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幼馴染の話

嘘。
人なら、一度はついたことがあるだろう。

男は、その名を星峰稔という。いや、そういう名前で呼ばれたがっているといった方が正しい。
本来の名は──いや、不毛だ。男の名は星峰稔、周囲からそう呼ばれている。ただそれだけだ。

『学校には適当に理由を言っておいた』
そう、手持ちの携帯端末からメッセージを送る。相手は昔からの幼馴染、玉垣累。
生粋の魔術師相手にどうかとも思うが、まともに日常を送りながら、という制約の中ではではこうするしかない。情報化社会というのは不便なもので、真っ当に魔術だけをしながら生きることが難しいのだ。

とりたてて新鮮味のない授業を耳に入れながら、今度は念話で連絡を取ろうと試みる。
相手は自らのサーヴァント、ランサー。近くにこそいないが、魔力のパスはつながっているのだからなんとかなるだろう。

『……あ、繋がった。話していいかしら』
大人びた女性の声が響く。少し、現実の音声が聞きづらくはなるがそこはそれ。
『いいよ。それで、順調?』
集中を切ることなく、返事を返す。……本当に返せているのかは不安だが。
『もちろん。いい感じに人が集まっててなおかつこの辺で一番高い。ここまでの好条件、なかなかないわよ?』
問題はなかったようで、一切のタイムラグ無しに反応が返る。

……しかし、ほとんど田舎みたいなこの町で、一番高い建物といえば。それはもう、一カ所しかあるまい。
『……なんとなく察した。学校終わったら行くから、動かないで』
そうして、念話を切る。流石に慣れはしないが、便利なものだ。

授業が終わり、放課後のざわめきが学校を包む。
「星峰先輩、今日はどちらへ?」
相変わらず、朝にも出会った少年は忠犬の如く彼について行く。
「駅のアオバ。佳奈多は?」
先程ランサーの言った、高く人の集まる建物、といえば。
「僕も駅です。……その、ご一緒しても?」
「いいよ。コーヒー奢ろうか」
同行を許可する。できれば今すぐ帰れと念を押したいが、そう邪険に扱うこともできない。
「お言葉に甘えて。ありがとうございます先輩」
満面の笑み。ああ、なんて幸せな日常。ここに彼さえいれば、いいのに。

日が陰るまで、あと三十分──。
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