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幼馴染の話

──世界は緋色に、光は取り戻される。
影は光へ、光は影へ。
これは、どこまでも人間だったものの物語──

「おはようございます、星峰先輩!」
ある高校の一室にて、まだあどけなさの残る、身なりのいい少年が呼びかける。その手に、銀に光るモノを持って。
「おはよう、佳奈多くん。今日は随分早いんだね?」
穏やかな表情で、先輩と呼ばれた男は振り返る。男性の平均よりは長く伸ばされた髪は、差し込む光によって彩を増していた。
「ええ、ちょっと寄り道していまして。ところで、玉垣先輩は……」
少し言いよどんだ理由を察したのか、男は聞き終える前に返す。
「今日は休みだってさ。なんでもお兄さんが結婚式とかで、ロシアまで行くんだって」
表情をそのままに。真実であるかのように。

それこそ、会ったかのように。

「へぇ……すごいんですね、玉垣先輩。僕も行ってみたいです」
国内ならしょっちゅうなんですけど、と少年ははにかんだ様子で付け加える。

そうして、至極真っ当で穏やかに。
朝の刻は過ぎていくのであった──。
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