶりからして先ほどの嫌悪感までは持っていない様子だったので、このあと何かしらの形での制裁が待ち受けているといった心配はなさそうだ。
そういえば、とエマが先ほど勢いで撮れた写真のことを思い出した。どうせ削除するであろうそれを見て目を丸くする。
『………私……天才かも……』
そこにはアラスターが影から出てきた瞬間の角の部分がちょうど正面に撮れた画だった。通常時の角は控えめで可愛らしい。
エマはバレれば殺されると感じ墓場まで持っていこうと決めた。