6章
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この小説の夢小説設定物語の都合上、略した名前・略さない名前が2つずつあります。
ご自身の名前を使う際、ストーリー後半からになりますが
「主人公 名前」「主人公 名前略称」に登録すると読みやすいかと思います。
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『……………』
「あ、起きた」
『……おはようございます』
ブロットを取り込み眠りに落ちていた[#da=1#]が目を覚ました。
イデアいわく、あれから数十分経過していたそうだ。
[#da=1#]が目を覚ました後のバイタルも異常がないことを確認したイデアは、一度別室に移動するよう案内した。
『……忙しいはずなのに、わざわざ所長代理のあなたが案内してくれるというのは、何か話でもあるんですか?』
「ちょっと待って………うん。ちゃんとカメラも止まってるね。いや、ちょっと驚くことがあったからさ」
[#da=1#]を小さな会議室のような部屋に案内したイデアは、監視カメラで音声と映像の記録を一時停止させたことを確認すると[#da=1#]に向き直った。
驚くこととは何かと[#da=1#]が訊ねると、イデアは一つの画面を見せた。
『………え……?これ……』
「君のデータ。今日のじゃなくてね。第2テストで呼ばれてた[#da=4#]って名前でもしかしてって思って検索してみたんだ。そしたらビンゴ」
イデアの提示した画面には自身が映っていた。
現在よりもやつれており髪も長いので印象は違うが、表示されている名前も写真もたしかに白猫自身だというのがわかる。
データには検査した日時、今日と同じ内容の第1テスト第2テストを行った結果、施設に来た経緯などが記されている。
「そういえば父さんが、僕と歳の近い学生の女の子が被検体としてやって来たって連絡してきてたなって思い出したんだよね。僕らくらいの年齢の被検体ってあんまり来ないから。いやー、まさか君までオーバーブロット経験者だったとはね~!ナイトレイブンカレッジ入学前とはいえ、ここまで頻発しすぎて逆に笑えてきましたわ」
『…………そしたら……たまに頭の中に流れる映像は………本物……?』
「…映像?」
どうやらイデアは、珍しいことだからと【S.T.Y.X】の現所長である父から世間話として白猫のことを聞かされたことがあったらしい。
その際にファミーユという姓も聞いており、先ほどのテストで思い出したとのことだった。
白猫自身は思い当たる節はあった。リドルとは知り合う前で暴走状態を視認していないが、レオナ以降はオーバーブロットの姿を見るたび身に覚えのない映像が流れていた点だ。
その映像の視界には黒いインクのようなものや、大きな黒い生き物のようなものがたびたび映っていた。映像の内容や流れるタイミングから、回数を重ねるたびにもしかして……と白猫は考えることがあったのだ。
「……いや、ないない!さすがにありえないよ」
『どうしてそう言い切れるんですか?』
「だって検査を終えた被検体や関係者たちの記憶を改ざんしているから。その証拠に今日のテストも施設のことも完全初見に感じたでしょ?」
白猫がイデアに何度か流れる映像のことを説明した。
しかしそれを聞いたイデアは真っ向から否定する。
なんと、ただの目撃者である一般市民にも【S.T.Y.X】に関する情報を残さないために記憶を改ざんしていたのだそうだ。そこであれだけ派手に侵入や戦闘をしていたのに誰も【S.T.Y.X】のことを知らない理由が判明した。
「その記録にもあるけど、君の場合はオーバーブロットごと記憶を塗り替えてる。それなのに記憶が断片的でも残ってるのはこっちの設定ミスくらいしか考えられないけど……」
『……[#da=2#]が見せていたのかな……』
「え?」
『いえ、なんでもありません。設定ってどうやって改ざんしてるんですか?』
VDCでの身に覚えのない守備範囲外の作曲箇所、輸送機内での夢、記憶にない自身に起きた映像。
全て偶然もありえるが、実は兄がずっと近くにいたのではないかという思考が白猫によぎった。それが真実なら兄は記憶の改ざんを施す対象から外れており、実体がない状態で片割れのオーバーブロットする前後を見て記憶していたことになるからだ。
しかしすぐにその考えを捨て、聞き返したイデアに記憶の改ざん方法について訊ねた。
大人数にそれこそ魔法のようなことを、彼は設定と言っていたのが白猫には気になっていた。
「”レテの河”っていう、先祖代々受け継がれたそれはそれはありがたい装置があるんすわ。レテの河を通れば別の記憶として上書きされるわけ」
『……【S.T.Y.X】に関することなら、今日のことも忘れて帰るんですね。だから施設の大切なデータや記憶改ざんについて、いろいろと開示してくれていると』
「どうせなかったことになるからね。まさか【S.T.Y.X】に被検体として2回も来る島外の人間なんて聞いたことがなかったから、ついテンション上がっちゃってさ」
イデアの説明からして、随分と立派な装置があるようだ。
通常はわざわざここまで話す必要がないが、白猫というイレギュラーの存在と、まさかの全員オーバーブロット経験者という事実に一周まわって面白くなってしまった結果、現在に至るらしい。
「それにしても、さっきの人は君の家族?こんな無茶なことしてるのってもしかして……」
『……あんなの見せていい性格してますよね。…あれは兄です。本来入学するのは彼でした。自分の馬鹿な行動のせいで兄の人生を奪ってしまった……なので自分の人生を対価にすると決めたんです。入学式ではあんなに双子でよかったと思う日が来るとは思わなかったですよ。けっこう似てたでしょう?』
「………………。………君もか………」
『”も”……って?』
「いや……なんでもない。君の場合魔力が豊富な方ではないから、感情面の負荷が振り切ったんでしょうな」
イデアは、白猫が自身を偽ってまで学園に入学した経緯を改めて訊ねた。
自分のせいで”きょうだい”が人生を歩めなくなったと聞き目を見開く。
そんなイデアの言葉に白猫は違和感を持ったが、顔をそむけられてしまった。
基本オーバーブロットするのは、負の感情も含まれることもあるが、魔力の使い過ぎによりブロットが許容量を超えてしまうことが多い。
[#da=1#]の場合はその割合が逆転していたことで、魔力が少なくてもオーバーブロットしてしまったのだろうということだった。
「そうそう、」とイデアはさらに別の話題を持ち出した。
「それとこの後なんだけど、[#da=1#]氏……いや[#da=3#]氏?」
『前者で通してください』
「じゃあ[#da=1#]氏で………[#da=1#]氏は今認識阻害が使えない状態でしょ。個室で待機してもらおうとは思うんだけど、そのためには一度さっき集まった会議室を通過しないといけなくって」
なんでも、最終的には全員個室で待機する流れにはなっているが、構造上、被検体たちが会議室で顔を合わせることになってしまうらしい。おそらく管理のしやすさ、脱走防止といったことからだろう。
長時間彼らと一緒ではないのなら、と[#da=1#]は了承した。
「そしたらスタッフにさっきの会議室まで案内させるから」
『わかりました』
イデアの事前の情報によって[#da=1#]は心の準備をしておくことができたが、このあと起こる出来事は2人とも予想できていなかった。