6章
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この小説の夢小説設定物語の都合上、略した名前・略さない名前が2つずつあります。
ご自身の名前を使う際、ストーリー後半からになりますが
「主人公 名前」「主人公 名前略称」に登録すると読みやすいかと思います。
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「VDCで優勝できなかったのは、アタシのせい。本当に、リーダー失格よ」
「「「『…………………』」」」
「………ヴィル先輩の仰りたいことはわかります」
[#da=1#]だけでなく、その場の全員が返す言葉を見つけられず沈黙となる。
その中、ジャミルがどうにか口を開いた。
「しかし、VDCの練習中にも話題に上がりましたが…大会当日のパフォーマンスの出来以前に、ネージュたちの世間からの好感度は相当なものです。好感度というものは、努力や実力では埋めがたいものですから」
「ジャミルの言う通りだ。だから、そんなにヴィルばっかが責任感じる必要ねぇって!」
「そうね。……でも、ネージュたちにはネージュたちなりの努力や苦労がなかったわけじゃないはず」
たとえこちらが”万全”な状態だったとして、ステージで”全力”が出せたとは限らない。そして、”万全”な状態での”全力”を出せても、優勝できたかそうかはわからない。これがジャミルの意見だった。
そこにはヴィルも含む全員が納得した。
しかし苦労があったのは自分たちだけではない、という話にメンバーたちはまた固まった。
「アタシも彼らのパフォーマンスを見た瞬間、動揺して強い否定の言葉を使ってしまったけど……大衆性をそなえた万人を摂り込む努力と、技術を研鑽し万人を圧倒する努力は、どちらも等しく”努力”。アタシたちと彼らは、努力の方向が違っただけ。そもそも、ネージュたちがどんな”努力”をしたか……アンタたちは知らないでしょう?」
「えっ?どういうことですか……?」
『よくいつまでも愛想振りまいていられるなとは思いましたが……それも?』
ヴィルの意味深な言葉にエペルは目を丸くし尋ねた。
その後に続いた[#da=1#]に、ヴィルはそうかもしれないと頷いた。
元々の性格ゆえも考えられるが、彼が陰口を言っている姿を見たことも聞いたこともないらしい。
するとヴィルは、最初にネージュと共演したときのことを話し始めた。
「ネージュはいつも「家の掃除をしなくちゃ」と言って残ってレッスンをするアタシより先に帰った。アタシはそれが腹立たしくて仕方がなかった……彼が、才能に甘えた人間だと思えたから。でもあるとき知ったの。ネージュは、VDCに一緒に出演していたドワーフたちと一緒に暮らしていたそうよ。子役としてアタシと出会う前からずっと、彼らだけで肩を寄せ合い、支え合いながら」
「えっ、子役時代からずっとあのメンツで……ですか?」
「ええ。詳しい事情は知らないけれどね」
なんと、ネージュは幼いころから家のことをしながら仕事を両立していたのだそう。
家事をして、レッスンに通い、そしてまた家事をして、合間を縫って家で練習をする——。そんな朝から夜まで気が休まらず、練習の時間も限られた中でこなさなければならない過酷な日々を長年続けてきたというのだ。
「…でもネージュは腐らず、いつも明るく口笛を吹くような調子で「おはようございます」と挨拶をしていた。それがどれだけ大変なことか、アタシにはわからないわ。だって経験したことがないもの」
「うっ。それは……」
「つい同情してしまうかもしれない……」
「そしてネージュは自らの経歴について、メディアで一切語ったことはない。でも、ルークはこの話……知っていたんでしょう?」
「…ああ」
ネージュの隠れた努力を知ったエペルとユウは下を向いた。
しかしルークはそのことを知っていたようだ。
ルークは静かにゆっくりと、ネージュのことを思い出すように話し始めた。
「白雪の君の一番の魅力は、あの愛らしい笑顔。……だがそれは、数々の苦難を乗り越えてのもの。だからこそ、人々はあの笑顔に魅了されるんだろう。そして、彼はギャランティのほとんどをボランティア団体に寄付しているとも言われている」
『ギャラを寄付?』
「えー…まじ?」
「……よくそこまで知っていたわね。それも一般公開はされていない情報のはずだけれど」
「コアなファンの間では、有名な話さ」
「そう…。VDCの優勝賞金も、全額寄付されたと人づてに聞いたわ。世界中の、未来ある子どもたちのためにね」
ネージュは長年苦労を続けながらも、その報酬を必要最低限しか受け取っていないのだという。思わず[#da=1#]とエースが呟いた。
今回も例外なく寄付されたこととその目的を知ったカリムは「アイツらに、そんな事情があったなんて……」と呆然としている。
談話室は再び静まり返り、重い空気になった。
「……………はぁ。ほら、ごらんなさい。もしVDC以前にネージュの生い立ちを知っていたら…アンタたちはステージ上で全力で戦い、自分のチームに投票できた?同情というフィルターを通さず、ネージュたちのパフォーマンスだけを評価できた?」
「……他のメンバーはさておき、カリムには無理だったでしょうね」
「いや、そんなことは……う、うう。わかんねぇ……」
『うん。カリム先輩の性格だと難しいんじゃないかな』
「ええぇ……お前ら決めつけるの早くないか?」
「『だって無理だろう(でしょ?)』」
「う……」
お通夜のような顔をしているカリムを見たジャミルは、この中で一番無理だということをあげた。それに[#da=1#]も続いたことでカリムは対抗したが、2人にバッサリと言われてしまった。
「オレは気にせず自分に投票できたけどね。だってVDCは過去の苦労のデカさを比べる大会じゃなくて、パフォーマンスを競う大会でしょ?」
「そう。アンタはよくわかってるわね」
「え?」
「アタシも、アンタたちも、そしてネージュも、舞台に立つ全員が、それぞれの物語を背負っている。だからこそ舞台は……エンターテインメントの世界は結果こそが全て」
エースは一貫して同情することはないと言い切ってみせた。
実際彼の言う事は合っている。様々な経験が舞台で演じる際に深みを出すという意味では、苦労の大きさも貴重な調味料となる。
しかしあくまでも調味料程度。それがメインとなってしまってはまともな評価にならなくなってしまう。
「NRCトライブはロイヤルソードアカデミーにパフォーマンスをで負けた。ただそれだけの話。そしてその”結果”に影響を与えたアタシの罪は、計り知れないと思ってる。だから、償わせてほしい」
「償いって……?」
『でも、もう充分反省してるし…』
「VDCのメンバー募集のポスターに書いてあったこと、覚えてる?」
改めて本題に戻った。どうしてもヴィルはケジメをつけたいようだ。
ポスターの内容のことを聞かれ、プロデビューのチャンスありということ、賞金500万マドルをメンバーに山分けすることをエースとデュースが答えた。
「そう。その煽り文句でメンバーを募集した。だから、アタシのせいで逃した優勝賞金500万マドルを……アタシが払わせてもらう」
「「「『ええええええええ~~~~~~~!!!』」」」
なんと、ヴィル自らのポケットマネーで金額の山分けをさせてほしいという話だった。
ただの謝罪で終わると思っていたメンバーたちから驚愕の声がオンボロ寮に響き渡った。
今日だけでも驚愕で叫ぶのは何度目だろうか。