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抑止の話

くら不測の事態だとしても、聖杯戦争には監督役がつくのがおきまりだ。
ならば、ここでくるりと視点を変えて。
一人の老翁の話をしよう──

神父は、頭を抱えていた。

聖杯戦争の監督役を任されたことについて、ではない。
第八秘蹟会の構成員であった以上、その仕事が回ってくるのは覚悟していた。
もちろん、それがいかに過酷で、老体に鞭を打つような仕事かということも、だ。

手元の飴に手を伸ばしながら、テレビを忌々しげに睨み付ける。
ちょうど、話題が切り替わったそのとき。

『速報:学園都市で行方不明多発、全容解明中』

割り込みのニュースが、淡々と原稿を読み上げる。
ぱきゃり、と飴をかみ砕く音が部屋中に響く。

──自在町じざいまち
本来は神在と当てるが、今となっては自在と呼んだ方がいいだろう。

何十年前までは田舎町だったのだが、今となっては学業に重きを置く学園都市として名を馳せている。
その名が有名になるにつれ魔術に触れることのない一般人もどんどんと移住、そこそこの大都市圏となってしまった。
魔術の秘匿の難易度が上がった、とも言える。

人が増えたことで、聖杯戦争のような大規模な儀式をしづらくなった、ということだ。
だからといって、簡単に取りやめられるようなモノでもない。
それができるのなら、十年前にやっている。

そこにきて、このニュースだ。

手の中に握られた新聞には、この事案のおおよその範囲が書いてある。
学園都市に到着する駅を中心として、おおよそ半径三キロメートルの円ぐらい。
電気や水道などは異常を検知せず、近隣駅が不審がっていたところで発覚。

異常の発生は、午後四時三十分。
多くの生徒が犠牲になったであろう、と心の中で追悼する。
そしてどうにかこれを秘匿せねば、という職務がのし掛かる。

学園都市周辺に住む魔術師は、一人だけ知っている。
しかし、この異常事態に何も連絡を寄越してこない。
そのことも手伝って、対応は後手後手に回っている。

噛み砕いた飴をすべて胃に押し込んで、便箋を手に取る。
この状況で唯一信用でき、安心して依頼をできる男へ。

原因究明と解決を丸投げいたします──
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