hzbn短編
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この小説の夢小説設定公式情報でも回収されていない伏線や背景、
判明していない設定など不明瞭な情報が多いため、
しばらくは短編で更新していきます。
時系列はバラバラ。
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「ちゃんと掃除してるんですかぁ?」
『そこはこれからやるの!分かってるくせに!』
アラスターは掃除中のエマに対し陰湿な姑のように棚に指を滑らせ、反応を見るとにゃははと楽しそうに笑った。
「これが終わったらいつもの店でコーヒー豆を買い足しておいてくださいね」
『また?飽きないの?紅茶も飲んでみれば?』
「嫌でーす」
当たり前のように仕事中のエマに追加業務を課す。
彼女も彼女で一度抗議はしつつ最悪その分を報酬要求に加算すればいいと考えており、…しかし、力も口もアラスターに敵うはずもなく日常の1つとなっていた。
「おや、身だしなみが整ってないですよ」
『え、鏡は確認したはずなんだけど…』
「じっとしててくださいね」
エマが次の仕事であるコーヒーの買い出しに部屋を出ようとするとアラスターが引き止めた。
エマは自身の前髪や服を再度触りながら呟くと、アラスターは目の前で少し屈み、エマの首元のスカーフに手をのばす 。
エマがアラスターの顔に軽くかかっている髪を眺めて待っていると「はい、これでいいでしょう」とアラスターの声と共に目の前にあった顔が視界の上に消えた。屈むのを辞めたようだ。
アラスターが贔屓にしているコーヒーショップにやって来たエマは、通い続けたことで顔見知りとなった店主にいつもの注文をした。
慣れた手際でエマにコーヒー豆を手渡した店主はいつもなら適当な世間話を始めるが、エマを見て一瞬目を見開く。
「……えっと、このコーヒーは君以外も飲むんだったかな?」
『え?おじさんボケちゃった?大半は雇用主が飲んじゃうよ。仕事とはいえ自分の分は自分で買えよって話だよね』
「そ、そうか……そうだったね……いつもありがとうございますとその人にも伝えておくれ」
店主は口元を嬉しそうに緩めているが瞳は泳いでいる。
そのちぐはぐな表情にエマは大丈夫かと声をかけるも、店主はなんでもないの一点張りでそれ以上聞き出すことができなかった。
「おお!お嬢さん、奇遇だねぇ僕も買い足しに来たとこ、ろ…」
「あ!こら、また君は…」
商品の受け渡しが完了した直後、新たな来店客を知らせるベルが鳴った。
そのベルはコンビニのような機械的なものではなく、本物の小型ベルを扉に取り付け、古き良きを感じさせる音を鳴らす。
アラスターはこのスタイルを続けていることも店を気に入っている理由の1つに挙げていた。
そんな店に入ってきたのは、おろしたてのような、パキッとしたスーツを身にまとった筋肉質な男。
しかし男はエマを見るなり途端に青ざめた。
「すまない店主。まだストックに余裕があるのを思い出したのでまたの機会にさせてもらうよ。はは、うっかりしていた」
「『………?』」
そして男はクルっと身を翻し店主に軽く手を振る。
その振る舞いは一見優雅だが、男から汗がツゥ…と垂れていた。
足早に去っていった男を呆然と見送った店主とエマは、互いに顔を合わせると片眉を上げた。
「おかえりなさいエマ!……あら、そのスカーフ!とっても素敵!」
『は?スカーフ?新調してないよ?』
「ねぇヴァギー、もしかして…」
「あー…そうだったら素敵だね。でもエマの表情をよく見てみて」
エマがコーヒーショップからホテルに戻ると、ラウンジではチャーリーたちがエクササイズをしている。エマに気づいたチャーリーは突然目を輝かせた。
あまりにもプリンセスが真っ直ぐに言うものだからエマは首を傾げる。ヴァギーは面倒を避けるため、興奮するチャーリーを落ち着かせるように声をかけた。
他にもニヤけるエンジェル、呆れているハスク、相変わらず何を考えているかわからないニフティ…彼らを眺めたエマは、脳内に大量の?を浮かべながらも荷物を整理するのにいったん自室へ戻ることにした。
チャーリーやコーヒーショップの店主など、周囲の反応が気になったエマは改めて鏡で自身を確認すると言葉を失った。
そこからの行動は早かった。彼女が歩くたびに床がメキメキと悲鳴をあげ、爪が床に食い込んだ形跡が出来上がっている。
『おいクソバンビ!開けろ!』
「…なんです?静かにノックなさい」
エマがアラスターの部屋の扉を乱暴に叩くと鍵が開いた。
デーモン化し火を吹き出しながら声を荒げるエマに対し、「言葉遣いといい品がないですねぇ」と中にいたアラスターが悠長にソファにくつろぎながら対応する。鍵は魔法で開けたようだ。
『ちょっとこれ!どうしてくれるの!』
エマはお構い無しにアラスターの目の前に自身のスカーフを突き出した。そのスカーフはエマがいつもつけているものなのだが、布の一部に本来無い模様が描かれていた。
それはレトロなラジオのマーク。地獄の住人ならこのマークで真っ先に浮かぶのはラジオデーモンだ。
「素敵なデザインでしょう?」
『勝手なことしないでよ!!お気に入りだったのに!!……あ…』
スカーフを見たアラスターは変わらず飄々と答える。
エマも変わらず烈火のごとく怒り狂っていたが、飛び出した自身の言葉に口を抑え勢いを急降下させた。
その様子にアラスターがニタリと笑い歯を見せ、ソファの背もたれから身を乗り出すとエマの手にしていたスカーフの布に手を伸ばした。
「このスカーフ、契約を結んだ日に私が選んだはずなのですが…そんな必死になるほど気に入っていたんですねぇ」
『いや、ちが、そういうわけじゃなくて』
「ではどういうわけか答えられるんでちゅか〜?』
口をパクパクさせ慌てるエマの頬を、アラスターはつんつんしながら小馬鹿にして笑う。
満足したのかアラスターは上半身をソファの背もたれに預け、長い脚を組みなおすと口を開いた。
「以前コーヒーを買いに行く際、妙な客に絡まれると言っていたでしょう。今回もその客はいたんですか?」
『え、客…?』
アラスターの質問にエマは冷静さを取り戻し、今日の買い出しを振り返った。
目の前の雇用主が言う客というのは、先ほどエンカウントした筋肉質な男のことだ。
店の近所に住んでいるようで、エマが入店するとそいつが偶然を装いやって来て連絡先を聞いたりしてくることがあったのだ。
『そういえば話しかけられた…けど、すぐいなくなったな…』
「そうですか。効果はあったようですね」
店内でナンパしてくる際は店主も止めに入ってくれるが、いつもしつこくエマは辟易していたのだ。何度黒焦げにしたり風穴を空けたことか。
これまでのことを思い返すエマの話を聞いたアラスターは目を伏せ静かに答えた。
アラスターの言葉にエマはハッとする。
『……もしかして、私の愚痴を覚えててこれを?』
「はい?貴女の帰宅が遅くなれば仕事も遅れる…つまり私に迷惑がかかるんです。まさか貴女のためだと思ったんですか?貴女だけではなく…」
『そこは哀れな部下を思ってじゃないのかよ!報酬と弁償としてこれより高いスカーフ買ってもらうから!』
エマが訊ねるとアラスターは短い笑い声を上げ、小馬鹿にしたようにエマを見た。
一方アラスターによって短時間のうちに感情を振り回されたエマは再び怒り、大声で反論する。彼女の怒りで終始尻尾を床を叩きつけているので爪痕以外の傷もできていそうだ。
『……でも助かった!ありがとう!』
エマは扉を乱暴に開け、怒りながら礼を告げるとズンズンと床を踏みつけながら部屋を出ていった。
嵐が過ぎ去ったかのように静まり返った部屋でアラスターは一人呟いた。
「本当に品がないですね……私と貴女のためだと言おうとしたのに。人の話もまともに聞きやしない」