6章
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この小説の夢小説設定物語の都合上、略した名前・略さない名前が2つずつあります。
ご自身の名前を使う際、ストーリー後半からになりますが
「主人公 名前」「主人公 名前略称」に登録すると読みやすいかと思います。
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「リドルさん!」
「うわぁ!」
『こんっの…!』
「ギッ!」
天井にファントムが控えていることにいち早く気づいたアズールは目の前にいたリドルの背を蹴飛ばし、エディシアは落下してくるファントムを近場の石で殴り迎撃した。
ファントムが怯んでいるうちにアズールがとどめをさしたことで被害は抑えられはしたが、リドルは蹴られたことに驚愕し若干目を泳がせている。
「階段を転がり落ちるところだったじゃないか!」
「すみません、タコだった頃の癖が抜けなくて。腕を出すつもりで、つい足が出てしまいました」
「絶対に嘘だろう……ああ、マントにくっきり足跡が。見た目と違って品のない行動をするんだな、キミは」
「頭からブロット凝縮液をかぶるよりマシでしょう?命がかかっているときに、上品さなんて気にしていられません」
『また喧嘩を始めないでくださいね』
「まさか。リドルさんとはもう友だちなんですから、そんなことするわけないじゃないですか」
リドルはアズールに強い剣幕で攻め立てるも、そんなつもりではないと流されてしまった。
エディシアは謝罪もなく全く悪びれる様子すら見せないアズールをじっとりと睨みつけ釘をさす。
アズールとエディシアのやりとりを見ていたリドルは、小さく溜め息をつくと先ほどの言葉から感じた疑問を投げかけた。
「こんなことは慣れっこ、みたいに言うんだね。海の中って、日常的に命の危険が潜んでいるものなの?」
「そうですねぇ……陸よりも巨大な肉食動物や毒をもつ生物の存在が身近ではあります。しかし、対処法を知っていればそれほど恐れるべき存在ではありません。魔法が使えるならなおさらです」
「魔法か……。キミたちは何歳から魔法が使えたんだい?」
『僕は8歳ごろに魔法が使えることに気付きました。魔法は祖母と父から教わりましたが、祖母は多忙だったので、父から教わることが多かったです』
「物を引き寄せる程度のごく簡単なものなら僕も8歳になった頃に。祖母と母が魔法士なので、簡単なことは教えてくれたのですが……昔の僕は今ほど学習意欲もなく、家族も「宿題さえ忘れなければ良し」というおおらかな人たちなので。本格的に魔法の勉強をはじめたのは、ミドルスクールに上がる頃でした」
「へぇ、そうなんだ」
『そういえば初めて聞きました』
魔法の有用性は、海では生存競争にも直結するとても重要なものらしい。
そこから連想ゲームのように次の質問を投げかけ、訊ねられたエディシアとアズールはそれぞれ答える。
エディシアは始めこそほんの些細なものでお守りに魔法石を身に着ける程度だったが、魔法の危険性を説かれつつ徐々に祖母と父が落とし込んでいったのだ。
アズールは魔法の発現から練習らしい練習をするまで多少の期間があったようで、彼といえば努力家なイメージからは想定しえない来歴にリドルとエディシアは意外だと感じた。
「………みなまで言わないでください!甘やかされて育った自覚はあります!!」
『えっ?』
「はっ!?ボクたちは別に何も言ってないだろう」
「今では本当に後悔しているんです。ろくに勉強もせず、好きなものを食べてはゴロゴロ……時間を浪費しつつカロリーを蓄えるという最悪のルーティーンを何年も続けていたことを!!!」
『すごいことを暴露しだしたな……』
「そ、それは確かに改めるべき生活習慣だとは思うけれど」
突然慌てはじめたアズールに2人は驚いた。
しかもどちらかが聞いたわけでもないのに、自ら意外すぎる背景を語り始めたのだ。
それほどアズール本人は悔いているのだろう。
アズールの突然の様子にリドルもエディシアも思わず気圧され、感じたことをそのままこぼすしかできなかった。
「その後一念発起し、あらゆることをがむしゃらに学びましたが……こうして努力し続けてきた人との差を見せつけられると、悔しくなりますよ。もっと早く始めておけば、とね」
「おや、随分と殊勝なことを言うじゃないか。でも、もしキミがボクのように昔から勉強”だけ”をし続けていたなら……きっと今ほどの野心やバイタリティは持ち得なかっただろうね」
「………もしかして、褒めてくれてます?」
『やっぱり。リドル先輩なりにリスペクトしているんですよ』
「貶してはいないよ。別に、褒めてもいないけれど」
気持ちが落ち着いたようでアズールが最終的に伝えたかったことを、リドルの目をまっすぐに見て伝えた。
人は才能で多少の優劣はつくものの、努力次第で今後のレベルが変わってくるものだ。
凡人がプロや権力者になることもあれば、天才が堕落し泥水を啜ることもありえる。
リドルの言葉を聞いたエディシアはニヤリと笑みを浮かべアズールを見やり、アズールも少し遅れて口角をゆっくり静かに上げた。
「野心か……フフッ。そうですね。今はあなたに”前衛”を譲っていますが、このまま”後衛”に甘んじ続けるつもりはない。あなたが少しでも油断すれば、卒業式で首席のスピーチをするのは僕になるかもしれません」
「フン。残念だけど、ボクの辞書に”油断”という文字はない。在学中……いや卒業後も、誰よりも前に立ち続けるさ。キミにだって一生負けるつもりはないよ。フフッ。いつまでその余裕が持つのか、お手並み拝見といこうか」
「これはますます世界をリセットされるわけにはいかなくなりましたねぇ」
『(これでめでたく仲直りってことになればこの後が楽なんだけど)』
アズールもリドルも、2年生の中の成績順では常にトップ層に君臨している。
リドルはいわずもがかな首位だが、彼だって努力しているからこそ名門でも頂点に立っている。
しかしサイコロの振り方にまで努力するアズールだ。ゆくゆくリドルの順位を脅かす唯一の存在になるかもしれない。
そんなライバルのような関係の2人を、エディシアは訝しげに見つめた。
「あっ……前方に収容所のドアが見えてきた。地図を見る限り、ここが最後の関門になりそうだ」
「つまり、1番危険度の高いファントムが収容されているということですね。慎重にいきましょう。1年生のエディシアさんは僕たちから離れないように。無理に敵に挑まず、サポートをお願いします」
『わかりました。では危険なので喧嘩は無しで、よろしくお願いします』
リドルが地図と実物のドアを交互に見比べ、現在地に間違いがないことを確認した。
自身の寮長であるアズールに指示されたエディシアは、負けじと念を押すようにリドルとアズールを見やりながら返答した。