ゆめ微睡みのアリア
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度々同じようにして彼女が食べ物を持って訪れる時、少しずつたわいのないことを話すようになっていた。ボロミアは彼の生い立ちを軽く話し、また彼の国が美しい事を彼女にこう話した。
「私の国は多くの建物が白い建材で作られており、夜は月の光を反射して町中がとても美しく光るのです。高い所からその景色を見るとなんとも圧巻で、私は戦いに身を置く時もその景色を思い浮かべて糧にしておりました」
ボロミアは今もその景色を思い浮かべながら詳細に解説すると、彼女は大いに興味を示してくれた。
シリウルは何の話題でも旅の話を聞きたがる少女のように喜ぶので、彼はついつい饒舌になり、会う度にだんだん話すことが増えていき、ついには彼の生い立ち全てを話しきってしまうほどになった。
ただ、重症を負うきっかけとなった指輪の旅の話は一切していなかった。
ボロミアは旅の仲間の消息を、特にフロドの事を聞きたかったが、それには指輪の旅の本質の片鱗を見せなくてはならなかった。
信用していないわけではないが、守秘義務が課せられていたので、何人かで旅をしていて、仲間が連れ去られた、というようなことしか明かさなかった。
シリウルは彼の話を親身に聞けど、彼女から何かを問うことはただの一度もない。彼に言いたくないことがあるのを察してくれているのであろう。
彼女自身はもっと色んな事を聞きたいだろうに、彼にそんな素振りを見せたことはない。
そんな様子は、元から恩返しを何かするべきだと思っていたのもあるが、特にもっと何かをしてやりたい、という様な気分に陥らせるのだった。
なので彼女が物を運ぶのを手伝ったり、何かできることはないかと申し出てみたり、ボロミアは精一杯報いようと試みたが、ことごとく断られてしまった。
もとよりシリウルは何も求めてないのだから、無駄に何かを申し出ると逆に迷惑になる、等という複雑な出で立ちだった。
彼女に報いる事のあまりの難しさに、密かにボロミアはそれを難問とし、解くことを目的にして楽しみを見出していた。
その為にはまず相手を知らなければ、と思いボロミアは彼女にまた質問攻めをすることになるのだが、それも彼女に迷惑になるのでは?という認識は探究心によって消えていました。
とはいえシリウルは欠片も迷惑がることはなく、次はどのような質問が来るのだろうか、と心待ちにしている次第だった。
「……貴方はどれだけの時をここで過ごされたので?」
ただそう彼が問うと、彼女は少し困った顔をして曖昧な返答をした。
「さぁ、正確に数えたことは無いのです。ただ私が生まれたその時は、丁度離れ山の龍が打たれた頃合だと、かつて父は言っていました」
「……それでは貴方は少なくとも二回りは年上なのですね。やはりエルフは外見で判断しては行けない」
「私の様な混ざり者は、少なくとも百二十年程は生きると言われています。エルフ達にとっては大したものではないのですが、あなた方にはとても長い時に感じるでしょう」
「……ああ確かに、あなたの威厳がどうして形作られたのか、少し垣間見えた気がします」
ボロミアがそう返すと、彼女は切なく遠くを見るような表情をした。
そこから彼は次の言葉を探して黙りこくってしまったのですが、直ぐに彼女はボロミアに視線を戻すと、何でもなさそうに次の質問を聞いた。
彼女の様子が気になったが、ボロミアは話を続け、時間が来るまでずっと話し込んでいた。
シリウルは度々、こうした悲しい表情を浮かべることがあるだが、あまり関連性がなく、避けようとも未知数で出来ないというような状態だった。
それでもシリウルが何も望む素振りを見せないのなら、せめて彼女を楽しませようと、ボロミアは励んだ。
「___二割ほどは治っていますね、ここは包帯を取れそうです。それにしても予想より随分と早いこと、やはりあなたがお若いからでしょうか」
「西方の血を次ぐ人間としても、私の年はそう若くはないですよ。それに傷の経過が良いのは、どう考えても熱心に看病してくださったレディのお陰だ」
「では私は太陽とあなた自身の活力のお陰だと言いましょう。この調子なら、私が最初にいった月日よりも大分早く治りそうです」
「なんとそうですか!それは喜ばしいが…でも」
「?でも、とは」
「いえその、あなたに何も報いられないまま帰る事になってしまうのではないか、と思いまして」
ボロミアが正直にそう申すと、シリウルは軽快な笑いを響かせて、彼の手を労わるように撫でながらこう言った。
「そうですね……貴方が早く回復して、そうして長く生きて下さるだけで、私には不滅の喜びとなります」
それでは自分が得するだけではないか、とボロミアは更に悩み、どうすれば彼女に報いる事が出来るのか考えた。
すると妙案を思いついた。
まぁそれでも彼が受けた恩に比べると囁かな物だが、シリウルの意識を尊重した上でできる最善はそれだったように思えた。
ボロミアはこう言った。
「では貴方以上に彼の地でも貴方を思いましょう。貴方の家の平穏を、豊穣を、貴方の心に悲しみの陰りが入ることのないように」
言い終えるとシリウルに対して跪き、彼女の細くしなやかな手を拾って、その上に口付けた。
一連の動きを終えて彼女を見上げると、そこで初めて気づいたかの様に肩を跳ねさせ、頬を染めた。
珍しく動揺しているシリウルを見つめていると、彼女は直ぐにボロミアを立ち上がらせて、彼の膝に着いた砂埃をパッと払った。
そして今度は彼女が彼を見上げてこう返してくれた。
「貴方がそう望むなら、私は受けましょう。貴方の元にも同じくその全てがありますように」
そうして彼が見た中で一番美しく、暖かな笑みを見せた。
魅せられながらもボロミアは同意し、シリウルの腕をそっと抱いて引き寄せ、近くで見つめ合った。
その時は丁度日が一番高くなる頃合で、彼らの誓いを祝福する様に暖かく包み込んでいた。
