6章
お名前編集はこちら
この小説の夢小説設定物語の都合上、略した名前・略さない名前が2つずつあります。
ご自身の名前を使う際、ストーリー後半からになりますが
「主人公 名前」「主人公 名前略称」に登録すると読みやすいかと思います。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……というわけで、賢者の島から私のユニーク魔法を使い、みんなのあとを追ってきたのさ」
『殺傷能力は無いのにこの恐怖感は何なんだろう』
「使用者がコイツだからだろ。俺も悪寒がする」
増援のおかげで敵の掃討が完了し、ようやく落ち着いたことで改めてルークが経緯を説明した。
話を聞いた[#da=1#]、レオナの獣人属2人は真っ直ぐ立っていた耳を下に向けていた。
ルークは学園の生徒たちそれぞれの癖や1日の活動などをよく観察しているが、人属以外の種族の生徒については特に興味深く見ている傾向がある。
そのため2人には、ユニーク魔法の概要だけでも、ルークが使うと恐ろしい武器にかなると感じたようだ。
ちなみに島内に入ってからは、ルークがユニーク魔法を付与した美容液をヴィルが持ち歩いていたことでそれを辿り、合流することができたらしい。
「怪しまれるかと思いメモを入れることもしなかったが、流石の察しの良さだね、ヴィル」
「ふだんのスキンケアには魔法効果を付与したものは使っていないから、すぐに気付いたわ。”お守りコスメ”が早速役に立ったわね」
『ヴィルさんを信じるルーク先輩はさすが副寮長ですし、それを裏切らないヴィルさんも素晴らしいです』
「お前はルーク先輩を称賛したいのか恐怖したいのかどっちなんだ…」
『どっちもですね』
ルークとヴィル互いのファインプレーによって合流できたことが分かると、[#da=1#]はそんな2人を称賛した。
手のひらを返すようにルークへの評価を訂正した[#da=1#]を、ジャミルは怪訝そうに見つめる。
そんなやり取りを眺めていたユウは視線を全体へ移し、あることに気づいた。
「グリムの姿が見えないな……みなさん、グリムを知りませんか?」
『グリム?』
「彼も嘆きの島へ連れてこられたのかい?」
「はい。ヴィルサンたちが連れ去られた後に、捕まってしまって……皆さんと一緒にいるものだとばかり思っていたんですが」
『そもそも、僕たち以外の被検体は見ていないですよね』
「ええ。この島に来てから、検査のときも、それ以外でも、一度もグリムさんはお見かけしていませんね」
ユウがルークとエペルに着いて来たのは、唯一同じ寮生であるグリムの救出らしい。
しかし被検体たちが嘆きの島に向かっているときから到着後も、一度もグリムを見ていなかった。
レオナは話を聞きながら自身の顎に手をあて考える。そして何かに気づいたようで
「…………待てよ」と呟いた。
「もしかして、俺たちより先にドアをぶち破って脱走した被検体ってのは……あの毛玉か?」
「まさか!グリムはうちのエースやデュースに比べても、魔法の腕が未熟なはずです。それなのに、ボクたちでも破るのが難しい防魔素材を使ったドアを吹き飛ばせるわけがない」
「グリムになにが起こってるんだろう……」
『…暴走の度合いによっては可能性は0じゃない。今はひとりでこの施設の中にいることも考えられるけど、僕たち以外の被検体を見聞きしてないあたり、グリムがいた可能性の方が辻褄は合うんじゃないかな』
「そんな……」
レオナの考察をリドルが真っ先に否定した。
しかし[#da=1#]がレオナの説に乗っかったことで、ユウの声や表情に戸惑いとショックの色が現れる。
それを見かねたヴィルが、スタッフに一番奥の部屋には誰がいたのかを訊ねた。
「被検体F……ナイトレイブンカレッジから連行された魔獣だ」
「……やっぱりあの毛玉か」
「でも、魔法に関するテスト結果はどれも並の魔法士以下。被検体Aの言う通り、あのドアを破るほどのパワーは一度も計測されていない」
『ということは魔力ではなく素の力であのドアを……?あの体で……?』
レオナの推察通り、あのドアを破ったのはグリムということが確定した。
しかし計測したデータ上では不可能な数値とのことで、また謎が浮かび上がる。
そこにもう1人のスタッフが、被検体Fについて1つ特記事項があったはずと資料を探し始めた。
「……ありました。これです。被検体Fは、何度テストしてもブロット蓄積値が正確に計測できない状態だったんです」
「どういうこと?」
「【S.T.Y.X】の保有するデータでも同様の事例がヒットせず、精密検査をしても原因は特定に至りませんでした」
解析班によれば、古代魔術が何重にも重ねがけされているらしい。
魔術効果の特定には至らなかったが、条件付けされた状況下でのみ発動する呪い、あるいは祝福の可能性が高いとのことだった。
グリムの健康状態は安定していたので、経過観察をしつつ解析する予定だったようだ。
スタッフの説明にユウと[#da=1#]がそれぞれの単語を反復した。
「呪い……?」
『…祝福……』
「呪いと祝福は、人間が効果によって呼び分けているだけで根本的には同じものよ」
2人、とくにユウは要領を得ない反応をしたことから、ヴィルが自身の魔法と絡めて解説を始めた。
”美しき華の毒”も先ほどの緊急時で開かないドアから脱出できたように、条件付けによっては良い結果をもたらすこともできる。
魔法は使う人間の感情ひとつで、善にも悪にもなるという話だ。
そんな時、別のスタッフがモニターから情報を見つけた。
「はっ!!【タルタロス】内部の通過センサーに、被検体Fのウェアラブルデバイスの通過ログがあります!どうやって……そうか!【ケルベロス】のセキュリティがオフになり、以降【タルタロス】への出入りが自由になっているから…ログによれば、緊急事態発生直後に【タルタロス】の門をくぐったようです」
「しかし、なぜそんなところに?」
「オルトクンが言ってたけど、【タルタロス】ってすごく危険なところ……なんだよね」
「ああ。ファントムが1万体以上収容されている収容所だからね。しかも、今は凍結システムがオフにされている。いつファントムたちが動き出してもおかしくない」
「そんな……グリム……!」
グリムの向かった場所が判明したものの、その場所にスタッフたちも含め重い空気になる。
普段でもそんな所へ気軽に近づくべきではないのに、解凍が進んでいるこの事態に向かうなんて到底考えられないのだから、おそらく正常な判断ができる状態ではないのだろう。
「グリムの居場所がわかってよかったじゃない。しかも【タルタロス】にいるなら都合がいいわ。【冥府】まで降りる途中で、ついでに拾っていくわよ」
「「「!?」」」
「む、無茶だ!そんなの危険すぎる!」
「だって、イデアもオルトもそこにいるんでしょう?アイツらの世界リセット計画を止めたいのなら、危険だろうがなんだろうがそこまで行くしかない」
「………はぁ。確かに、それしか道はないでしょうが……」
「随分と気軽に言ってくれる」
重い空気が漂う中、ヴィルの声色はいつも通り迷いのないものだった。
当たり前かのように提案された内容にスタッフ一同は驚愕する。
すぐさまスタッフの1人が反対したが、そこでもヴィルは凛とした態度で返す。
これにはアズールとジャミルも渋々ながら協力的な姿勢を見せた。
「待ちなさい。君たちはまだ魔法士免許も持っていない学生だろう!?今、この危機的状況に必要なのはアマチュアの魔法士じゃない。プロの魔法機動隊だ。外部からの救援が来るのを待とう!」
「………【タルタロス】に収容されたファントムの凍結が全て溶けきるまで、あとどれくらいだ?」
「ろ、6時間を切っています」
「その間に外部との通信が復旧し、救援がくる見通しは?」
「「「…………………」」」
「救援は望み薄、本部に詰めてるのは非力な研究員が大半。頼みの綱のカローン用パワードアーマーも、魔導デバイスも、オルトに乗っ取られて動かせねぇ。で、もうどうしようもないから「みんなで震えながら奇跡が起きるのをお祈りしましょう」って?冗談じゃないぜ」
改めて反対の意見が飛んできたが、次はレオナが対応した。
レオナの質問に対して返ってきた答えから、待機すらも意味のない可能性が高いということが判明する。
そうなるとヴィルの提案が一番助かる可能性があることが浮き彫りとなった。
「たしかにボクたちはまだ魔法士免許を持たない学生です。しかし、重大事案発生時においての初動処置については学園で訓練を受けています」
「そして……被検体として連行された俺たちは[#da=1#]以外の全員、オーバーブロット経験者だ」
「たしかオーバーブロットとは、”魔力保有量が多く、実力ある魔法士しか陥らない稀な現象”……でしたよね?それはつまり、僕たちが非常に有能な魔法士であることの証明だ。そうでしょう?【S.T.Y.X】の皆さん」
『僕もアマチュアを動かした方がずっとましだと思います』
「そ、それは……!」
リドル、ジャミル、アズール、[#da=1#]の順でヴィルとレオナの意向に続いた。
今のまともな戦力が学生という絶望的状況ではあるものの、たしかに他に方法はない。
最後にルークとエペルも前に出た。
「私は”やれるだけのことはやった”と言うためにここまでやってきた。最悪の事態を回避するために、私たちにはまだやれることがあるはずだ」
「僕も、覚悟はできてます!」
「じゃあ善は急げね。行きましょう——【タルタロス】へ!」
「はい!」
全員がタルタロスへ向かう意思を確認したヴィルは先陣を切った。
それにユウがひと際大きく返事をする。