異種族エンカウント!(ジェイド/中編)
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『……楽しんでいただけたようで何よりです』
「フフフ」
いつものように水面にいるが、今日は拍手をしていることで手先や顔全体も見えた。
鋭く尖った爪も精巧な作りをしているのが近距離でなくてもよくわかる。
マリシアは楽しそうに、かつ上品に口元を抑えながら笑う役者の元へと降りる。
いつもは岩陰から少し覗いていた程度で声も発したことがなかったが、改めて見るとオッドアイの金目にも負けない綺麗な顔立ちをしており、笑い声から落ち着きのある低めの声という印象を受けた。
『いつも泳ぎの練習にでも来てるんですか?』
「?」
『えぇ……今くらいは役から抜け出してくれませんかね……話にならない……』
「……!クスクス」
やはりマリシアが話しかけても首を傾げるのみで返事をすることがない。
しかし役者は何か気づいたような反応をするとまた小さく笑い出した。
そんなマリシアは置いてけぼりをくらいつつ、岩陰に隠れていないしやけに楽しそうだなと見ていると、役者がある方向を指さした。
その方向に目を向けても、海岸の岩場はこの場で終わりのはず。実際視界の大半は海原が占めていた。
何を伝えたいのかわからずマリシアが片眉をあげると、役者はかまわず潜ってしまった。
姿が見えなくなって間もなく顔を出し、ちょいちょいと手招きされることで案内されているということに気づく。
『わぁ……こんな場所があったなんて……』
「……」
『……えっと、何が目的なんです?』
役者が案内した場所は、海岸の端からさらに続く小さな洞窟のようになっている場所だった。
海岸なので波を塞ぎ止める大岩がゴロゴロと転がっているが、いつもマリシアが来る岩場からさらに隠れて足場が続いていたのだ。
ただでさえいつもの場所には人通りが少ないが、ここは地元民としてよく通っていたマリシアも知らなかったのだから、いよいよ目につくことが無くなるのではないだろうか。
そんなところに知り合って数日の、名前もまともな声も素性も知らない男性に誘われれば警戒もする。
しかもつい先ほど同学年に目の前でズボンを下ろし接近されたのだから余計に神経が張り詰めていた。
そのためマリシアは顔を覗かせるのみに留め役者に質問する。
「……」
『……なにか?』
「……」
『ちょ……だから言語を話せってば』
役者は何やら考えながらマリシアを見ているかと思えば、再び水面に潜ってしまった。
どこまでその人魚役を貫くつもりなのだろうか。
意思疎通がままならなくマリシアは困り果ててしまった。
『……?何か持って来たんですか?』
「……」
『…わぁっ…』
少しすると役者は水面から顔を出した。何かが入った瓶を持って来たようだ。
役者はグイグイと瓶をマリシアに押し付けるので、受け取ってほしいという意味と受け取り手に持つ。そして何かがあるのかと瓶の中を確認してみた。
中身は小ぶりな海藻が揺れており、その根元には貝殻が散りばめられ、さらに石のようなものが淡く光りを放ち幻想的な雰囲気を作り出している。
そこにはたしかにそこだけの小さな海の世界が存在していた。
そう、いわゆるテラリウムだ。
その美しさにマリシアは思わず感嘆の声を漏らす。
『すごい…綺麗……!この明かりはただのライトじゃないですよね?不思議……どうやってこの繊細な灯りを演出しているんだろう……。素敵な物を見せてくれてありがとうございます。よっぽどさっきのがおもしろかったんですね』
「……」
『え……?もしかしてくれるんですか?』
「…!」
『ありがとうございます………では、その手はなんです?』
相変わらず役者は言葉を発さず、ニコニコと笑みを称えているだけ。
しかし瓶を返そうとしても役者は受け取ろうとしないので、なんとなく渡したいのだと察することはできた。
しかし手のひらを差し出され、マリシアは怪訝な表情を向ける。
次は軽く鼻歌を歌ってすぐにまた手のひらを催促するように出したことで「歌え」と伝えたいようだ。
つまり、テラリウムを気に入ったなら対価として歌え——ということらしい。
ここまで状況を理解できたのはいいが、マリシアの眉間は再び溝を作り役者を見る。
『いや……その前に名前を教えてください。このテラリウムは素敵ですけど、あなたの素性を知らないのは変わりませんから、教えてくれないならこの話は無かったことにします』
「……?」
『ああもう……私、マリシア。あなたは?』
「?」
『マリシア』
「……マリシア?」
『そう』
「…マリシア…」
何度かジェスチャーと併せて口にした事で、マリシアが自己紹介しているということを理解したらしい。
耳は聞こえている。しかしここまで言葉が通じないということは、もしかしたら海外の人間なのだろうとマリシアは考えた。
しかし相手は言葉を発さないためどこの国かも分からないし、分かったところで多言語で日常会話ができるほどのスキルもマリシアは持ち合わせていない。
『私は、マリシア。あなたは?』
「………ジェイド」
『ようやく聞き出せた……えっとジェイド、さん?こちらありがとうございます。お礼にご希望の歌を歌いますね』
彼はジェイドという名前らしい。
ようやく名前だけでも情報がわかり、マリシアはひとまず安堵の溜め息をつく。
これだけジェスチャーが必須なほど意思疎通に苦労するのだから、おそらく言葉が通じないのも名前についても本当なのだろうと考えた。
マリシアは大人びた印象から歳上だろうかと推察しそっちの想定で対応することにした。
言語はうまく交わせずとも礼儀は欠かしたくないという姿勢からだ。
『……日が沈んで来たんで、そろそろ帰りますね』
「……」
歌いはじめてからしばらくして、空がオレンジ色になってきたためマリシアは切り上げることにした。
ジェイドは今の空くらいでマリシアが帰宅しているのを何度も見ていたので、空とマリシアが口にした様子から終わりだと察したらしい。穏やかな笑顔でゆっくり頷いて返す。
『……いい場所知れたのとコレはいいけど、どうしてこんなことを……?』
帰路に向かう最中、マリシアはジェイドの行動に疑問を感じていた。
とくに何かしてくるようなことはなかったので、再び現れても今回のような取引がない限りは放置していようと決めたのだった。
テラリウムは自室に飾り、消灯していても程よい淡さで発光している様子に安心感を感じ非常に良く眠れた。
「フフフ」
いつものように水面にいるが、今日は拍手をしていることで手先や顔全体も見えた。
鋭く尖った爪も精巧な作りをしているのが近距離でなくてもよくわかる。
マリシアは楽しそうに、かつ上品に口元を抑えながら笑う役者の元へと降りる。
いつもは岩陰から少し覗いていた程度で声も発したことがなかったが、改めて見るとオッドアイの金目にも負けない綺麗な顔立ちをしており、笑い声から落ち着きのある低めの声という印象を受けた。
『いつも泳ぎの練習にでも来てるんですか?』
「?」
『えぇ……今くらいは役から抜け出してくれませんかね……話にならない……』
「……!クスクス」
やはりマリシアが話しかけても首を傾げるのみで返事をすることがない。
しかし役者は何か気づいたような反応をするとまた小さく笑い出した。
そんなマリシアは置いてけぼりをくらいつつ、岩陰に隠れていないしやけに楽しそうだなと見ていると、役者がある方向を指さした。
その方向に目を向けても、海岸の岩場はこの場で終わりのはず。実際視界の大半は海原が占めていた。
何を伝えたいのかわからずマリシアが片眉をあげると、役者はかまわず潜ってしまった。
姿が見えなくなって間もなく顔を出し、ちょいちょいと手招きされることで案内されているということに気づく。
『わぁ……こんな場所があったなんて……』
「……」
『……えっと、何が目的なんです?』
役者が案内した場所は、海岸の端からさらに続く小さな洞窟のようになっている場所だった。
海岸なので波を塞ぎ止める大岩がゴロゴロと転がっているが、いつもマリシアが来る岩場からさらに隠れて足場が続いていたのだ。
ただでさえいつもの場所には人通りが少ないが、ここは地元民としてよく通っていたマリシアも知らなかったのだから、いよいよ目につくことが無くなるのではないだろうか。
そんなところに知り合って数日の、名前もまともな声も素性も知らない男性に誘われれば警戒もする。
しかもつい先ほど同学年に目の前でズボンを下ろし接近されたのだから余計に神経が張り詰めていた。
そのためマリシアは顔を覗かせるのみに留め役者に質問する。
「……」
『……なにか?』
「……」
『ちょ……だから言語を話せってば』
役者は何やら考えながらマリシアを見ているかと思えば、再び水面に潜ってしまった。
どこまでその人魚役を貫くつもりなのだろうか。
意思疎通がままならなくマリシアは困り果ててしまった。
『……?何か持って来たんですか?』
「……」
『…わぁっ…』
少しすると役者は水面から顔を出した。何かが入った瓶を持って来たようだ。
役者はグイグイと瓶をマリシアに押し付けるので、受け取ってほしいという意味と受け取り手に持つ。そして何かがあるのかと瓶の中を確認してみた。
中身は小ぶりな海藻が揺れており、その根元には貝殻が散りばめられ、さらに石のようなものが淡く光りを放ち幻想的な雰囲気を作り出している。
そこにはたしかにそこだけの小さな海の世界が存在していた。
そう、いわゆるテラリウムだ。
その美しさにマリシアは思わず感嘆の声を漏らす。
『すごい…綺麗……!この明かりはただのライトじゃないですよね?不思議……どうやってこの繊細な灯りを演出しているんだろう……。素敵な物を見せてくれてありがとうございます。よっぽどさっきのがおもしろかったんですね』
「……」
『え……?もしかしてくれるんですか?』
「…!」
『ありがとうございます………では、その手はなんです?』
相変わらず役者は言葉を発さず、ニコニコと笑みを称えているだけ。
しかし瓶を返そうとしても役者は受け取ろうとしないので、なんとなく渡したいのだと察することはできた。
しかし手のひらを差し出され、マリシアは怪訝な表情を向ける。
次は軽く鼻歌を歌ってすぐにまた手のひらを催促するように出したことで「歌え」と伝えたいようだ。
つまり、テラリウムを気に入ったなら対価として歌え——ということらしい。
ここまで状況を理解できたのはいいが、マリシアの眉間は再び溝を作り役者を見る。
『いや……その前に名前を教えてください。このテラリウムは素敵ですけど、あなたの素性を知らないのは変わりませんから、教えてくれないならこの話は無かったことにします』
「……?」
『ああもう……私、マリシア。あなたは?』
「?」
『マリシア』
「……マリシア?」
『そう』
「…マリシア…」
何度かジェスチャーと併せて口にした事で、マリシアが自己紹介しているということを理解したらしい。
耳は聞こえている。しかしここまで言葉が通じないということは、もしかしたら海外の人間なのだろうとマリシアは考えた。
しかし相手は言葉を発さないためどこの国かも分からないし、分かったところで多言語で日常会話ができるほどのスキルもマリシアは持ち合わせていない。
『私は、マリシア。あなたは?』
「………ジェイド」
『ようやく聞き出せた……えっとジェイド、さん?こちらありがとうございます。お礼にご希望の歌を歌いますね』
彼はジェイドという名前らしい。
ようやく名前だけでも情報がわかり、マリシアはひとまず安堵の溜め息をつく。
これだけジェスチャーが必須なほど意思疎通に苦労するのだから、おそらく言葉が通じないのも名前についても本当なのだろうと考えた。
マリシアは大人びた印象から歳上だろうかと推察しそっちの想定で対応することにした。
言語はうまく交わせずとも礼儀は欠かしたくないという姿勢からだ。
『……日が沈んで来たんで、そろそろ帰りますね』
「……」
歌いはじめてからしばらくして、空がオレンジ色になってきたためマリシアは切り上げることにした。
ジェイドは今の空くらいでマリシアが帰宅しているのを何度も見ていたので、空とマリシアが口にした様子から終わりだと察したらしい。穏やかな笑顔でゆっくり頷いて返す。
『……いい場所知れたのとコレはいいけど、どうしてこんなことを……?』
帰路に向かう最中、マリシアはジェイドの行動に疑問を感じていた。
とくに何かしてくるようなことはなかったので、再び現れても今回のような取引がない限りは放置していようと決めたのだった。
テラリウムは自室に飾り、消灯していても程よい淡さで発光している様子に安心感を感じ非常に良く眠れた。
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