6章

お名前編集はこちら

この小説の夢小説設定
物語の都合上、略した名前・略さない名前が2つずつあります。

ご自身の名前を使う際、ストーリー後半からになりますが
「主人公 名前」「主人公 名前略称」に登録すると読みやすいかと思います。
学園での名前
学園での名前 略称
主人公 名前
主人公 名前 略称

「あとでまた呼ぶから、ゆっくり休んでね」
『……わかった』


全員と同じ第1テスト、第2テストを終えたエディシアは、オルトの案内でヒーリングルームへと移動した。
オルトを見送り1人になると、ベッドに座り先ほどのことを振り返った。
頭ではわかっていてもやはりショックなものはショックだ。


『………夢以外でもあんなことを言われる日が来るなんて』


ベッドに横になってみてもグルグルと頭の中を先ほどの事が駆け巡った。
そして同時に当時のことも記憶が掘り起こされる。



———————



「お前さ……加減できないならやめなよ」
『は?私は君のために身を呈したんだよ。否定するようなこと言わないで』


ある日の輝石の国。
そこに2人の白猫が並んで歩いていた。
パッと見はそっくりだが1人は少年、もう1人は少女の特徴を有している。
少年は兄のエディシア・ファミーユ。少女は妹のマリシア・ファミーユ。双子の兄妹だ。


兄の陰口を言っていた生徒にマリシアが激怒し、彼女がその生徒と殴る蹴るの喧嘩になってしまったのだ。
しかし彼女は身を守るために戦う技術をかじっていたため、そういった体術経験の無い生徒との喧嘩は一方的なものとなった。
それを偶然見かけたエディシアが彼女を止め、どうにか2人で帰宅しているというわけだ。


『だってあいつら、エドのことを「喧嘩するくせに良い奴ぶる半端者」なんて言ってたんだよ?喧嘩の強さがステータスと思ってるあいつらの方が浅くて半端だよ。あんなのあいつら自慢の喧嘩で逆にねじ伏せてしまえばいい』
「落ち着きなよ。本来は自衛のためなんだからさ、そういうのは僕に伝えて女の子の君が変に突っ込むなって」
『……は?』


妹の感情の高まりが収まりきっていないようで、それを兄が諌めた。
ただそれを良い意味で捉えられなかった妹はその言葉にまた苛立ちを見せた。


『私だってママやおばあちゃんみたいに素敵なレディになりたいし、物語の王子様みたいな素敵な人と結婚できるような女の子にもなりたいよ。でも家族が悪く言われて黙ってるのは嫌だから頑張ったのに!』
「だから僕に伝えてくれたら自分でなんとかするって言ってんじゃん!マリーは頭いいのになんで一旦立ち止まるってことできないの!?だからおてんばから抜け出せないんだよ!勇気と無謀履き違えんな!」


兄はたびたび同じミドルスクールの生徒や、はたまた年上とも喧嘩をして怪我を作ることがあった。
元々自由人だった父への憧れから上品な暮らしに飽きて刺激を求めたのもあったが、妹を「不当な取引を持ち掛ける性悪だ」と陰口を叩いたり、手を出そうとする輩から遠ざけるためにあえて喧嘩していたことの方が多い。

そして家に迷惑がかからないよう、正当防衛を成立させるために相手に攻撃をさせてから、尚且つ病院送りにさせないようある程度の加減をして対処していたのだ。
兄からすると、荒事に慣れていた自身を頼ってくれなかったこと、結果的には経験者で一方的だったとはいえ妹が危険に晒されたこと、家に迷惑がかかるのではないかという考えから、妹の兄のためにした行動を許せなかった。
そうして2人の口論はヒートアップしていき、ついにはマリシアがちょうど歩いていた橋の手すりにのぼって立ち上がってしまった。
それを見た兄は目を見開き大声をあげる。


「何やってんだよ!?危ないだろ!」
『勇気と無謀の違いなんてわかってるよ。でも勇気のない意気地なしなエドにはこれが無謀に見えるかもね。生まれたのが私より数秒早いからって、魔力が私より多いからって何様だよ!私だって男だったらエドと同じナイトレイブンカレッジに呼ばれてたし!』
「今はその話してねぇよバカ!」
「き、君!危ないから降りなさい!」


マリシアの行動と2人が喧嘩している様子を見かねた通行人が声をかけるも、彼女はそのまま橋の手すりの上を歩きだしてしまった。
猫の獣人ゆえにバランス感覚には自信があったからだ。


『そこの白猫がちゃんと私に感謝と謝罪をしたら降りてあげる。ありがとうって先に言ってくれてたらまだ意見に納得できたかもしれないの、に…』
マリー!!」


手すりの上を歩いていたマリシアは足を踏み外し橋の外に放り出されてしまった。
落下先には輝石の国に流れる大きな川がある。昨日雨が降っていたばかりなのもあり川の水位や水流も増えていた。
2人の口論と妹の行動から人が集まりつつあったため、一瞬にして姿を消したその場は騒然とした。
すかさず兄が帽子と羽織っていたパーカーを脱ぎ捨て川に飛び込む。


マリーマリー!!」
『ゴボッ……』
「ゲホッ、くそ……!」


マリシアは川に流されながらも懸命にもがき、どうにか顔を出していた。
兄は妹ほどではないが同様に泳ぎが苦手であり、的を狙うような器用な魔法を使うことも得意ではないので、魔法を使おうにも妹への狙いが定まらずにいた。そういった繊細な魔法は妹の担当なのだが、彼女は溺れないように両手を動かすので精一杯だった。


「こんの……!!」
『……!』
「う、ぐ……!ゴボボッ」


兄が持ち前の魔力量で、風魔法を妹の周辺一帯に思い切りぶつけ吹き飛ばし、大きな水しぶきと共に妹は陸に打ち上げられた。
しかし魔法石無しで大量に魔力を使った兄は、ブロットが急激に大きく溜まり水中に沈んでいった。
追いかけていた通行人たちがマリシアに駆け寄る。


『ゲホッ、ゲホ……』
「大丈夫かい!?」
「誰か、この子に上着を!」
「もう1人はどうした!?」
「救急隊はまだか!」
『……エド……』


呼吸ができるようになったマリシアは、周囲の声で魔法を使った兄がその場にいないことに気づき川に目をやる。
しかしとっくに見える範囲に兄の姿は無かった。


「少年はどこだ!」
「まだそう遠くまで流されてないはずだ!探せ!」
エド…!』
「あとは大人に任せて自分の安全に集中なさい。こんなに冷えてしまって…」


マリシアの傍についた女性が上着をかけ安静にしているよう宥めた。
双子のことを知っていた目撃者から連絡を受けた父がマリシアの元に駆けつけた頃、捜索隊から少年を見つけたと報告が入った。
岩間に引っかかっていたらしく、流れのわりには遠くまで流されていなかった。


「引き上げるぞ!」
「…………だめだ、息をしていない!」
『あ……ああぁ…』
マリー…今は離れていなさい。見てはいけない」
『嫌だ…!エド……目を覚まして……!ごめん…ごめんなさい……』


マリシアも呼び掛けに加わり、何度も兄の名前を呼んだ。
時間が経過しているため蘇生はその場で行われたが、片割れが呼吸を始めることは無かった。
そして生存率が見込めないとされる時間が経過したことで、蘇生も中断されることとなった。

……あっという間だった。救急隊が言うには、溺れれば数十秒で意識が無くなり、数分経つと後遺症のリスクが、さらに数分経つと生存率が大幅に下がるとのことだ。
妹は陸の生き物は酸素が吸えなければここまで呆気ないのか、と兄の前で膝を崩した。


『私のせいだ……どうしてあんな馬鹿なこと……私のせい……喧嘩も、口論も……全部全部……!』
「……マリー…やめてくれ…自分を責めないでくれ……」
『…!そうだ……私は魔法が使える……普通の蘇生がダメでも魔法ならなんとかなるかもしれない……』
「グスッ……マリー……魔法でもできないこともあるんだよ」
『パパもみんなも言ってたでしょ?魔法はイマジネーションって。イメージ……生意気だけど仲間のためなら平気で怪我を作ってくる、馬鹿で自慢の私の片割れ……こんなことで終わっちゃいけないんだよ……ナイトレイブンカレッジに入れるって楽しみにしてたんだから……』


つい先ほどまではあんなに元気に口論していたのに。
それが自身のせいでこんなことになってしまったのが受け入れられずにいた。
妹は受け入れられないことから目の前の動かない兄に手を当て、どうにか魔法を使おうとし始めた。
それを父は涙を流しながら彼女を抱きしめ、さらに腕に手を置き諦めるよう促す。


「……お父さん、お嬢さんが……!」
「なんだこれは!?」
「……!?マリー、もうやめなさい!」
『何言ってるの…?今いいところなんだよ。なんだか自分の魔力も上がってる気がする……いける……これならいけるよパパ!アハハ……すごい!やっぱり魔法ってすごいなぁ!なんでも治せちゃうんだから!待っててねエド。私が、全部治してあげる!』


妹の行動をいたたまれない思いで見ていた救急隊員たちは、彼女から何かが溢れ出ているのに気づいた。
明らかにいつもと様子の違う娘に父は一瞬離れたが、今手放してはいけないと咄嗟に思い先ほどよりも強く抱きしめた。


そこからの記憶はマリシアに残っていない。
22/43ページ
スキ