6章
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この小説の夢小説設定物語の都合上、略した名前・略さない名前が2つずつあります。
ご自身の名前を使う際、ストーリー後半からになりますが
「主人公 名前」「主人公 名前略称」に登録すると読みやすいかと思います。
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「……ゼェ…ハァ……これで……いい、かな……」
『ありがとうございます……うん……?』
息絶え絶えでイデアが持ってきたのはただの布ではない様子だった。
とても薄く柔らかく軽いが、光沢がある。
まるで薄く伸ばした質量のない鉄のようだ。
「これはオルトや他の魔導機器にも使われている装甲だよ。薄くて頑丈!そして絹のように柔らかいから凹凸だろうとコーティングできちゃう優れモノ!もちろん人体に影響がないから選出して来ました!」
『……ふーん……?』
布のような鉄ということらしい。
鉄とは思えない不思議な質感に[#da=1#]が感心している横で、イデアは大きな独り言を言いながら自身に酔いしれている様子だ。
「いやぁ~滞りなく検査を進めるためにも最適なものを最短で思いつくとは、やはり拙者天才だな~!他人の健康被害まで考えての結果だから本当に素晴らしい!フヒヒ!」
『あの、試しみたいんですけど?』
「え?……あっ、あー!そうね!だからこれを渡したんだものね!扉の前で待ってるんで!」
[#da=1#]が自画自賛するイデアに声をかけると、彼はハッとしわたわたしだした。
そして「何かあれば呼んで!」と言い残しまたバタバタと部屋から出ていった。布を渡してからここまで確実に本題を忘れていただろう。
「……あ、ど、どうだった……?大丈夫…?」
『いい感じです。これで1日もてば完璧ですね。でもやっぱり蒸れたり怪我をしないかが心配……本当に大丈夫なんですか?装甲なんでしょう?』
「特殊な塗料を混ぜてあるから、それがサビや鉄アレルギーから守る役割をしてくれるんだよ。僕もテストで1日腹に巻いて過ごしたことがあるけど何ともなかったから安心して。………あ!もちろんそのときのと今君が持ってるのは違う物だから!」
『……もし何か起きたら治療費、慰謝料請求しますね』
試しに装着してみると、本当の布のようにぴったりと巻き付けることに成功した。
巻き付けた状態で軽く体を動かしても不快感などは感じられない。
イデア自身でも問題なかったということで[#da=1#]は了承し、そのまま他の被検体たちの待つ部屋へ案内してもらうことになった。
目的の部屋に到着するころには、今後の検査について軽く共有も完了しいざ入室する。
そこには見慣れた顔ぶれが、全員同じ服を身に纏っていた。
「……ようやく来たか…。全く、ボクらをどれだけ待たせるつもりだい?」
『不手際で着替えが用意されていなかったんですよ。いやぁ寒かったなぁ』
「…すんませんっした……」
以後は【S.T.Y.X】の説明として安い紹介動画を見せられ、人間が文字を粘土板に掘るほどの昔からブロットの研究をしているというものだった。
概要を知った上で、改めてどういった実験を行うのかという話になる。
オルトが言うには、オーバーブロットしたがファントムに取り込まれずに”戻れた”貴重な存在だから、データ収集に協力してほしいと言う事だった。
聞き慣れない単語にヴィルは聞き返した。
「ファントム?」
「……オーバーブロットすると、体内に蓄積しきれず溢れ出したブロットが巨大な化身を形作る。君らも見ただろ?自分の背後に現れた”顔のない怪物”を」
「「「「「…………」」」」」
イデアの説明に[#da=1#]以外の被検体たちは黙り込んだ。どうやら我を忘れていたものの、記憶にはあるようだ。
【S.T.Y.X】はあの化身のことをファントムと呼んでいるらしい。
「オーバーブロットした時、自分の限界魔力量以上の魔法を使えたでしょ。なんでだかわかる?あの化身……ファントムは、術者の負の感情がたっぷり詰まったブロットをエネルギー源としてるからだ」
「「「「「『!!!』」」」」」
イデアの説明によると、ブロットは魔法を使うと発生する有害物質。通常、魔法士にマイナス効果しか与えないものである。しかしオーバーブロット状態の時は、ブロットのマイナス効果がプラス効果に反転するというのだ。
「だからオーバーブロットした魔法士は本能的に魔力をガンガン消費して、ブロットを精製し続ける。それを吸い上げて、ファントムもどんどんATKアップする。……で、最終的に魔法士の魔力が底をついたら……苗床としての役目はおしまい」
「な、苗床って……?」
「言葉のまんまだよ。ジュースがカラになった瓶は、ゴミ箱へ。術者本体は消滅し、欲望と負の感情にとらわれた怪物だけが残る。未練がましく呪詛を吐きながら、この世を彷徨う怪物……だから亡霊」
『(先輩たちは想像以上にまずい状態だったということか……)』
イデアの苗床という呼び方にリドルは恐る恐る尋ねる。
全員が文脈から予想していた通り、苗床とはオーバーブロットした術者本人。その術者に魔法をどんどん使わせ、ファントムは自身の栄養としているのだそうだ。
そして苗床の術者が消滅し残ったファントムは、マジカルフォースに討伐されるか、捕縛され検体として【S.T.Y.X】に収容されるかの二択がだいたいの結末らしい。ごく稀に、魔獣や野生動物なんかに紛れて山奥に隠れ住むこともあるようだ。
「オーバーブロットし、魔力を放出しきれば命を失うと聞いていたが……」
「あの怪物だけがこの世に残るだなんて。……にわかには信じたくない話ですね……」
「ま……ファントムにまでなっちゃうケースはそこまで多くない。そもそも、本来オーバーブロット自体が、魔力の保有量が多くて実力ある魔法士じゃないと陥らない現象だからね」
ジャミルとアズールは口元に手を当てながらこぼした。
しかしファントム化以前にオーバーブロットするケースが少ない。学園長も滅多にないと話していたのを[#da=1#]は思い出した。
そこでイデアはニタリと笑みを作り「というか」と言葉を続けた。
「実力ある魔法士って、思慮深くて自分を律せるタイプがほとんどなわけじゃないですか?なのに、この短期間にこれだけの人数が同じ学園内でオーバーブロットって……うちの学園、SSR〖前代未聞の問題児〗のカードが連続で実装されすぎ草って感じですわ。フヒヒッ」
『(自分がここの権力者だからって楽しそうに煽ってるな…)』
「………お前は本当に、人の神経を逆撫でする喋りの天才だな」
「では僕たちを被検体として連行するよう【S.T.Y.X】に命じたのはイデアさんなんですか?」
「それは……」
「——【S.T.Y.X】所員がその情報を部外者に開示することは禁じられているよ。ただ、各国に派遣されている【S.T.Y.X】のエージェント以外にも、情報提供者は世界中にいる……とだけ」
イデアの話し方にレオナは眉間に皺を寄せた。
アズールは同じ部活なだけあって耐性があるのか、イデアの煽りに構わず別の角度の質問を投げかけた。
それについてはオルトが代わりに答えた。どうやら今回は、その世界中に散らばる情報提供者からの連絡を元に連行することになったようだ。