ゆめ微睡みのアリア
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それからもシリウルはずっと彼に付き添っていた。熱に魘される彼の身体を拭い、痛み膿んだ場所あれば膿を取り、また毒を浄化した。
こうして長い時彼を看病していてやっと、その若者は回復の兆しを見せたのだった。
度々若者は瞼を動かしたり、さも意識がある様な動きを見せたが、目覚めることはなかった。月の光の恵そのものが注がれた今もまだ、闇が彼を離さないのかもしれない。
彼の熱が上がり魘される度にまたシリウルは癒しのまじないを作り、それをまたこの様に唱えた。
ᚻᛖᛖᛚ ᚻᛁᛗ ᚹᛁᛏᚻ ᛏᚻᛁᛋ ᛒᚱᛁᚷᚻᛏ ᛋᚢᛅ ᚱᛁᚷᚻᛏᛋ
ᛗᚨᛚᚨᛞᚨᛅ‘ᛋ ᚳᚻᛚᛞ ᛏᚻᛁᛅᚨᛞᚨᛅ ᚹᛁᛚᛚ ᛒᛚᛖᛋᛋ ᚻᛁᛗ ᚢ ᛅᛏᛁᛚ ᚻᛖ ᚻᛖᛖᛚᛖᛞ ᚨᛅᛞ ᚻᛖ
ᚷᛖᛏᛋ ᚻᛖᚨᛚᛏᚻᚥ ᛖᛅᚩᚢᚷᚻ
我が頼みによって そなたに眩いばかりの月の恵みが注がれた
これによりそなたの傷は癒されん
マルアダンの子シンアダンは彼の者を祝福せん
その者十分に癒されるまでは祈り続けよう
シンアダンとは彼女のエルフ名で、シリウルがこれをまじないとして唱えるということは、宣言と同じ意味を持つ。
なのでこの言葉は彼女の決心を裏付けるものだった。
シリウルの気持ちが伝わったかのように、若者の吐息は安らかになり発汗量も減った。ここで初めて、シリウルは安心したように顔を綻ばせた。
シリウルは彼が目覚めぬ限りは彼が生き長らえたとは言えないと思い、熱心に看病を続け、昼夜問わず彼の様子を見に来て時に傍らで眠った。
ある日、疲れきって寝台に頭を載せただけの体制で寝てしまったシリウルの髪を恐る恐る掻き分ける手を感じた。
ぱっと気づいて飛ぶようにして起きると、病身であった若者がついぞ目覚め、彼女の事を不思議そうに見つめている姿が見えた。
「目覚めたのですね」
シリウルは嬉しそうな声色をそのままに、名も知れぬ若者に問いかけた。
意志を持って動くその身体は予想以上に威厳を持っており、また戸惑いが見られこれまた不思議な組み合わせをしていた。
うむむ、と唸るようにして悩むと若者は一言彼女に問いかけた。
「……ここは何処なのでしょうか」
それは当然といえば至極当然の疑問で、まだ起きたばかりなのでシリウルはまず水をついできて彼に飲ませました。
すると驚くべきことにその一杯で彼の乾きは満たされた。彼は水が入っていたコップを不思議そうにまじまじと見つめていた。
「お答えしましょう、人の言葉で秘めたる森、エルフ達にはドレン・グラドと呼ばれる場所です。あなたは長い黄泉の旅時を乗り越えました。こうして目覚めたからにはもう死にゆくことはないでしょう」
シリウルがそう説明しても、若者は反応が鈍く、か細い声でこう聞いた。
「それは……その、つかぬ事をお聞きしますがここは天国ではないのですか?」
そのちぐはぐな質問にシリウルは拍子抜けした。彼女の詳細な説明はどうやら、長い夜から起きたばかりの彼の耳を通り抜けてしまったようで、彼女は次の言葉に困った。
「いえ、あなたは現世に生きて帰られたのですよ。傷は多く、とても深い、また戦士として奮い立つ事は難しいやもしれませんが」
「…そうですか、帰ってきたのですか」
そう噛み締めるように言って目を閉じて、若者は言った。ゆっくり瞼を上げると、やっと真に目覚めたかのように目をギラつかせた。
「あなたはエルフの方なので?」
幾分か落ち着いた声で若者が尋ねた。これも少しずれた質問だが、シリウルはそのまま答えた。
「いえその、ただの混ざり者です。純粋な人間ではないのですか、エルフと言えるほどではありません」
「では名は?いや、名乗らぬ身の上で尋ねるのは不躾でしたね。私はボロミア、ゴンドールの執政デネソールの息子にございます」
そう言われてシリウルは少し驚いた。聞くところによれば彼はゴンドールの執政の子だと言うではないか。
彼女が助けた時確かに、彼は高貴な身分の者が着る様な上等な着物を来ていたのであるが、それほどとは思ってもみなかった。
とにかく名乗ってくれたからには、こちらも名を明かそうとシリウルは口を開いた。
「どうも親切に、私はこの館の前、主のマルアダンの子シリウルです。今のこの館の主でもあります」
「ではシリウル殿、ここはどういった所なのでしょうか?私は近くにロスロリアンに参ったことがあるのですが、ここにとても似ているように思えます。それ故にとても現世とは思えないのです」
「その見識は間違っておりませんゴンドールの殿方、この館は元はエルフが作り、所有していた物なのです。私は管理を任された者に過ぎませぬ」
「なるほど、ご丁寧にありがとうございます」
「いえ、お気になさらず。他になにか聞きたいことは?」
シリウルがそう言うと、ボロミアと申す若者は、一番に投げかけたい質問はなにかと厳選する様に考え込むと、顔を暗くして言った。
「今は何時で何日なのでしょう」
「見ての通り明け方から幾分か経ったところで、日にちは今日で三月三日になります」
「……なんと、一週間経っている」
「?ええそうですが、なにか心配事でも?」
そうシリウルが問うと、ボロミアは血相を変えて彼女に詰め寄った。
「ッ私の仲間が、仲間を見かけませんでした?彼らは小さき人、彼らが言うにはホビットという種族で、二人いて共々オークに連れ去られました!私は他に仲間が幾人かいて、またその者達を見かけたことは?」
「……いえ、あなたが告げられた様な者は全員見かけませんでした。更に言うとここのところオークでさえも、ここらを通っていないのです。そしてあなたの生存に気づかなかったのか、あなたは丁重に船に乗せて葬られていたのです。それを行ったのが誰かはまたわかりませんが、私はその船をそこの川で見つけて、また死にかけのあなたを見出しました」
「そうですか、そうでありましたか……」
「気を落とされぬよう、あなたの傷が良くなれば探しに迎えます。薄い希望でも持たなければ、救われる者も救われませぬ」
「ああ、わかりました。例え望みが薄くとも、彼らの無事を願うとします。あなたには多大なご迷惑をおかけしたようで、とても申し訳ない」
「いえ、私が勝手にやったことなのでお気遣いは結構です。それより今は、療養なさって下さい」
「……ああ、それもそうだ。暫くお世話になります、レディ」
精一杯の気遣いを含ませた言葉に、シリウルは微笑んだ。彼女はボロミアに一言断り、替えの包帯を取りに行く為に一度彼の元を離れた。
こうして長い時彼を看病していてやっと、その若者は回復の兆しを見せたのだった。
度々若者は瞼を動かしたり、さも意識がある様な動きを見せたが、目覚めることはなかった。月の光の恵そのものが注がれた今もまだ、闇が彼を離さないのかもしれない。
彼の熱が上がり魘される度にまたシリウルは癒しのまじないを作り、それをまたこの様に唱えた。
ᚻᛖᛖᛚ ᚻᛁᛗ ᚹᛁᛏᚻ ᛏᚻᛁᛋ ᛒᚱᛁᚷᚻᛏ ᛋᚢᛅ ᚱᛁᚷᚻᛏᛋ
ᛗᚨᛚᚨᛞᚨᛅ‘ᛋ ᚳᚻᛚᛞ ᛏᚻᛁᛅᚨᛞᚨᛅ ᚹᛁᛚᛚ ᛒᛚᛖᛋᛋ ᚻᛁᛗ ᚢ ᛅᛏᛁᛚ ᚻᛖ ᚻᛖᛖᛚᛖᛞ ᚨᛅᛞ ᚻᛖ
ᚷᛖᛏᛋ ᚻᛖᚨᛚᛏᚻᚥ ᛖᛅᚩᚢᚷᚻ
我が頼みによって そなたに眩いばかりの月の恵みが注がれた
これによりそなたの傷は癒されん
マルアダンの子シンアダンは彼の者を祝福せん
その者十分に癒されるまでは祈り続けよう
シンアダンとは彼女のエルフ名で、シリウルがこれをまじないとして唱えるということは、宣言と同じ意味を持つ。
なのでこの言葉は彼女の決心を裏付けるものだった。
シリウルの気持ちが伝わったかのように、若者の吐息は安らかになり発汗量も減った。ここで初めて、シリウルは安心したように顔を綻ばせた。
シリウルは彼が目覚めぬ限りは彼が生き長らえたとは言えないと思い、熱心に看病を続け、昼夜問わず彼の様子を見に来て時に傍らで眠った。
ある日、疲れきって寝台に頭を載せただけの体制で寝てしまったシリウルの髪を恐る恐る掻き分ける手を感じた。
ぱっと気づいて飛ぶようにして起きると、病身であった若者がついぞ目覚め、彼女の事を不思議そうに見つめている姿が見えた。
「目覚めたのですね」
シリウルは嬉しそうな声色をそのままに、名も知れぬ若者に問いかけた。
意志を持って動くその身体は予想以上に威厳を持っており、また戸惑いが見られこれまた不思議な組み合わせをしていた。
うむむ、と唸るようにして悩むと若者は一言彼女に問いかけた。
「……ここは何処なのでしょうか」
それは当然といえば至極当然の疑問で、まだ起きたばかりなのでシリウルはまず水をついできて彼に飲ませました。
すると驚くべきことにその一杯で彼の乾きは満たされた。彼は水が入っていたコップを不思議そうにまじまじと見つめていた。
「お答えしましょう、人の言葉で秘めたる森、エルフ達にはドレン・グラドと呼ばれる場所です。あなたは長い黄泉の旅時を乗り越えました。こうして目覚めたからにはもう死にゆくことはないでしょう」
シリウルがそう説明しても、若者は反応が鈍く、か細い声でこう聞いた。
「それは……その、つかぬ事をお聞きしますがここは天国ではないのですか?」
そのちぐはぐな質問にシリウルは拍子抜けした。彼女の詳細な説明はどうやら、長い夜から起きたばかりの彼の耳を通り抜けてしまったようで、彼女は次の言葉に困った。
「いえ、あなたは現世に生きて帰られたのですよ。傷は多く、とても深い、また戦士として奮い立つ事は難しいやもしれませんが」
「…そうですか、帰ってきたのですか」
そう噛み締めるように言って目を閉じて、若者は言った。ゆっくり瞼を上げると、やっと真に目覚めたかのように目をギラつかせた。
「あなたはエルフの方なので?」
幾分か落ち着いた声で若者が尋ねた。これも少しずれた質問だが、シリウルはそのまま答えた。
「いえその、ただの混ざり者です。純粋な人間ではないのですか、エルフと言えるほどではありません」
「では名は?いや、名乗らぬ身の上で尋ねるのは不躾でしたね。私はボロミア、ゴンドールの執政デネソールの息子にございます」
そう言われてシリウルは少し驚いた。聞くところによれば彼はゴンドールの執政の子だと言うではないか。
彼女が助けた時確かに、彼は高貴な身分の者が着る様な上等な着物を来ていたのであるが、それほどとは思ってもみなかった。
とにかく名乗ってくれたからには、こちらも名を明かそうとシリウルは口を開いた。
「どうも親切に、私はこの館の前、主のマルアダンの子シリウルです。今のこの館の主でもあります」
「ではシリウル殿、ここはどういった所なのでしょうか?私は近くにロスロリアンに参ったことがあるのですが、ここにとても似ているように思えます。それ故にとても現世とは思えないのです」
「その見識は間違っておりませんゴンドールの殿方、この館は元はエルフが作り、所有していた物なのです。私は管理を任された者に過ぎませぬ」
「なるほど、ご丁寧にありがとうございます」
「いえ、お気になさらず。他になにか聞きたいことは?」
シリウルがそう言うと、ボロミアと申す若者は、一番に投げかけたい質問はなにかと厳選する様に考え込むと、顔を暗くして言った。
「今は何時で何日なのでしょう」
「見ての通り明け方から幾分か経ったところで、日にちは今日で三月三日になります」
「……なんと、一週間経っている」
「?ええそうですが、なにか心配事でも?」
そうシリウルが問うと、ボロミアは血相を変えて彼女に詰め寄った。
「ッ私の仲間が、仲間を見かけませんでした?彼らは小さき人、彼らが言うにはホビットという種族で、二人いて共々オークに連れ去られました!私は他に仲間が幾人かいて、またその者達を見かけたことは?」
「……いえ、あなたが告げられた様な者は全員見かけませんでした。更に言うとここのところオークでさえも、ここらを通っていないのです。そしてあなたの生存に気づかなかったのか、あなたは丁重に船に乗せて葬られていたのです。それを行ったのが誰かはまたわかりませんが、私はその船をそこの川で見つけて、また死にかけのあなたを見出しました」
「そうですか、そうでありましたか……」
「気を落とされぬよう、あなたの傷が良くなれば探しに迎えます。薄い希望でも持たなければ、救われる者も救われませぬ」
「ああ、わかりました。例え望みが薄くとも、彼らの無事を願うとします。あなたには多大なご迷惑をおかけしたようで、とても申し訳ない」
「いえ、私が勝手にやったことなのでお気遣いは結構です。それより今は、療養なさって下さい」
「……ああ、それもそうだ。暫くお世話になります、レディ」
精一杯の気遣いを含ませた言葉に、シリウルは微笑んだ。彼女はボロミアに一言断り、替えの包帯を取りに行く為に一度彼の元を離れた。
