6章
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ご自身の名前を使う際、ストーリー後半からになりますが
「主人公 名前」「主人公 名前略称」に登録すると読みやすいかと思います。
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『はぁーーーー疲れた………………』
元々施設にいた被検体のテストが終わったことで移動が可能となり、それぞれに与えられた個室に入った。
[#da=1#]は本来なら3時間前にはこの部屋でゆっくりしていたのにと、想定以上の疲労にベッドへ倒れ込んでいた。
あの状況でよく大事にならなかったものだという安堵もあり、大きな溜め息をこれでもかと吐く。
『(ヴィルさんはどうして呼ばれてたんだろう……このあと記憶を改ざんされるなら……そのことも、ここに来たことも…オーバーブロットしたことも……忘れるってことか………”嘆きの島から戻って来た魔法士はいない”………)』
相手の記憶を改ざんし無かったことにする——そのような魔法も無くはない。しかし非常に高度なうえ永続はできず、完全に塗りつぶすなんてことは不可能と言われている。
イデアの言う事はにわかには信じがたいが、現に[#da=1#]は先ほどまで当時のことをショックで倒れて病院に搬送されたと思っていた。
そのときお見舞いで届けられた花がどんなものだったかすら記憶しているが、計測データを見せられてようやく違ったのだと認識した。
嘆きの島にいたことも戻るまでの過程の記憶もなければ、戻って来た者がいないと言われるのも納得できてしまう。
そんな強力な記憶改ざんとなると、立派な装置といえどすぐの運用は難しいはず。
さっさと学園へ戻さず待機させているのは、おそらくその装置の準備が関係しているのだろうと推測した。
『……………あれ?』
ウトウトしながらそんなことを考えているとフッ…と視界が暗くなった。
意識は途切れることなく今もある。つまりこれは寝落ちたわけではなく、部屋が暗転したのだとすぐに察した。その直後に警報のような音も鳴り響く。
[#da=1#]は事態の異変に手放しかけていた意識も一瞬で戻り、ベッドから体を起こした。
輸送機のときのように窓のない完全密室のため、目が慣れることは難しそうだと判断し壁を手で伝いながら扉へと向かった。
『扉はロックがかかったまま………こういうところって停電なんておかしいと思うんだけど、非常用電源でとりあえずの復旧とかないの……?』
扉の取っ手を見つけるも開く様子はない。
他に開けられそうなものを探してみようかと考えがよぎるも、被検体を待機させる部屋にそんなものがあっては脱走される恐れがあるだろう。
そんなリスクを許すとは思えず復旧を待つべきかと考えていると、扉の向こうで何かが溶け落ちる音がした。
[#da=1#]が警戒し距離を取って構えると、間もなく扉が開けられた。
「[#da=1#]、大丈夫?」
『っヴィルさん…!』
そこに立っていたのはヴィルだった。
まさかの人物に、[#da=1#]は歓喜と安堵のあまり声を弾ませ相手の名前を呼ぶ。
しかしそれを聞いたヴィルは眉をしかめ首を傾けた。
「……?アンタ、そんな声だったかしら?」
『ン”ン”ッ…………いえ、自分でもびっくりしました』
「そう…?とにかく、今は緊急事態よ。アンタもこっちへいらっしゃい」
[#da=1#]は認識阻害がない状態にも関わらず、うっかり素を出してしまったことで慌てて誤魔化した。
しかし今はそれどころではない。まずは全員と合流すべきとヴィルは気にすることなく誘導を優先した。
ヴィルの片手には化粧水らしきものがあった。おそらくあれを使って部屋を脱出したのだろう。
[#da=1#]はVDCで呪いの付与された林檎ジュースのことを思い出し、ヴィルのユニーク魔法だと推測した。
「この一番奥の部屋、誰が入ってたんだ?どことなく嗅いだことのある魔力の匂いがするような……」
「わからない。アタシが外に出た時、すでにドアが破壊されていて部屋の主の姿は見えなかった」
「防魔素材が使われたドアを吹き飛ばすとは。かなりの魔法の使い手でしょうね」
『(…………?この魔力………いや……そんなはずないか)』
「他の被検体が俺たちのように理性がある状態とは限らない。警戒しよう」
廊下にはすでに他の被検体たちが待機していた。
レオナの疑問とアズールの言葉に、合流した[#da=1#]はその部屋の方を注視する。
意識して確認したことで魔力痕跡から知った顔がよぎった。
しかしあれだけ派手に防魔素材の扉を吹き飛ばすようなパワーを持っているはずがない、と小さく首を振った。
「脱走した被検体の行方も気になるけれど、それより……」
「ええ。さっきからあたりに漂っている、この瘴気……」
「間違いねぇ。高濃度のブロットだ」
『何度この空気を味わったことかわからないけどやっぱり慣れないな……』
「……まさか、1万体以上のファントムが収容されているという【タルタロス】で問題が?」
「可能性はありますね」
リドルの言葉にアズールも続く。
息苦しく重い圧迫感と不快感。この感覚はここの全員がそれぞれのオーバーブロットに対峙していたため覚えがあった。
[#da=1#]に至っては飽き飽きするほど体感している。
テストの際は全ての部屋を厳重に施錠するほど慎重にファントムを扱うこの施設が、復旧する様子のない停電による音信不通、そしてブロットを漂わせるなんて異常でないはずがない。
「あまり吸い込みすぎるとよくない。チョーカーが外れて魔法が使えるようになってるし、魔法防御力が高い寮服に着替えましょう」
「【S.T.Y.X】に押収されたマジカルペンも召喚できました。こんなにあっさり取り戻せるなんて、なにかが起こっているのは間違いないですね」
ヴィルの提案から全員がそれぞれの寮服に身を包んだ。入学直後では習得できないが、これが使えるようになると一瞬で身に纏えるので非常に便利である。
特に[#da=1#]の所属するオクタヴィネルでは、モストロ・ラウンジでの出勤でも着用するため着る頻度が多く、必然的に着替えの回数が増える。
別の事情も絡んでいる[#da=1#]にとってはかなりありがたい魔法であった。
「…………」
『……?……ぁ』
ふと、[#da=1#]の腕にトントン、と何か当たる感覚があり視線を落とす。
そこには横に立っているレオナの手があった。その手の中に何かがある。
何かと思ったがすぐに理解した。認識阻害の魔法道具だ。
マジカルペンに乗じてレオナはこのアイテムも一緒に召喚していたらしい。
寮服とマジカルペンは学園特有の指定物のため、生徒自身の魔力と連携させるような特殊な条件を設定している。そのため1年生でも入学からある程度経過すると召喚できるようになる。
しかし通常の召喚魔法は未収得だった。
実物を見せていないはずなのにどうして召喚できたのか疑問はよぎったものの、ひとまず待望のアイテムを受け取った。
[#da=1#]は後ろで両手を組んだふりをし、故障せずに無事動いていることを確認した。
「——半径10m範囲内にて、魔力反応を感知。ターミネーションモード起動」
「!!なに!?」
「対象を確認。直ちに排除します」
「[#da=1#]さんは後方で待機してください」
『はい』
突然無機質な声が聞こえ全員が警戒した。
そこにはカローンが数体武器を構えており、こちらもマジカルペンをいつでも使える体勢に入った。
1年生の[#da=1#]には、直属の寮長であるアズールが避難するよう指示した。
相手の防魔対策がされていないか懸念はあるが、こちらの戦力は十分すぎるほどだ。
[#da=1#]は他からの奇襲に警戒しつつ数歩下がった。