hzbn短編
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この小説の夢小説設定公式情報でも回収されていない伏線や背景、
判明していない設定など不明瞭な情報が多いため、
しばらくは短編で更新していきます。
時系列はバラバラ。
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私は地獄に堕ちた日、良くも悪くもアラスターと友人になった。
そして彼に嵌められ契約でこき使われる日々が始まり、友人どうし軽口を叩きあう雇用関係という不可思議な関係の日々が続いた。
なんだかんだ生前の人生より長い期間を彼と過ごしたけど、地獄を1人で過ごすのは思えば今日が初めてだった。
前日、彼は1日家を空けると言った。
それを聞いたときは遠方まで狩りにでも行くのだろうか、それとも新しい魔法の練習や実験をするのだろうかなんて考えてた。
「たまには思いきりましょう」
その夜、彼はそう言って貯蔵していた良質な酒を何本も並べた。
ここでなぜ予定があるのに今日羽目を外そうとするんだろうと思った。でも、アラスターの笑顔を見ているとなんだか聞けなかった。
楽しい時間はあっという間で、気づけば朝になっていた。ソファにいたはずが自室のベッドで横になっている。
丁寧に肩までかけられた布団、ベッド横まで寄せられた椅子……その椅子にはひざ掛けがたたまれている。
まるでさっきまで誰かがそこにいたみたいな配置。
『……あらすたー…?』
「おはようございます。今日も芸術点の高い寝癖ですねぇ」
いつもそんな調子の挨拶が朝食とコーヒーの香りと共に飛んできていたが、リビングにも、アラスターの自室にも影1つない。
そこから彼がこの家に戻ることはなかった。1日で戻ると言っていたのに。
最初の3日ほどは家事をサボったり好きなときに出かけて自由を満喫したけど、気づけばいつもの仕事をこなしてた。
途中ラジオをつけてみても彼の声が流れることもない。
料理はことごとく失敗するので諦めた。
自分の不器用さと、彼のおかげで温かい料理が食べられてた有り難さを痛感する。
「今日もお疲れ様!通うの面倒だろうし、しばらく泊めてあげましょうか?」
『ありがとう。でもこれ以上面倒見てもらうのは申し訳ないし、いざアラスターが戻ったら何を言われるやらだから……今日も大人しく帰ることにするよ』
「あらそう?私はいつでも歓迎だし彼が何か言っても任せてちょうだいね。じゃあ今日は焼いておいたこのミートパイ持っていきなさい。大丈夫よ、貴女用に人肉は避けてあるから!」
『ロージーさん……ほんと好き……』
収入は主にロージーさんの店を手伝って面倒を見てもらってる。
こうして食事を持たせてくれたりお茶に誘ってくれることがあるので、自分が思ってるより気にかけてくれてるのかもしれないと自負しちゃう。
「エマ、次はこれつけてちょうだい。…やだそのポーズさっきと全く一緒じゃない!バリエーション増やしな!」
『知識も経験も無いド新人にあまり求めないで。そんな言うなら手本!手本みせてよ!ほらほら!』
「はぁ…アンタとエンジェルくらいよ、アタシに生意気言うヒラの悪魔なんて。ウチのチームに入ったら手本見せてあげる」
『それなら自力で捻り出しまーす』
「もういいじゃん。どうせアンタの上司は戻らないんだからさ」
『いくらヴェルでも無理なもんは無理。代わりに来週のパーティーには参加するから』
Veesからの勧誘も大胆になった。
正直報酬に揺らいだこともあったけど、たまにヴェルヴェットの手伝いをする程度で収まってはいる。
人型以外の足でも着飾れるアンクレットの新作やネイルなんかを撮影することがあると駆り出されたり、裏方で雑用をすることもあった。
仲いいヴェルが一枚噛んでくれてるからか、頻度は多くないのに手伝いでも報酬が高くて正直ここでも助かってる。
エクスターミネーションはアラスターの家にいる。彼の魔法がかかっているので、家そのものが被害に巻き込まれることがなかった。
例外はあるけど、基本的に魔法が機能しているということは本人が生きている証拠らしい。
一体どこをほっつき歩いてるんだか。
『今日も御加護をありがとうございまーす!おかげで酒がうまいでーす!』
「ウマァァア」
『お前まだ動くのかよ。電池じゃなくてあいつの魔力でも入ってんの?』
「モルスァ」
アラスターが消えてから3年が過ぎた頃にはすっかり立ち直っていた。
なんとなく避けていた彼お気に入りのウイスキーの残りも勝手に空けてやったくらいには吹っ切れた。
私物はそのままにしてあげている。飲食物は傷むから仕方ないね。ウイスキー美味しかったよ。
喋るぬいぐるみは"持ち主が行方不明"というポイントが加算されたことで不気味さが増した気がする。
『……買い食い飽きたな」
消えてから6年、変わらずアラスターの守りは健在だ。
あいつがいないとこんなに静かで物足りなくて1日が長く感じるのか。
『あの人気店のサンドイッチ買えたのはラッキーだったなぁ』
気づけば7年が経っていた。
「おかえりなさい。エマ」
『……………………は?』
買い物から戻ると、忘れたことのない声とノイズが室内に響く。
声のした方向には、あの時と同じ姿の赤い彼が背筋を真っ直ぐに伸ばし立っている。
その後はご存じの通り、私がキレて殴りかかってみっともなくアラスターに泣きつくという流れ。
抱きついたときの勢いと締め付けで頭上から呻き声が聞こえた気はしたけど無視した。そんなの知るか。
『ぐす…よかったぁ……今日はずっとこのまま離れない…』
「ジジ……それはちょっと嫌ですねぇ…邪魔だし鼻水ついたら汚いです」
『ほんっと失礼だな』
7年放置した家主が何わがまま言ってるんだよクソバンビ…!
こんなのが戻って嬉しいと思ってたなんて信じられない。ムカつきすぎて涙引っ込んだわ。
『……あんたがいない間も私は掃除して綺麗に保ってたから7年分の報酬、きっちり取り立てるよ』
「はいはい」
『それに食事!育児放棄って知ってる?訴えられるからね?』
「ついに自分が体だけでかいクソガキだと自認しましたか。成長しましたねぇ」
『いいよ今だけ乗ってあげる。代わりにその腕が千切れるまで包丁とフライパン握らせるから。私ガキだからさー!包丁も火も危なくて使えないんだよねー!』
「穴が空くほど食い込んでいるその爪と、いま口から出ている火はなんなんです?」
私の要求にアラスターは徐々に眉間に皺を寄せていった。
声色は平然としているけど、面倒くさいと感じているのがひしひしと伝わる。
そんなのも無視だ無視。もしこの程度でも許されないならさらに要求してやる。
『それよりなんで戻らなかったの。何してたの』
「野暮用があれよあれよと続きまして…休みながら用事を片付けていたら随分不在にしてしまいました」
『野暮用って?』
「それは教えられません」
聞いて当然の権利だと思って顔をあげて理由を訊ねると、アラスターの纏う空気が、声色が、目の奥が変わった。
サァッと血の気が引いて鳥肌が逆立ち咄嗟に下を向く。彼の一言だけで圧が両肩にズンと乗った気さえした。
こんなにアラスターのことを怖いと感じたのは初めてかもしれない。
これ以上は聞いちゃいけない。馬鹿な私でもわかる。
『……もういなくならない?』
それなら…と思ってもう一つ気になっていたことを聞いてみた。
するとあんなに冷たく重かった空気が嘘のように消え、彼から柔らかい声と大きな手が頭に降りてきた。
「いなくならないですよ」
恐る恐る見上げるとアラスターの赤い瞳と視線がぶつかる。黒の瞳孔が一回り大きく開いたのが見えた。
口元は7年ぶりの彼お得意のにっこりスマイル。さっきも笑顔だったけどどうしてこんなにも違って見えるんだろう。
『そっか……もうちょっとこのままでもいい?』
「…1分だけなら」
『ふふ、時間制とか金取る気?クソバンビじゃん』
「その口調ではまだまだ自称レディから卒業できませんね」
このあとは宣言どおり千切れはしなかったけど、腕が上がらなくなるまでジャンバラヤやいろんな料理を作らせた。
翌日筋肉痛と腰痛が来たらしい。ざまあみろ。
7年ぶりの彼の料理はいつもどおり辛くて、それが懐かしくて安心して、またちょっとうるっと来てしまった。
おふくろの味は知らないけど、これが私にとってのおふくろの味。
こいつは男だし親ってほど歳が離れてるわけでもないんだけどね。