6章
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この小説の夢小説設定物語の都合上、略した名前・略さない名前が2つずつあります。
ご自身の名前を使う際、ストーリー後半からになりますが
「主人公 名前」「主人公 名前略称」に登録すると読みやすいかと思います。
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『ブロットの結晶……』
「前にも説明しましたが……オーバーブロットとは、術者の体に蓄積しきれなくなったブロットがあふれ出して起こる現象です」
学園長の説明によると、ブロットは魔法を使用すると発生する廃棄物。強い毒素と、淀んだ魔力を含んでいる。そしてそれは、術者の強い負の感情を具現化したかのような巨大な化身を形作るのだそうだ。
「オーバーブロット状態を落ち着かせるためには……あの化身をなんとかして本人から引き剝がさないとダメなんだよね」
「ああ。今まで僕たちが遭遇した事件では、主に[#da=2#]のユニーク魔法でそうやって正気に戻してきたな」
『今回だとデュースがその役割だったね。おかげで魔法を使わずに済んだ』
「……ええ。オーバーブロット状態を解消するためには、化身と対象者の魔法的連結を断ち切るしかない。消失の際、化身内で凝縮されたブロットが、結晶化したという例があるそうです」
「ブロットが、結晶化?」
エースが聞き返した。
魔法石は地中や空気中に流れる魔力がなんらかの要因で結晶化したもの。
そのため、魔力の澱であるブロットが結晶化しても不思議ではないということだった。
「とはいえ、私も現物を見たことはありません。まずオーバーブロット自体が極めて稀な現象なので……しかし、ううむ」
「”極めて稀”にもう何度遭遇したか……」
『本当に…稀な現象なのか疑わしいくらい』
相当な年月学園長をしている彼ですら実際の黒い石を見たことがないというほどなら、本当にオーバーブロットは稀なのかもしれない。
たしかに稀でないとしたら、様々な分野の仕事で魔法士が重宝されるようなこの時代は来ていないはずだ。
しかしユウも[#da=1#]も、何度も遭遇しては対処している現状に”オーバーブロットは極めて稀”という言葉に違和感を覚える。
「つまり…ブロットは少しでも身体に悪影響なのに、それをさらに凝縮したのが”黒い石”……ってことだよね?」
「ええ」
「そんなもん何個も食ってたとしたら、なにも影響がないわけなくね?」
「じゃあ、グリムはその石を食べた影響で凶暴に……?」
『理屈で考えればありえなくはないな』
「そんな……取り上げてでももっと厳しくするべきだった……」
エースの投げかけた疑問をきっかけに、グリムを凶暴化させた原因がいかに危険なものか整理がついてきた。
グリムの体内で起きている問題が想像以上にまずいのではと、監督生であるユウは怪我した手をさわりながら俯いた。
「……すべては憶測です。そして、グリムくんは我々と意思疎通できるといっても、やはり魔獣だ。ユウくんを攻撃してきた凶暴な姿が、彼の本性である可能性もある。明日も引き続き総合文化祭が開催されます。他者に危害を加える危険なモンスターを野放しにしておくわけにはいきません」
「危険なモンスターって!グリムですよ!?」
「私だってグリムくんを疑いたくはありません。モンスターとはいえ、彼を信じて学園に迎え入れたんですから。しかし……彼の状態によっては、もうこの学園にはいられなくなるでしょう」
学園長のグリムに対する言葉にデュースは声を荒げた。
入学してから今まで行動を共にしてきたのだ。いい気がしないのも無理はない。
しかし魔獣が人間に危害を加えたと聞けば第三者、それも生徒や文化祭に訪れる一般人を守る立場の教師がグリムを敵とみなすのはもっともな考え方である。
「え、それって……」
「とにかく。すぐに教員と寮長を集め、一刻も早くグリムくんを捕獲しなくては」
「そ、そんな!」
『グリムを傷つけるようなことしないですよね?』
「もちろん仮にも我が校の生徒ですから、手荒なことは避けたいと考えていますよ。私はこれで失礼します。ユウくんはしっかり戸締りすること。ハーツラビュルの2人とオクタヴィネルの君は、寮に戻るように!」
エースが聞き返す間もなく学園長は退室しようと背を向ける。
[#da=1#]の質問に答えはしたものの、濁した言い方に確証の無さを感じさせる。
学園長はグリムとは別のことにも意識が向いているようで、ポツリと呟いた。
「……そろそろ”彼ら”が動き出す頃かもしれませんね」
「え?」
「いえなんでも。ああ、忙しい忙しい……」
『(……”彼ら”……?)』
エースたちは聞き取れなかったが、[#da=1#]の大きな耳は逃さなかった。
聞き取った言葉に耳をピクリとそばたてる。
学園長はとくに何か説明するでもなく、そそくさとオンボロ寮から退室した。
再度オンボロ寮の談話室にはユウ、エース、デュース、[#da=1#]の4人になり顔を見合わせた。
「状態によっちゃ学園にいられなくなるって……グリムが、危険なモンスターとして退治されちゃうかもってこと?」
『捕獲って言ってたから考えたくはないけど……最悪な場合として想定の1つに入れておいた方がいいかも』
「グリムに限って……いや、確かに意地汚いし我慢はきかないし自分勝手なところはある。でも理由なくユウや他の生徒を傷つけるような真似、あいつはしない……しないはず。たぶん……きっと……」
グリムの今後について、エースはもしかしてという話をあげた。
デュースは否定するも徐々に言葉尻が弱々しくなっていく。
そんなデュースをエースは不安を煽らせるなと小突いた。エースはさらに言葉を続ける。
「まあ、モンスターって猛獣だし、人里に出て悪さすればニュースにもなる。学園長の言うことにも納得」
「エ、エース…お前!」
「でも入学してから半年、ユウとコンビでなんだかんだ上手くやってたじゃん。………オレらともさ」
「………!」
『ふふ』
「エース……」
一瞬空気が凍り付いたがエースはとくに気にするでもなく、激怒しかけたデュースの言葉を遮った。
そのときのエースの表情は柔らかく、言い方にも先ほどの冷たさはない。
思わず[#da=1#]は微笑み、ユウは安堵したようにエースの名前を呼んだ。
デュースも真逆のことが返ってくるとは思っておらず目を見開くも、すぐに返事をした。
「ああ。他のクラスメイトとも、すっかり打ち解けてた」
「で、どうする?つーか、ユウはどうしたい?」
「……グリムに…直接話を聞きたい……こんなことでグリムとお別れは嫌だ…!」
『決まりだね』
「そうくると思った。んじゃ、パパッとあのバカを探し出しますか」
「だな!みんなより先にグリムを見つけて、1発シメたら話を聞こうぜ!」
「「『出た。エースの悪語録』」」
「えっ!?」
エースはグリムにとっての監督生であり、2人で1人の生徒であり、誰よりも寝食を共に過ごしてきたユウに判断を委ねた。
ユウの返答に3人は待ってましたとばかりに大きく頷く。
ここには自分だけじゃない。みんなもいる——そう考えながらユウは3人の姿を嬉しそうに眺めた。