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序章

少年の話をしよう。
高校二年、学業より青春に重きを置く少年の話を。

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」
異様な暗がり、床にはおよそ正気のものとは思えぬ陣。
「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
不気味な静けさを、少年の声が払う。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
部屋は倉庫と言うより、地下室のそれ。
「──告げる」
風が入るはずのない構造だが、しかし。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯のよる辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ」
少年は風を感じる。その陣は真っ当な世界のそれではなく。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
その陣が赤色を示し、光源のない部屋に光がともる。
「されど汝はその目を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖をたぐる者──」
少年の体には熱がこもる。
「汝三大の言霊を纏う七天」
その熱に呼応するがごとく、光は強くなり、そして。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」
光は弾けた。

強い光は消え。生温く停滞した空間が、少年を再度包む。
先ほどまでとの違いはただ一つ。陣の中に、美しき少女が一人。
彼女はただ、少年を見つめていた──。 
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