異種族エンカウント!(ジェイド/中編)
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『今日も人魚ですか。もはや見慣れましたよ』
「……」
『綺麗な貝殻……ありがとうございます』
あれからさらに数日、マリシアの通う海岸はあの日ジェイドが案内した例の場所になっていた。
そこで好きに過ごしているとジェイドもフラっと現れたり、時には先に居ることもあるので、ジェイドのお気に入りスポットでもあるらしい。
さらに変わったことと言えば、あのテラリウムをきっかけに会うとまず珍しい色の貝殻や美しい真珠など、海でしか手に入らないであろう美しく珍しいものをマリシアに譲渡するようになった。
その見返りとしてマリシアに歌うよう要求するときもあれば、ただ何もせずニコニコとしているだけの日もある。
マリシア自身は、過剰な要求をされるわけでも何かしてくるわけでもないため、相変わらずいつも通りに過ごしている。
むしろマリシアから話しかけてみることもあった。
『いくら夏とはいえ、いつも水に浸かってて平気なんですか?ジェイドさんも座ればいいのに』
「?」
『ここ。座りましょう。たまには役作りのこと忘れて休まないと』
「……ふふ」
いつも会ってから解散までは水の中にいるので、マリシアはジェイドの首から下がどうなっているのか疑問に思っていたのだ。
頭部や手先だけでもこれだけの高度な特殊メイクだ、胴体や尾びれも相当なものだろうという好奇心もあった。
ジェイドはマリシアがポンポンと叩いている岩場を見て、そこに座ればいいという意図を理解したようだ。
静かに、そしてどこかいたずらっぽく笑うと素直に岩場に手をかけマリシアの隣に腰掛ける。そしてあらわになった首から下に彼女は驚愕した。
『えっすご!?つなぎ目が見えない……それに全長何m……どうなってるんです…!?』
「クスクス」
海面から出てきたことで明らかになったジェイドの全身は、背中に立派なヒレ、そして美しさと逞しさを感じさせる長い尾びれを備えていた。
下半身と上半身は同じ色味をしており下半身の方が肉厚で色も濃いのだが、その質感の変化があまりにも自然で、神秘的な様と艶のある引き込まれるような瞳も相まって、まるで、
『本物の人魚みたい……』
「……」
『?』
思わずマリシアがそう呟くとジェイドは自分の口元に人差し指を立て、「静かに」と言うような仕草を見せると指先で弧を描いた。
その指先からは淡い光を放っており、まるでインクが出ているかのようにサラサラと指を動かし、光は指の動きと同じ曲線を描いた状態で留まっている。
やがてその光は1つの絵になった。誰でも一度は書いたことがあるであろう簡易的なスマイルマークだ。
マリシアがどういう仕組みなのかとジェイドの指先と今もなお宙に留まっているイラストを交互に見ると、ジェイドは再び指を動かした。次はそれなりに描き込みがある。
やがて終わると、そこにはトップスのみ着ている棒人間と、それとは別でズボンと思われる衣服を簡易的な絵がマリシアの目に映った。
いまだに判明したばかりの体の説明も無いまま、突如描いたイラストを目の前の彼は自身と交互に指さしている。
なかなか状況が掴めないマリシアは懸命に考えつつも首をかしげた。
それを見たジェイドは棒人間にもう一人棒人間を横に並べた。新しい棒人間はスカートをしているようだ。
そして再度先ほどの棒人間の衣服の部分と自身を指さし、さらに新しく追加された棒人間とマリシアを交互に指さした。
そこでマリシアはハッとする。
『この絵って、もしかしてあの時の……これって魔法……?そしてあれはあなたが……?』
「……」
『えっ待って待って。ジェイドさんって本当に人魚!?あの時のは事故じゃなくてジェイドさんがやったってこと!?』
マリシアは絵とジェイドを交互に見やると、彼は少し困った笑顔で頷きながら再度静かにするようジェスチャーをする。
咄嗟にマリシアは慌てて自身の口元を抑えた。
ジェイドが描いたのは、先日マリシアの目の前で同学年の生徒のスボンがベルトごと落ち、下着が露わになった事件のことだった。
あの時相手が「急にスボンが落ちた」と言っていたのは本当のことだったらしい。
だからといってそのまま接近していいというわけではなかったが。
『あの時のは、魔法……そして、目の前にいるのは本物の……』
昔このあたりで人間に変身して生活していた人魚がいたという。
その人魚は魔法が使うことができ、他の絵本や昔話に出てくる人魚も魔法を使う描写がされていたため、この世界では”魔法が使える=人魚”という認識が出来上がっていたのだ。
実際人間は魔法が使えない。近いものだとしても熱さに強い、体が非常に柔らかいなどのびっくり人間程度だ。
しかしジェイドが描いて見せた絵は宙に留まり続け、さらに手先を軽く払う動作をするとその絵が消えた。
この芸当はマジックで片付けられるものではない。おまけに作り物とは思えないほどの人間離れした体。
つまり、目の前の彼は伝説上の存在とされていた人魚と断定できてしまうということになる。
これまでの行動からジェイドもただならない状況であると認識しているはずなのに、彼の尾びれは優雅に美しくユラユラと揺蕩っていた。
『……ど、どうして打ち明けてくれたんですか?捕まって干物にされたりひどいことをされてしまうかもしれないのに……』
「…………マリシア、サン」
『え』
「マリシアサンの、コエ、うた、好き、デス。……陸も、知りタい、デスネ?」
突然人魚であることが判明した彼がマリシアの名前以外の言葉を発した。
名前を呼んでいたのだって数日前に初めて互いの自己紹介をしたとき以来だ。
それはとてもたどたどしく、まるで最近他国の言葉を勉強し始めた海外の人間のようだった。
ジェイドはマリシアの歌が好きで、陸にも興味が湧いたから彼女を観察するため姿を消さず、礼の事件の日に助太刀もしたということらしい。
これでようやくマリシアにしか姿を現さない理由が判明した。
誰しも他国の人間が自国の言葉を拙い言葉で懸命に話していると嬉しい気持ちになるもので。
このときもマリシアはジェイドの伝えたいことが理解できた嬉しさも相まり、自然と肩の力が抜け、頬も緩んでいた。
『……ふふふ。知りたい"ですね"じゃなくて、知りたい"です"』
「?知りタイ、デス?」
『うん。そう』
「知りたいデス」
『覚えが早いですね。私も海のこと、知りたいです』
「ウミ……海?」
『はい。海』
「海、知りたいデス?」
『はい。知りたいです。…あ、でも、泳げないので海に入るのは嫌ですよ』
海と陸という単語も認識しているようで、海と聞いて目の前に広がるどこまでも続く海原を指さした。
いつから勉強していたのか、なかなか話せるようだ。
『よかった……問答無用で海の中に引きずり込まれて食べられるんじゃないかってヒヤヒヤしましたよ』
「?」
『えっと…ジェイドさん、良い人魚。私、嬉しい』
「マリシアサン、嬉しイ?」
『はい』
マリシアも歌の名手である人魚に歌声を気に入られていたのは嬉しい話だった。
もちろんいつ人魚と人間の文化や思考の行き違いから海底へ引きずり込まれないか懸念する部分は拭えないが。
陸のことが知りたいと言うので、もしそれが建前だとしても本当に興味を持ってもらえばその懸念も払拭されるだろうと考えた。
『ではそろそろ帰りますね』
「……」
『また来ます』
まだ帰るという言葉自体を理解していないようだが、今までもこのくらいの空の色合いとともに「帰ります」「帰らないと」というような言葉を聞いていたため、今日はもう終わりということの理解はしているようだった。
夕日を見つめたジェイドはコクコクと頷き手を振ったのでマリシアも振り返す。
いつもどおりジェイドは他の人間の気配がない限りマリシアの姿が見えなくなるまで見送っていた。
「……」
『綺麗な貝殻……ありがとうございます』
あれからさらに数日、マリシアの通う海岸はあの日ジェイドが案内した例の場所になっていた。
そこで好きに過ごしているとジェイドもフラっと現れたり、時には先に居ることもあるので、ジェイドのお気に入りスポットでもあるらしい。
さらに変わったことと言えば、あのテラリウムをきっかけに会うとまず珍しい色の貝殻や美しい真珠など、海でしか手に入らないであろう美しく珍しいものをマリシアに譲渡するようになった。
その見返りとしてマリシアに歌うよう要求するときもあれば、ただ何もせずニコニコとしているだけの日もある。
マリシア自身は、過剰な要求をされるわけでも何かしてくるわけでもないため、相変わらずいつも通りに過ごしている。
むしろマリシアから話しかけてみることもあった。
『いくら夏とはいえ、いつも水に浸かってて平気なんですか?ジェイドさんも座ればいいのに』
「?」
『ここ。座りましょう。たまには役作りのこと忘れて休まないと』
「……ふふ」
いつも会ってから解散までは水の中にいるので、マリシアはジェイドの首から下がどうなっているのか疑問に思っていたのだ。
頭部や手先だけでもこれだけの高度な特殊メイクだ、胴体や尾びれも相当なものだろうという好奇心もあった。
ジェイドはマリシアがポンポンと叩いている岩場を見て、そこに座ればいいという意図を理解したようだ。
静かに、そしてどこかいたずらっぽく笑うと素直に岩場に手をかけマリシアの隣に腰掛ける。そしてあらわになった首から下に彼女は驚愕した。
『えっすご!?つなぎ目が見えない……それに全長何m……どうなってるんです…!?』
「クスクス」
海面から出てきたことで明らかになったジェイドの全身は、背中に立派なヒレ、そして美しさと逞しさを感じさせる長い尾びれを備えていた。
下半身と上半身は同じ色味をしており下半身の方が肉厚で色も濃いのだが、その質感の変化があまりにも自然で、神秘的な様と艶のある引き込まれるような瞳も相まって、まるで、
『本物の人魚みたい……』
「……」
『?』
思わずマリシアがそう呟くとジェイドは自分の口元に人差し指を立て、「静かに」と言うような仕草を見せると指先で弧を描いた。
その指先からは淡い光を放っており、まるでインクが出ているかのようにサラサラと指を動かし、光は指の動きと同じ曲線を描いた状態で留まっている。
やがてその光は1つの絵になった。誰でも一度は書いたことがあるであろう簡易的なスマイルマークだ。
マリシアがどういう仕組みなのかとジェイドの指先と今もなお宙に留まっているイラストを交互に見ると、ジェイドは再び指を動かした。次はそれなりに描き込みがある。
やがて終わると、そこにはトップスのみ着ている棒人間と、それとは別でズボンと思われる衣服を簡易的な絵がマリシアの目に映った。
いまだに判明したばかりの体の説明も無いまま、突如描いたイラストを目の前の彼は自身と交互に指さしている。
なかなか状況が掴めないマリシアは懸命に考えつつも首をかしげた。
それを見たジェイドは棒人間にもう一人棒人間を横に並べた。新しい棒人間はスカートをしているようだ。
そして再度先ほどの棒人間の衣服の部分と自身を指さし、さらに新しく追加された棒人間とマリシアを交互に指さした。
そこでマリシアはハッとする。
『この絵って、もしかしてあの時の……これって魔法……?そしてあれはあなたが……?』
「……」
『えっ待って待って。ジェイドさんって本当に人魚!?あの時のは事故じゃなくてジェイドさんがやったってこと!?』
マリシアは絵とジェイドを交互に見やると、彼は少し困った笑顔で頷きながら再度静かにするようジェスチャーをする。
咄嗟にマリシアは慌てて自身の口元を抑えた。
ジェイドが描いたのは、先日マリシアの目の前で同学年の生徒のスボンがベルトごと落ち、下着が露わになった事件のことだった。
あの時相手が「急にスボンが落ちた」と言っていたのは本当のことだったらしい。
だからといってそのまま接近していいというわけではなかったが。
『あの時のは、魔法……そして、目の前にいるのは本物の……』
昔このあたりで人間に変身して生活していた人魚がいたという。
その人魚は魔法が使うことができ、他の絵本や昔話に出てくる人魚も魔法を使う描写がされていたため、この世界では”魔法が使える=人魚”という認識が出来上がっていたのだ。
実際人間は魔法が使えない。近いものだとしても熱さに強い、体が非常に柔らかいなどのびっくり人間程度だ。
しかしジェイドが描いて見せた絵は宙に留まり続け、さらに手先を軽く払う動作をするとその絵が消えた。
この芸当はマジックで片付けられるものではない。おまけに作り物とは思えないほどの人間離れした体。
つまり、目の前の彼は伝説上の存在とされていた人魚と断定できてしまうということになる。
これまでの行動からジェイドもただならない状況であると認識しているはずなのに、彼の尾びれは優雅に美しくユラユラと揺蕩っていた。
『……ど、どうして打ち明けてくれたんですか?捕まって干物にされたりひどいことをされてしまうかもしれないのに……』
「…………マリシア、サン」
『え』
「マリシアサンの、コエ、うた、好き、デス。……陸も、知りタい、デスネ?」
突然人魚であることが判明した彼がマリシアの名前以外の言葉を発した。
名前を呼んでいたのだって数日前に初めて互いの自己紹介をしたとき以来だ。
それはとてもたどたどしく、まるで最近他国の言葉を勉強し始めた海外の人間のようだった。
ジェイドはマリシアの歌が好きで、陸にも興味が湧いたから彼女を観察するため姿を消さず、礼の事件の日に助太刀もしたということらしい。
これでようやくマリシアにしか姿を現さない理由が判明した。
誰しも他国の人間が自国の言葉を拙い言葉で懸命に話していると嬉しい気持ちになるもので。
このときもマリシアはジェイドの伝えたいことが理解できた嬉しさも相まり、自然と肩の力が抜け、頬も緩んでいた。
『……ふふふ。知りたい"ですね"じゃなくて、知りたい"です"』
「?知りタイ、デス?」
『うん。そう』
「知りたいデス」
『覚えが早いですね。私も海のこと、知りたいです』
「ウミ……海?」
『はい。海』
「海、知りたいデス?」
『はい。知りたいです。…あ、でも、泳げないので海に入るのは嫌ですよ』
海と陸という単語も認識しているようで、海と聞いて目の前に広がるどこまでも続く海原を指さした。
いつから勉強していたのか、なかなか話せるようだ。
『よかった……問答無用で海の中に引きずり込まれて食べられるんじゃないかってヒヤヒヤしましたよ』
「?」
『えっと…ジェイドさん、良い人魚。私、嬉しい』
「マリシアサン、嬉しイ?」
『はい』
マリシアも歌の名手である人魚に歌声を気に入られていたのは嬉しい話だった。
もちろんいつ人魚と人間の文化や思考の行き違いから海底へ引きずり込まれないか懸念する部分は拭えないが。
陸のことが知りたいと言うので、もしそれが建前だとしても本当に興味を持ってもらえばその懸念も払拭されるだろうと考えた。
『ではそろそろ帰りますね』
「……」
『また来ます』
まだ帰るという言葉自体を理解していないようだが、今までもこのくらいの空の色合いとともに「帰ります」「帰らないと」というような言葉を聞いていたため、今日はもう終わりということの理解はしているようだった。
夕日を見つめたジェイドはコクコクと頷き手を振ったのでマリシアも振り返す。
いつもどおりジェイドは他の人間の気配がない限りマリシアの姿が見えなくなるまで見送っていた。
