hzbn短編
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この小説の夢小説設定公式情報でも回収されていない伏線や背景、
判明していない設定など不明瞭な情報が多いため、
しばらくは短編で更新していきます。
時系列はバラバラ。
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『……気持ち悪い……』
「だから言ったでしょう?ではそろそろ仕事の話のために移動しましょうか」
『え、なになにうわっ…ちょ……揺れる…!吐く…!』
「私と触手は汚さないで下さいね〜」
大丈夫だと豪語していたエマは、アラスターの予想通り酒にやられていた。
その様子を全く気にしていないアラスターは、自身から出した黒い触手でエマを抱えた。
そしてエマが先ほど飲んでいた酒を口から戻したのは想像に容易い。
「楽になりましたか?」
『なったけど……びっくりするから。襲われたかと思ったんだよ』
「それは失礼しました」
『それにしてはずいぶん笑顔だけど……で、仕事って?』
「さっそくなんですが、お気に入りのコーヒーが残り少なくなってきたんです。街を知るついでに買い足しておいてください」
『…………え?なんて?』
「二度は言いませんよ。もちろん店までのメモと必要な金額は渡します。どうぞ」
ある程度吐きエマが落ち着いたところで、アラスターは本題を切り出した。
内容を聞いたエマは目を丸くする。飲食店など決まった職場で業務すると思っていたためだ。
エマはアラスターからメモと金を受け取らずにストップをかけた。
『こんなの仕事じゃなくてパシリじゃん。やだね』
「ではこう言い換えましょう!私の手伝い係として雇用します」
『手伝い係ぃ……?良いように言えばそうだろうね?』
エマが反発するもアラスターは変わらずにこやかに腕を広げた。
一方エマはいまだに納得ができないでいた。納得というより理解の方が近いだろうか。
「契約内容の通りですよ。さっき自分でOKしましたよね?ほら、証拠に」
『……鎖……?』
エマの首元を拘束する鎖が出現し、急に重さが加わったことで少しよろけた。
それは緑色に発光しており、アラスターの手元まで伸びている。
光で照らされているからか、先ほどよりアラスターの笑顔に不気味さが増長されているようにも感じさせる。
「エマ……友として助言しますが、悪魔との取引を軽率に受けないというのは地獄でも変わらないんですよ」
『うん、友なら取引する前に教えてな?』
「ちなみに今回で貴女の魂は私のものになっているので、友だからとあぐらをかいて八つ裂きにされないように」
『事後報告しかないな………って待って。ん?魂?私の魂…!?』
「ニャハハハ!今にも無数のハテナが可視化できそうですよ!」
『だってそんな話聞いてない!さすがに契約違反じゃない!?そもそも私シラフじゃなかったし!』
「いいえ〜?ちゃーんと話に出してましたよ?」
アラスターの口から出てくる内容はどれもエマを驚愕させるものばかりだった。
しかも魂を明け渡していることになっているらしい。
今日地獄にきて今日魂を取られることになるとは。さすがに[#da=1#]は声を荒げた。
しかしアラスターは契約通りだと言う。エマは先ほどのやり取りを思い返した。
もはや吐いたことと驚きで酔いは完全に冷めている。
『働かなければ…魂の補償はできない……あそこか……絶対あそこだ……』
「自力で思い出せてえらいでちゅね〜」
『頭痛くなってきた………』
「ずいぶん飲んでいらっしゃいましたから」
『違うことくらい分かってるくせに』
先ほどのアラスターの言葉を思い出したエマは頭を抱え冷や汗を垂らした。
補償できないのは生活程度だと思われていたが、違反した場合煮るなり焼くなり本当にアラスター次第でどうとでもなってしまうらしい。
つい先ほどまで楽しく酒を飲んでいたというのに、現在自由を奪われたエマは汗を吹き出し目を泳がせている。対しアラスターは終始余裕の笑顔だ。むしろ楽しんでいるようである。
『その様子ならまだまだ出てきそうだね?』
「そうですねぇ……ああ。私、ごく一部の悪魔が集まる会議に出席するていどには上級の悪魔なんです。つまり今の貴女にとって私はとっても偉い上司ということになりますね!ニャハ!」
『ほらもう……』
案の定まだ出てくる新しい情報にエマは顔を覆った。上級悪魔ということは力ずくで契約をどうにかするのは望み薄だろう。
しかしハッとしたエマは少しの間固まると、アラスターに質問した。
『………ちなみにその魂って横取りされることはあるの?』
「契約が破棄されない限り起きません。私が誰かにやられるなんてこともまずありえませんので、私の気分次第ということになります」
『……よし乗った。コーヒーの買い足しに行けばいいんだよね?』
「ええ、はい。ずいぶんな切り替わりようですね」
『今後は魂を取られないし、報酬がもらえるんだからやればやるほど美味しいなって』
アラスターの返答を聞いたエマはニヤリと笑みを浮かべたかと思うと、手のひらを反すように乗り気となった。
完全に信用しきったころに縛る必要がないと認識させ契約も破棄してもらう。これで旨味を堪能しながら自由を勝ち取ろうというのが夢主の魂胆だった。
『ちなみにこの買い出しをしたら何がもらえるの?依頼的に期待はしてないけど、初回特典として弾んでくれたら今後も頑張れる気がするなー』
「強かですねぇ……。とはいえ、私も久しぶりに誰かと語り合えて気分がいい。なのでその品の無いがめつさには目を瞑りましょう」
エマが前向きになるとアラスターは先ほどより少しつまらなさそうな反応を見せた。
地獄に堕ちるだけあって性格はだいぶねじ曲がっているようだ。
平気で友人になったばかりの酔っぱらった新人の魂を言いくるめて取り上げたのだからろくな人物ではない。
アラスターはエマへの最初の報酬にふむ、と考えた。
「あくまでも報酬は定期的なものとするのですが……とりあえず服の新調としましょうか。それではみっともないですから」
『なんか地獄でもバーとか服屋とかがあるの変な感じ』
「行きつけの仕立て屋があるのでそちらへ向かいます」
エマの服には争った際に付着した黒い返り血がベットリと残っていた。
ケチャップと同じように時間が経つと血は落ちにくくなる。いっそ一新したほうが早いとアラスターは考えたのだった。