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序章

物言わぬ少女は、ただ累を見下ろした。
狂気に沈んだ瞳が少年を映す。表情をぴくりとも変えぬままに。
そして──彼の首に、ゆっくりと手を伸ばす。

「ッ!」
殺される。
よりにもよって、自らが呼び出したモノに。
命の危機を感じ、反射的に飛び退く。そして。
「やめろ!」
少女に向かって、怒鳴りつける。その意が通じたか、それとも勢いに臆したか。
彼女は、しばしの間目を見開き、驚いたふうであった。

「聞かせ──いや。答えろバーサーカー」
怒気を含んだ声で、累はバーサーカーに問い詰める。
「お前は俺を殺すつもりだったのか」
少女はふるふると、横に首を振る。
「殺すつもりはない、と。信用していいんだな?」
こくり。
「そんじゃあ、なんで手をかけた」
こてん、と首を傾げる。
「さっきのだ。忘れたとは言わせない」
気迫故か、それとも。少女は少しまごついてはいたが、しばらくすると少年の脚を指さした。
「……俺の、脚?」
あまりにも予想外の返答に、少年は少し間の抜けたような声を出す。しかし少女はそれを見向くこともなく、ふるふると否定した。
「じゃあ、お前のか」
こくり。
彼女は、まるで言いたいことは伝わったと言わんばかりに。ほんの少し、口角をあげる。
この返答に少し考え込み、少年はある結論を出した。
「……お前の脚が何かおかしい。そういうことか?」
少女は力強く肯定する。
「なるほど。それで動けない、と……ああ、なるほど、そういうこと」
少年はその答えに一人納得し、そして再度少女に歩み寄る。

彼はほんの少しの笑みをこぼしながら、こう言った。
「そういうことは先に言えっての。ほら、掴まれ。連れてってやるから」
と。

こうして、長い夜は過ぎていくのであった──。
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