5章
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この小説の夢小説設定物語の都合上、略した名前・略さない名前が2つずつあります。
ご自身の名前を使う際、ストーリー後半からになりますが
「主人公 名前」「主人公 名前略称」に登録すると読みやすいかと思います。
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「こんなところにいた」
『ずいぶん落ち込んでるね。エペルはここにいないか』
「優しいマネージャー様が、ドリンクを持ってきてやったんだゾ」
ポムフィオーレ寮の外には、遠くからでもわかるほどに落ち込んだデュースがいた。
グリムが誰かに飲食物をあげるのは、マネージャー業務とはいえ不思議な状況ではある。
「ユウ。グリム。エド…悪い、飛び出しちまったりしちまって」
「まったくなんだゾ。オマエらが大会で優勝してくれねぇとツナ缶富豪の夢がパァだ。だからエペルもオメーも、早いとこ立ち直って練習に戻るんだゾ」
「はは、ほんとグリムはブレないな。……羨ましいくらいだ」
グリムの言動は時折相手を怒らせてしまうことがあるが、今回は一緒にしんみりするよりもグリムのようなのがちょうどよさそうだ。
その2人の様子をユウとエディシアが静かに見守る。
続けてグリムは何故あんなことをしたのかと素直な疑問をぶつけた。
本人も良くないことだと認識はしていたようだ。
「中庭の井戸の前で出会ったときからずっとエペルのことがひっかかってて」
『中庭…ヴィルさんにボコボコにされたときか』
「ああ。……たぶん、僕とあいつは似てるんだ」
「オメーとエペルが?顔も性格も全然違うんだゾ」
「うまく言えないんだが、”変わりたいけど、変われない”っていうか…でも自分を変える方法がわからなくてジタバタしてるっていうか。あー、くそ。エースの言うとおりだ。僕はバカで要領が悪いから上手く伝えられない。悔しいな……」
〖VDC〗に応募をしないと言っていたデュースが、応募を決心するきっかけとなった中庭でのトラブルを話にあげた。
あれからエペルの様子が自分と重なって見えていたようで、結果ついヴィルに噛みついてしまったのだそうだ。
「その悔しさは、青春の甘い痛みさ!ムシュー・スペード!」
「どうしたどうした!?元気出せよ!」
「「「『うわっ!!??』」」」
デュースがうまく言葉で伝えられず悶々としていると、この場にいた人物以外の声が飛び込んできたことで4人の叫び声が響いた。
そこにはルークとカリムが立っていた。そろそろダンスレッスンが再開するため呼びに来たらしい。
しかしデュースは戻っていいものなのかと躊躇した姿勢を見せる。
「シェーンハイト先輩にも言われたけど、足を引っ張ってる自覚はあるんです。メンバーに選ばれたからには頑張ろうと思ってる。でも、このままじゃ…」
「うぬぼれてはいけない、ムシュー・スペード。キミたちはまだ、卵の中の雛鳥も同然。殻も破ってないうちから、自分の限界を決めてしまうのはナンセンスだ。美しい囀りも、山脈を飛び越える羽根も卵の中で蹲っているだけでは手に入らないよ」
「ハント先輩……」
ルークの励ましはデュースには少し難しく聞こえるかもしれないが、彼の心からの言葉が伝わったようだ。
まだほんの数日ではあるものの、彼がこんなときに心無い言葉をかけるような人物ではないことは合宿を通して全員知っている。
「…キミたちにも、卵の中にいる雛鳥にしかない鋭い卵歯…”パワー”が、きっとある。私は……いや、きっとヴィルも。楽しみに待っているんだよ。キミたちが、分厚い殻を破ってくれるのをね。それこそエディシアくんは作曲を通して殻を割ることができたんじゃないかな」
『相当苦労しましたけどね…おかげでまだまだ可能性があることを知れました』
「そうだよな、今回エドは得意なことを生かしてさらに頑張って伸ばしたんだよな……今の僕にしかない、強さって……うぅん……」
エースは要領の良さ。エディシアは芸術。ユウはどの環境や人にも溶け込める柔軟さ。グリムは不思議と嫌いになれない魅力。
よく一緒にいることの多いメンバーだけで考えても、みんなそれぞれに他より秀でた強さがある。
そんな中で自分は……とデュースがまた悶々と考え込み、ついに大きなため息をついて肩を落とした。
「………ダメだ。いくら考えても、少し足が速いことくらいしか思い付かない。頭も要領もよくない。僕のいいところなんて…」
「なぁ、デュース。お前、そうやって頭でいろいろ考えちまうから良くないんじゃないか?」
「え?」
「自分が馬鹿ってわかってるのに、なんでわざわざ脳みそ使って答えを出そうとするんだよ」
カリムのふとした疑問にデュースが目を丸くした。
さらにカリムは、「利き手と逆の手で字をかいて自分の字が下手だと叫んでいるようだ」と非常にわかりやすい例えをあげた。
「苦手ってわかりきってることをして、ダメな結果を自分に突きつけて落ち込んでるっていうか。そんなんじゃ、自分の良いとこなんか見えてこないだろ」
「フフフ、カリムくん。キミの瞳はいつも雨上がりの空気のように澄んでいるね。その真っ直ぐさ。その無垢なる輝き。まさしくそれはキミの強さだ。黄金の君」
「ん?オレ今、褒められてるか?サンキュー、ルーク!」
「カリムくんの言うとおりさ、デュースくん。キミの強さは、きっと”頭をつかうこと”ではないんだ」
「オレもよく考えなしだとか、能天気すぎるとかジャミルに言われるけどさ。落ち込んでも、食って寝て踊ればすぐに”なんとかなるさ”って忘れちまえる。それはオレの良いところだって、自分で思う。だからさ、ダメに感じるところにも、良いことはあるっていうか、上手く言えねぇけど」
「短所は長所になりえるってことですね」
『たしかに逆転の発想だよね。その人の性格や特技が長所と短所両方にあげられることもある』
カリムとルーク、2人の先輩が光のように照らし導いたことで状況が整理されてきた。
そしてデュースは何かを閃いたようで大きく目を見開き、先輩2人の顔を真っすぐ見た。
「………!!…そうか、そういうことか……!ありがとうございます、アジーム先輩。ハント先輩。僕、少しだけ見えた気がします!ユウとエドの言葉もヒントになったぞ。ありがとう!」
「おお?そりゃ良かった!」
「え、そう?なら、どういたしまして」
これから理想と現実のギャップにもがく自分とエペルはどうするのか。
その答えがわかればあとは行動あるのみだ。
デュースは最後に1つの質問をルークとカリムに投げかけた。
「この学園で、アレを借りられるところを知りませんか?」
「「アレ?」」
「「『?』」」
アレ、と聞いて上級生含め、デュース以外の全員が首を傾げた。