6章
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この小説の夢小説設定物語の都合上、略した名前・略さない名前が2つずつあります。
ご自身の名前を使う際、ストーリー後半からになりますが
「主人公 名前」「主人公 名前略称」に登録すると読みやすいかと思います。
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「うまい、うまい!第1ステージのボスまで難なくクリアできたね!」
「プレイしてて気づいたけど……このゲーム、実写映画化されてない?このストーリー。おぼろげだけど、父と一緒に映画館で見た記憶がある」
「マ!?ヴィル氏、実写映画見たの!?」
ヴィルのプレイする〖スター・ローグ〗は、次々と迫りくる敵を打ち落とすというシンプルなルールだ。
敵を倒しつつ、パワーアップさせることができるアイテムも拾っていく。
最後にはステージのボスが登場し、強化した攻撃で倒すとクリアとなるのだ。
どうやらヴィルは、それの映画を見たことがあるらしい。
「映画版は原作ゲームのファンからも評価が高かったけど、原作を知らない一般層にもヒットして、〖スター・ローグ〗の名前を広めるきっかけになったんだ」
「そうそう。映画をきっかけに、ゲームはさらに売上を伸ばし……ついに続編制作決定へ!」
『(へぇ。ヴィルさんとそのお父さんの2人も見た作品なら気になるな)』
〖スター・ローグ〗の作品名くらいなら[#da=1#]も聞いたことがあった。そのため映画が話題になっていたことも記憶しているが、ゲーム未プレイだったことから映画を鑑賞するほどでもなかったのだ。
しかしヴィルの父は広く公言されていないが有名な俳優であり、そんな世界的に有名な2人が見たというのと、一般層からの評価の良さも相まってかなり興味が湧いている。
しかしオルトが「でも……」と肩を落としながらイデアに続いた。
「ゲームの続編制作決定と発表された直後、ゲームの開発チームが仲違いしちゃって」
『仲違い?』
「そう…マジで悲劇ですわ。シナリオライター、キャラクターデザイナー、ゲームプランナー、全員が揉めに揉めてゲーム会社を辞め、散り散りに……」
「制作陣が誰も残らなかったんじゃ、続編を作っても別物になる可能性が高いわね」
「そう。無理に別クリエイターを立ててまで続編を作らなかったゲーム会社のポリシーは評価できる。しかし、〖スター・ローグ〗の続編は永遠に叶わぬ夢となってしまったのであった……」
「その流れで、実写映画の続編も凍結しちゃったみたい」
「いつの日かまた神クリエイターたちが集結し、〖スター・ローグ〗の続編が発表される奇跡を、拙者はずっと夢見てるんでござるよ……。ウッ……」
「あら。夢見てるだけなの?」
「え?」
ゲームも映画も大成功。この勢いでゲームの続編発売も——とはいかなかったらしい。
しかも各部門の主要メンバー全員の仲違いとなると、程度はどうであれ関係修復は絶望的だろう。
そんな中、ヴィルの凛とした声がイデアとオルトに飛んできた。
イデアは思わず顔を上げた。
「そんなに好きなら、アンタが作ればいいじゃない」
「たしかにな。シュラウド家の財をもってすれば、クリエイターにギャラを払って再集結させられるだろ」
「は、はぁ~~~~~!?わかってない!君たち全然わかってないっすわ!拙者は、クリエイターたちが「これは絶対に面白い!」「プレイヤーを楽しませてやるぞ!」っていう熱い気持ちで作った〖スター・ローグ〗の続編がやりたいの!報酬で釣って、イヤイヤ作らせたものになんの価値があるんだよ」
『(本当にその作品が好きなんだなぁ)』
ヴィルの提案に、まだ起きていたらしいレオナが同調する。
それに対しイデアはそんな方法求めていないと強く拒絶した。
[#da=1#]はイデアの作品への思いをぼんやりと聞き、ジャミルは怪訝そうに「そういうものですか?」訊ねる。
「アツくなってるところ悪いけど、アタシはそういう意味で「作れば」って言ったわけじゃないわよ」
「へ?」
「「「『?』」」」
どうやら、ヴィルだけは全員と違う考えを頭に描いていたらしい。
イデアだけでなく、その場の全員が首をかしげる。
全員の反応を見回したヴィルは、小さく息を吐くと訊ねるように提案の詳細を伝えた。
「手始めに散り散りになったクリエイターひとりひとりを訪ねて、アンタの暑苦しい情熱を伝えて回ってみたら?」
「……は?」
「続編を心待ちにしている熱烈なファンがいることを真剣に伝えれば、なにか変わるかもしれない」
「そ、そんなの……過去に何度もファン有志が署名とか寄せ書きとかしてますし……」
「それはアンタじゃなくて他の誰かがやったことでしょう。アンタ自身はなにかアクションを起こしたの?」
「む、無理無理。拙者1人がなにかしたところで、どうにかなるわけないし……」
「最初から無理だって決めつけてなにも行動を起こさなければ、可能性はずっとゼロのままよ。アタシなら、ゼロをゼロのままにしない」
「………………!?」
『…………?』
ヴィルの言う「作る」とは、ただ金で作らせるのではなく、直接声を届けるような行動をしてみろというものだった。
イデア自身がまだ行動していない様子からヴィルはキッパリと言い切った。
その言葉を聞いたオルトが驚愕したように目を見開く。[#da=1#]はオルトの反応に違和感を感じた。
気付いていない様子のヴィルがさらに続けた。
「ゼロにはなにをかけてもゼロのままでしょ?でもなにかアクションを起こせば、0が0.001に変わるかもしれない。〖スター・ローグ〗の主人公だって、ゼロからスタートして、最後はヒーローになる。そうよね?」
「そりゃそうですけど、それは作り話ですし……。現実はそう上手くいかないでしょ。結局ゲームの制作陣だって、志半ばで解散しちゃってるわけだしさ」
「でも……だからこそ、ひっくり返せる未来もあるはず。アタシたち、まだ18歳よ?諦めてエンドマークをつけるには早すぎる」
「で、でも、拙者にはそんなの……」
「無理じゃないよ、兄さん!!」
「へぁっ!?」
0.001は100になれる可能性を秘めている。だったらやらない理由はないというのがヴィルの意見だった。
確かに、やらない後悔よりやって後悔という言葉もある。やれることをやった方が未練は少ないだろう。
しかしイデアは目を泳がせながら後ずさりしようとする。それに対しオルトが突然大きな声で兄の名前を呼んだ。
「学校の友だちを家に呼んで一緒にゲームをするなんて、僕たちには絵空事だってずっと思ってた。でも、こうして実現できたんだもの」
「え、えぇ~?だからさ、今回のは友だちを家に呼ぶのとはちょっと違うでしょ……」
「僕、なんだか自分がやるべきことがすこしだけ見えてきた気がするよ。ありがとう。ヴィル・シェーンハイトさん!」
「?お礼を言われるようなことはなにもしてないけど……アンタがなにかポジティブな気付きを得たんなら、良いことね」
「うん!」
「お、おーい、オルト?拙者の話聞いてる……?」
オルトは嬉しそうに声を弾ませながらヴィルに感謝した。
ヴィルは疑問を感じながらも、スムーズに返答してみせた。さすがファンサービスや取材など数々の対応をしてきただけある。
そんなやり取りを[#da=1#]たちが眺めていると、ゲーム音が突然鳴り響いた。
「——やった!!!!最初のステージをクリアしたぞ!!」
「あっ!リドル・ローズハートさんがイージーモードで〖冥界伝説〗の1面をクリアしたみたい」
「なんと!コントローラーの上ボタンがなんだか分かっていなかったリドル氏が!?」
「それもこれも、ひとえに僕の根気強いアドバイスのおかげですよ。ねえリドルさん?」
「キミは横からあれこれと口を挟んでいただけじゃないか」
音の正体はリドルのプレイしていた〖冥界伝説〗のクリアした音だったらしい。
やけに静かだと思えば、リドルとアズールが部屋の隅で黙々とゲームをしていたからだったようだ。
[#da=1#]は先ほど悔しがっていたリドルだけでなく、自身の寮長であるアズールまで画面から離れていなかったことに少し驚いた。
『寮長もずっと一緒だったんだ……』
「えぇ。それはもう手取り足取りとサポートしていました」
「話を誇張するんじゃない。キミは口出ししていただけだと言っているだろう」
「アンタたち、あれからずっとやり続けてたわけ?ちゃんと休憩は挟んだんでしょうね」
「ゼロを、ゼロのままにしない……そうすれば……ひっくり返せる未来も、ある……か」
『(………オルト……?)』
「家猫、俺は寝るぞ」
『え…あ、はい。それなら自分も……』
リドルとアズールの2人がきっかけで話はひと段落つき、再び各々が次のゲームをしようと行動し始めたあたりでエディシアはオルトの独り言が耳に入った。
オルトに目をやると、彼はどこか遠くを見つめるように一点を見つめている。
先ほどから何か変わった雰囲気に疑問を持ったが、レオナに呼ばれそちらについて行くことにした。
これ以上被検体たちと交流していては違和感を持たれる可能性がある。しかし発言しなさすぎるのも悪目立ちする。それならば寝ることにしてゲームに参加しなければいいということだ。
レオナは本当に寝るつもりだったようでゴロンとソファへ横になり、ほどなくして寝息を立て始めた。
[#da=1#]はソファの隅に座り、もたれかかるようにして目を閉じる。
「ヒトロクマルマル、被検体ROS-859A、SUS-3320Bのテストを全行程終了しました。該当ファントムのケージを凍結、収容完了。館内の全扉のロックを解除します」
「あ、ようやくテストが終わったみたいっすな。ふぅ……やっとこの猛獣だらけの空間から解放される……」
「なんだかんだ、あっという間の3時間だったわね」
「ふぁ~あ……、よく寝た」
『……やっと個室に入れる……』
「2人とも……よくあの騒ぎの中で眠れましたね」
『僕はあまり寝た感じはしなかったですけど、疲れがさらに溜まるよりはましです』
「まぁ、目を瞑っているだけでも違うとは言うか」
「それじゃみなさん、各自個室に戻ってクダサイ。明日朝8時には、学園へ向けて出発する予定なんで……。それまで大人しくしといて」
しばらくするとテスト終了のアナウンスが流れ、それぞれが伸びたり溜め息を吐いた。
あれから[#da=1#]は、何が起きるかわからない上にそもそも寝られるほど静かな環境でもなく、目は閉じていても意識はずっとあった。
しかし近くにレオナがいたこともあり、わざわざ昼寝している人物にちょっかいかけようということにはならずにやり過ごせたようだ。
スタッフ数人が部屋に集まると、イデアの指示のもとそれぞれに割り当てられた個室へと案内されることとなった。
「……あ、そうだ。ヴィル氏、ちょっと話があるから残ってくれる?」
「アタシにだけ?かまわないけど……」
『………』
退室間際、イデアがヴィルを呼び止めている様子を[#da=1#]が気付いた。
先ほどの魔法のテストで彼に何か異常でもあったのだろうか、などと考えながら[#da=1#]はスタッフについて行き個室へと移動した。