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抑止の話

男は困惑した。
自らの主はおろか、自身以外のだれひとりとして存在しないことに。

暗室には不釣り合いな、派手な装いの少年だった。
赤い羽根付き帽を浅くかぶり、同じく赤いマントを纏っている。異国情緒溢れるターコイズブルーの瞳が、劇場を監視する。

「さて、どうしたものか」
エンドロールが終わり、わずかな光さえもが途切れる。
随分前に打ち棄てられたような、ちかちかと光る電灯のみが部屋を照らしていた。

じっとしているわけにもいかないから、と劇場を出る。
ぎぃ、と耳障りな音を立てながら、重い扉が開く。

──ただ、消滅を待つわけにはいかなかった。
抑止力の後押しを受けた以上、その任を遂行しないわけにはいかない。
何もしないというのは、それだけで職務怠慢に当たる。

ただし、問題があった。
何らかの任を受けたはずなのだが、さて何をやるべきか、というのがすっぽりと抜け落ちている。
これでは、果たす任務も果たせない。

仕方ないから、街に出ようと考えた。
街に出れば、何かしら分かるかも知れない。
一縷の望みに賭けて、家の群れをひょいひょいと飛び越えていく。

はてさて、鬼が出るか、蛇が出るか──
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